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[魔女]と忌み嫌われ無理やり[ドラゴンの花嫁]に捧げられた薬草師の嫁入りセカンドライフ  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第2章 「新しい暮らし」

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・2-5 第12話 「新しい暮らし:1」

・2-5 第12話 「新しい暮らし:1」


 二人は、山脈を越えた先で見つけた古城で暮らすことを決めた。

 まず、人間社会との距離が十分に開いている。人間の力では踏破困難な山脈によって隔てられた先にあるから、きっとドラゴンハンターたちも容易にはここまでやって来ることができない。それに対し、二人には翼があるから、山脈を越えて麓の街や村と行き来するのに大きな不便はない。

 しかも、掃除をすればすぐに使うことができそうな建物があり、家具や食器などの生活用品もある程度は残っているのだ。

 城主の屋敷と隣接した馬小屋以外の建物の損傷は大きく、徒歩で城外に出ていくためには生えた木を切り倒し、瓦礫をどける、という、本来ならば大人数でやる作業をしなければ使い物にならなかったが、屋敷に面した庭園を掃除して平らにならしてドラゴンが離着陸できるようにしてしまえば、そんな手間のかかる仕事も不要となる。

 そういうわけでさっそく、キアラは生活する準備を始めた。

 屋敷の中をすべて確認できているわけではないのでとりあえず玄関ホールを仮の生活拠点と定め、そこの掃除から着手する。

 床面を出すために地層のように積もっている埃を屋敷の中で見つけた古びた箒でゆっくりと塵が舞わないように気をつけながらはき、当面必要と思われる範囲から一掃する。後はそこに持ち込んだ荷物を運び込んで広げ、生活空間としての体裁を整える。


「……よし! 」


 それから屋内を見渡した薬草師はそう言って気合を入れ、真剣な表情になって建物の奥へと向かって行った。

 掃除をするにしても効率的に行いたかったし、屋敷の全体がどうなっているのか、どこになにがあるのかを把握して、しっかりと計画を立てたいのだ。

 そうして探索を進めている間に、フェリクスはまた空に飛びあがり、上からこの周囲の状態を確認しに行っている。

 人間は住んでいなさそうだったが、本当に誰もいないのかどうかを確かめておかなければならない。それから、地形の詳細な把握。ここが本当に盆地なのか、実は谷になっていて外界へと続く通路があったりしないかどうかも明らかにしておきたかった。

 もし、山を越えずとも行き来できる経路があるのなら、いつかドラゴンを求めてハンターたちが姿をあらわすかもしれない。

 この古城は気に入っていたし、このまま住み始めたいと考えていたが、もし危険があるのなら、また一から家を探し直さなければならなかった。

 正午ごろ、キアラが手を止めて昼食休憩を取っていたところにフェリクスは戻って来た。


≪ここは、盆地ではない。谷だった≫


 悪い知らせだ。

 パンをかじる手を止めた薬草師は落胆しかけるが、すかさず、ドラゴンは言葉を続ける。


≪しかし、案ずることはない。谷の入り口は、完全にふさがれている。……おそらく、大昔に山の一部が崩れ、谷を埋めたのであろう。そこで谷に流れ込む雪解け水がせき止められ、この湖となったのだ。大きな岩とれきが厚く、険しく積もっていて、端は断崖となっている。自然に決壊する恐れはないし、人間が容易に超えて来られる地形でもない≫

「でも、大昔にこのお城を作った人たちは、どこから来たのかしら? このお城の造りは、湖があることを前提にしているもの。湖ができた後に作られたんだわ」

≪一部に、かつて縄を張って、断崖を登ることができるようにしていた形跡があった。今は縄も朽ちている。道の痕もすでにほとんど失われかけている。この谷は閉ざされていると言えよう≫

「なら……、ここに、住めるのね! 」


 明るい気持ちになってパっと華やいだ笑顔を浮かべたキアラに、玄関の扉から頭部だけを屋内に差し込んで会話をしていたフェリクスはうなずいてみせた。

 胸が弾む。

 やっと、自分たちの居場所を持つことができる。

 その喜びは徐々に大きくなっていき、大急ぎで昼食のパンを飲み込むと、薬草師は掃除を再開した。

 そうして初日だけでどうにか、これからここで暮らしていくことのできる最低限の準備を整えることができた。


「厨房にね、大鍋と、大きなかまどを見つけたの。昔、大人数の食事を作るために使っていたものだと思う。……お薬を作るのに、使えそうだったわ」


 翌日、キアラは昨日の昼と同じように玄関ホールに作った仮拠点で朝食を摂りながら、首だけ屋内に突っ込んで話を聞いてくれているフェリクスにそう切り出した。


「だからね、今日は少し、森の中を探してみようと思うの。それで、薬草を探して、お薬を作る準備をしたいの」


 彼女はちらり、と、自身が持ち込んだ大きなパンの塊を見やる。

 それはすでに半分が食べられてしまっていた。

 このパンを食べ尽くしてしまえば、もう、食べられるものが何もない。だからそろそろ、生計を立てることを考えなければならないのだ。

 ———ずいぶん昔に放棄された古城の中には、当然だが食べられそうなものはなかった。

 そこにはなにも食料はないと知っているのか、鼠の類でさえ住みついている形跡がない。

 ハムもチーズもとっくに食べきってしまっている。水だけは、そのまま飲めるほどに清潔なものが大量にあるが、それだけでは生きていくことはできない。

 森を散策し、食べられそうなキノコや野草、木の実などを見つけて、当面は飢えをしのぐことができるかもしれない。

 しかし、やはり慣れ親しんだパンを食べたかったし、他の、肉や野菜なども食べたかった。

 それを手に入れるためには、そういったものを生産している人々と取引をしなければならない。そしてそのためには、薬草を使って薬品を作り、売らなければならなかった。


≪よかろう。ならば、今日は森を探してみよう。……何を見つければよいのかを教えてくれれば、我も探すのを手伝おう≫


 こちらの事情を理解しているのか、フェリクスは二つ返事で同意してくれた。


「ありがとう、フェリクス」


 キアラは微笑みながら、感謝の言葉を告げる。

 自分も探すのを手伝う、と言ってくれたことが嬉しく、必ずここでの生活を成り立たせてみせる、と、あらためて気合の入る思いだった。


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