02 底辺の配信なんか見て何が楽しいのか
目覚めたら隣に見知らぬ美少女が! なんてこともなく、いつも通りの目覚めだ。グッモーニンクソ世界。
ちなみに夜は意外と平和だったりする。ちゃんと寝ないと翌日の生死に関わるからだ。
たまにやけっぱちにでもなったやつが夜這いに来るけど、弱ければ返り討ちにするし、強そうなら黙ってヤられて、その後逃げる。
冒険者の所在はスマホで管理されているので、底辺居住区内ならわりと何処に住むのも自由だったりする。いい物件は当然先客がいるけどね。
そう考えると、お金を払ってくれるだけあのオッサンは紳士なのだな。
朝食のフードブロックを臭い水で流し込んで、一応洗濯してある下着をつけて探索用の作業着的なものを着る。ちなみに血のシミがついてない服も下着ももう無い。
服を着たら装備チェックだ。ボロい支給品とはいえ、探索中に壊れでもしたら死活問題だからね。剣よし、盾ひび割れなし。防具、凹みはあるけど破損はなし。
じゃあ、今日もクソみたいな冒険の始まりだ。
★
ダンジョンのスタートは基本ランダムな位置に飛ばされるので、同業者とかち合うことはあんまりなかったりする。ついでにいうと底辺はパーティも組まない。十中八九、最終的に奪い合いという名の殺し合いになるためである。
クズは死ぬときもひとりだ。ニコニコダンジョンは、看取ってくれる相手もいない底辺へのせめてもの温情、と取れなくもないかもしれない可能性が微レ存。
しばらく探索していると、スマホが僅かに振動した。
確認すると、私がニコニコダンジョンの配信に乗っている通知だった。視聴者は3人ほど、コメントはなし。
若いだけが取り柄の底辺女の配信なんか見て何が楽しいのか。
あいにくだけど、むざむざとスナッフムービーを提供する気はないぞ。
別に気の利いたことや面白いことを言って盛り上げる義理もないので、そのままスマホを仕舞って探索に戻る。時折コウモリのようなキィキィとした鳴き声が聞こえるんだけど、天井を見てもそれらしい生物はいない。一般層がいくようなダンジョンだと吸血コウモリとかもいるらしいけど。底辺ダンジョンに住むのはゴブリンとかオークとかが精々である。あいつらでも比較的雑魚というだけで、油断すれば普通に死ぬけどね。
便宜上ゴブリンとか呼称してるけど、実際にこれが神話だか民話だかにあるゴブリンと同一存在なのかはわからない。黎明期には各国の神話や伝承が随分と研究されたらしいけど、結局「普通に暴力で殺せる」というのが分かったので、今では一部の学者とかもの好きが研究してるだけらしい。
おっと、オーク発見。数2。武器は両方とも槍。
オークは豚面のヒト型の獣。首から下は人間とほぼ同じらしい。骨の継ぎ目も、内臓の位置も同じ。解剖されたわけじゃないので、戦闘記録からくる推定らしいけど。性器の形状は知らん。
身長はだいたい160~170センチぐらい。体躯は一見デカく見えるんだけど、筋肉自体は少なくてほぼ脂肪だそうな。豚はむしろ筋肉質な生き物らしいので、あいつらを豚のバケモノと呼ぶには本職の豚に些か失礼かもしれない。あいつらは肉にもならないし。
オークの弱点は鼻だ。別に攻撃が確定クリティカルとかいうゲームみたいな話ではなく、単にデカくて狙いやすい上に骨が通っていないのである。だから刃が通りやすい、そして鼻を傷つけられればオークでなくとも大抵の生き物は怯む。怯んだらあとは目を突くなり喉を割くなりお好きなように。
とはいえ、体格だけはそれなりにデカいので、正面から鼻を狙うのは難しい。
なのでまずは背後から膝裏を狙う。膝裏は肉が薄いし、関節を破壊できれば一気にアドバンテージを取れる。しくじっても逃げられる算段がぐっと上がるし。
2匹同時に相手にするのは難しいので、岩陰に隠れて片方が離れるのを待つ。
オーク達は何かを探すようにキョロキョロとあたりを見回している。獲物か、それとも他の何かを警戒しているのか。一応周囲に目を走らせてみたけど、仲間の気配はなし。斥候かもしれないので、増援が来る前に叩く。
片方が離れた。それほど遠いわけではないが、槍の間合いでも即座に攻撃が届かない距離。ついでに仲間から目を離している。チャンス。
死角から足音を殺して忍び寄る。連中は鼻がデカいけど特に臭いに敏感なわけではない。臭いのはあっちもこっちも同じだ。
姿勢を低く、低く。すり足で間合いを詰める。いっちょまえにズボンを履いてるけど、どうやって調達したんだろう。オークの裁縫屋でもいるんだろうか。もうちょい。気付かれた気配なし、一足飛びで距離を詰められる位置、ここだ。
低い姿勢のままダッシュし、足首と膝を使って勢いをつけて膝裏を突く。強く刺す必要はない。肉を抉る程度に刃が通ったら即座に引き抜いて傷口を蹴っ飛ばす。蹴っ飛ばした反動を使って少しだけ離れる。
ブモォ!? なんてマヌケな声を上げて後ろに崩れるオークの鼻面に剣を振り下ろす。斬るというよりブッ叩くみたいな攻撃。肉を断つ感触が伝わる。もう一回振り下ろすとオークは反射的に顔面をおさえ、結果後頭部から倒れ込んだ。喉を裂いて、即座に相方に目を向ける。今のやつは、確認してないけどカランと音がしたので死んだだろう。次。
さすがに相方にも気づかれていたらしい。相手が槍を両手で持ち、腰溜めに構えて突進してくる。古のヤクザの突撃みたいなあの攻撃は、実は避けきるのは難しいし、正面から受けるとパワー負けして逆に倒される。
なのでギリギリまで引きつける。もうちょい、まだ……ここ。
あとほんの一瞬でも遅れれば当てられるタイミングまで引きつけて身体を捻って躱し、槍を殴るように盾を叩きつけて捌く。オークは別に達人でもなんでもないので、あっさりと体勢を崩した。ガラ空きになった脇腹に剣を突き刺し、捻って抉る。腹を抉るのは効果的だ。肉質の硬い部分でやると剣を痛めるけどね。
マヌケな悲鳴をあげるオークの鼻面をブッ叩き、動きを止めたところで喉を裂いてゲームセット。オークが粒子になって消え、魔石が落ちた。
ゴブリンよりは気持ち大きめかな、って程度の大きさ。
手早く拾い上げて、岩陰に隠れて一息着く。道のど真ん中で休むのはアホのすることだ。
魔石をバッグに仕舞いつつスマホを見ると、ニコニコダンジョンのコメントに「つまんね」とだけ吐き捨てられていた。リスナーは1人減っていた。
悪いね、クソみたいな生ではあるけど、まだ死にたくはないのよ。間引き対象のくせに生き汚い底辺なんて国にとっても一般国民様にとってもさぞ迷惑だろう。ざまあみろだ。
★
ゴブリンの目玉に剣を突き刺し、力任せに一気に押し込む。眼窩まわりの骨は硬いけどゴリ押しだ、死ね。そのうち、フッと手応えが消え、ゴブリンは粒子になった。
さっき奇襲で倒したのと合わせてこれで4匹目。
ただ今回はちょっとヘマして反撃を受けた。右の前腕に引っ掻き傷。とどめを焦ったのはこれが理由だ。ゴブリンの爪なんておおよそ衛生的ではないので、このままにしておくと化膿するだろう。
虎の子の消毒液を引っ張り出してちびちびと塗る。100ml程度の小瓶でも何日か分のアガリに匹敵するんだ。大事に使わなければ。
「いてて」
これだから剣なんて古臭い近接武器は嫌いだ。外国なら銃で済むのに。銃刀法なんてクソ喰らえだ。まぁ底辺は弾も有料だし、必然使える弾数なんて限られてるから、結局は近接戦闘に持ち込むらしいけど。5匹をそれぞれ1発で仕留めても赤字になるらしい。前言撤回、クソなのは底辺の仕組みそのものだ。
消毒と止血が終わったので少し休憩。怪我は体力も消耗するからね。体力大事。
間食のひとつでもあればいいんだけど、底辺にそんな余裕はない。空きっ腹を抱えてるのはいつものことだ。
それにしても、どうも妙な感覚がある。獣たちの注意力が散漫というか。いつもはこんなに奇襲が上手くいくわけじゃない。もっと泥臭い戦いがほとんどだ。群れで行動してる個体が少ないのも気になる。連中の巣があるらしい奥の方で何かあったのかもしれない。どうせロクなことじゃないだろうけど、危険の可能性があるのはこっちも同じ。警戒しておくに越したことはないかな。




