第14話 二度目の門、再びの喧騒
馬の足音に揺られながら、アルノは何度目か分からないため息を吐き出した。
視界の先には、活気に満ち、活気に満ちすぎていて今のアルノにとっては頭痛の種でしかない王都の正門が見えてくる。
「はぁ……」
「ため息ばかりだと運気を逃すぞ、アルノ」
隣を並走するセルマが、余裕たっぷりの表情で声をかけてくる。その涼しげな顔を見ていると、アルノの苛立ちは募るばかりだった。
「……きちんと説明しないお前も悪い。定期報告の義務なんて、昨日の今日で聞かされる身にもなれ。俺は今日、ナスの支柱を立てなきゃならなかったんだぞ」
「不貞腐れるな。そうだな……今度、王都で一番美味い飯を奢るから。それとも、埋め合わせに私と逢引でもするか?」
「……っ……冗談言うな!」
アルノは思わず声を荒らげ、顔を背けた。
冗談だと分かっている。分かっているはずなのに、昨夜の焚き火の前で感じた、あの胸の奥がチリチリとするような、どきりとした感覚が再び喉元まで競り上がってくる。
(こいつは……無自覚に言っているのか、それとも俺をからかっているのか)
動揺を悟られないよう、アルノは無理やり手綱を握り直し、馬を急がせた。
やがて、二人は冒険者ギルド「黄金の盾亭」の前に到着した。
重厚な木製の門を押し開けると、そこには昨日よりもさらに多くの冒険者たちが詰めかけていた。
「いらっしゃいませ。あ、アルノさん! 定期的に顔を出してくださって、ありがとうございます」
受付の女性職員が、満面の笑みで迎えてくれる。その笑顔は眩しいが、どこか「もう逃がしませんよ」と言われているような圧迫感があった。
(知らなかったとはいえ……まさか、こんなに頻繁に来る羽目になるとはな。俺の計画では、今はもう畑で昼寝をしているはずだったのに)
アルノが内心で愚痴をこぼしていると、ギルドの奥から雷鳴のような足音が響いてきた。
「アルノだと!? 来たか!」
ギルドマスターのボリスが、まるで獲物を見つけた猛獣のような勢いで部屋から飛び出してきた。
「お、おう……(勢いよく出てきたな、おい)」
「(相変わらずだな、ボリスは)」
アルノは引き気味に応じ、隣のセルマは苦笑いしながら肩をすくめる。
ボリスはアルノの前に立つと、その太い腕を彼の肩に回し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ガッハッハ! 昨日の今日でこれだ。やはりおめーさんは運がいい。銀等級の腕利きを探していた依頼人が、今まさに奥で待ってるんだよ」
「……おい、待て。俺は報告に来ただけで、依頼を受けるなんて一言も――」
「細かいことは気にするな! さあ、来い。おめーさんにしか頼めねえような、とっておきだ!」
アルノの抵抗も虚しく、彼はボリスの怪力によって奥の応接室へと引きずられていく。
「助けてくれ」という視線をセルマに送ったが、騎士団長は「頑張れよ」と楽しげに手を振るだけだった。
アルノ・ステルモのスローライフは、今日もまた、遠い空の彼方へと遠ざかっていく。




