第19話 静かなる断罪
アルノの周囲の大気が、一瞬にして凍りついた。
それは温度の低下ではなく、肌を刺すような、絶対的な強者の殺気。エドワードが浮かべていた薄ら笑いが、その威圧感に引きつり始める。
「な……何だ、そのプレッシャーは……。ただの農夫ではないというのか!?」
アルノは答えず、ただ静かに、内なる魔力の奔流を解き放った。
(剣格闘士――オン。魔力回路――全開)
肉体を巡る魔力が限界を超えて加速し、視界に入る全ての情報がスローモーションへと変わる。
(魔剣格闘士(魔導格闘術)――オン。スライディング、浮き足、対空迎撃スキル――全方位待機)
エドワードが恐怖を打ち消すように杖を振り上げ、詠唱を始める。
「不遜な! 闇に飲まれて消えろ、この虫ケラがぁ!!」
杖から放たれた黒い魔弾がアルノを襲うが、彼は紙一重の回避すら必要としない。
(竜騎兵、竜騎士、そして――騎士、全システム・オンライン)
ドォォォォン!!
アルノの全身から、天を衝くような青銀色の闘気が噴き上がった。それはかつて王国を救い、伝説として語り継がれた「最強の騎士」の姿そのもの。
後ろで見ていたラッドは、その神々しくも恐ろしい気配に、腰を抜かして震えることしかできない。
「命を、循環を、塵のように扱うお前に、土を語る資格はない」
アルノが地面を蹴った。
一歩。ただの一歩で、数十メートルの距離が消失する。
「ヒィッ、来るな! フライ(飛行術)!!」
エドワードが慌てて宙へ逃れようと浮き上がる。だが、アルノはそれを見越していた。
対空スキルが牙を剥く。
「逃がすか。地を蔑む者に、空を飛ぶ権利などない」
空中で体を捻り、重力を無視した軌道でエドワードの頭上を取る。
アルノの拳に、圧縮された魔力が黒光りする「断罪の輝き」を宿した。
「俺を怒らせた報いだ。……さあ、その身をもって土の重さを知れ」
一撃。
それは魔術師の盾を紙細工のように粉砕し、絶望へと叩き落とす神速の拳だった。




