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元底辺冒険者だけど魔王の力で死に戻りしたので今度こそ幸せになりたい  作者: 針坂時計


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01 底辺冒険者なんてこんなもん

冒険者、なんて聞こえはいいけど、実態はただの日雇いの肉体労働者だ。

支給品のボロい剣と強化プラスチックの盾と防具を着けて、暗いダンジョンを彷徨い歩く。底辺に渡される剣は刃渡り30センチまでの中古品。いまだに銃刀法なんてものを掲げてる日本政府はアホだと思う。

そのアホ国家に使われてる底辺冒険者(笑)が私、斎藤瑠衣子なんだけど。


10数年だかぐらい前、人類がいよいよ地球を食い尽くし、途上国や後進国で資源や水なんかの奪い合いが始まり、宗教絡みの戦争のニュースが朝の番組の常連になって、先進国が宇宙開発に躍起になり始め、しかし成果が出せずに民衆から失望され始めたぐらい。そんな時代に現れたのがダンジョンだ。

突然発生する空間の裂け目の中に広がるダンジョンは明らかに空間が連続しておらず、一種の異次元、または異世界として扱われた。非科学的だ、なんて声も当然出たけど実際にモノがあるんだから仕方がない。

大事なのはダンジョンの中にはドラクエやFFに出てきそうな獣がいて、そいつらを殺すと魔石(命名したやつは日本のサブカルに毒されすぎだと思う)と呼ばれる石が落ちることだ。研究の結果、魔石は石油やガスなんかに代わり、かつ環境を汚染しないクリーンなエネルギー源として利用できることが分かり、各国で奪い合いが始まった。すぐに国連の主導で、発生した土地を所有する国家が管理権限をもつルールになったけど。国土の広い国はその分資源獲得のチャンスが増え、分裂とか内戦を繰り返してるような小国は滅亡待ったナシだ。食い扶持も減らせて丁度いい、と嘯いたコメンテーターはメディアから干されたらしいけど。



冒険者は3つの等級に分かれる。エリート、一般、そして底辺。エリートは国の主導のもと、潤沢な装備と統制された組織でもって、危険性が高いが魔石の採集効率のいい「儲かる」ダンジョンに。一般は市販の装備でエリート用以外の中級ぐらいのダンジョン、底辺は危険な上に効率の悪いクソダンジョン。獣自体は弱めだけど装備が最低限の支給品、もしくは死体から漁った盗品。

等級は納税額か魔石の納入量で決まる。底辺でもノルマさえクリアできれば一般に上がれるけど、大抵は途中でおっ死ぬから実質制度なんてないのと一緒だ。魔石があるとはいえ資源は豊かとは言えない。無駄飯ぐらいを養う余裕は人類にはないのだ。



LEDランタンの明かりを頼りにダンジョンを歩く。曲がり角はアンブッシュに注意、と。

底辺ダンジョンの作りはドラクエに出てきそうな天然洞窟みたいなそれだ。発見されたての頃はスクエニに問い合わせが殺到して大変だったらしい。スタッフはたまったもんじゃなかっただろうな。


なんてことを考えながら歩いてたらゴブリンを発見。140センチぐらいで緑色の肌、痩せた身体にポコンと出た腹、ギョロギョロと動く目。ゴブリンというより餓鬼のほうが合ってる気がする。

ラッキーなことにはぐれだ。おまけにこっちに気づいていない。群れから追い出されたか、迷ったのか。どうでもいいか。


ランタンを消してベルトに括り付け、剣を腰だめに構える。盾は正面に。胸から腰あたりまでしか隠れないけど、ないよりは断然マシ。

上半身をなるべく揺らさずに、足音を消してそろりそろり。呼吸は静かに、漏れ出た音を盾で殺し、死角から近寄る。殺し間に入るまでに目が暗闇に慣れますように、と祈りながら。

剣を持つ手は緩め。最初から力を入れすぎると逆に上手く刺せない、と気づいたのは何度目の反撃を食らった後だったか。

そろそろ間合いだ。相手はこっちに気づいていない。というか、なんかボーッとしてる。事情は知らないけど、大人しく殺されてくれるならどうでもいい。周囲に他の獣の気配なし。仕留めよう。

ダッシュして間合いを詰める。ゴブリンが気づいたけどこっちが詰めるほうが速い。体当たりするように強化プラスチックの盾でブン殴り、体勢が崩れた相手に体ごとぶつかるような勢いで剣を突き出す。狙いは目立つデカッ腹だ。


「ふっ」


インパクトと同時に握り手に力を込め、息を吐いて止める。斬る、なんて高等な芸は出来ないナマクラでも、突き殺すぐらいは出来る。

肉とハラワタを貫くズブリとした感触はいつまでたっても慣れない。


「ギャッ」


と呻いてゴブリンがのけぞった。剣を腹から抜いて、吹き出す血を盾でやり過ごしつつ首を突き刺す。骨を断つだけの威力はないので喉を突き破るだけだけど。

それがとどめになったのか、ゴブリンは粒子になって消滅した。カラン、と魔石の落ちる音が響く。粒子はサラサラと漂った後、溶けるように消えた。

ダンジョンで死んだ生き物は死体が残らず、変な粒子になって消える。獣も、人間も。この粒子がなんなのかはまだ解明されていない。一説にはダンジョンを運営(?)するエネルギーになってるんじゃないかって話もあるけど、未検証のままだ。


「ふぅ…」


軽く息を吐いて魔石を拾い上げる。女の手でも握り込めるぐらいの大きさ。わかりやすくクズ石だ。命のやり取りの代価として相応しいかと言えるかはわからない。どうせ底辺は魔石をどれだけ納入してもアガリの8割を税として持ってかれる。地道にやってればいつか一般に上がれる、なんて夢物語だ。クズの命はクズの価値しか無いってわけ。

このぐらいの魔石を5個集めればその日のノルマクリアになる。多く稼げばボーナスがつくけど、どうせ雀の涙なので誰もやらない。



この日は同じようなはぐれゴブリンを3匹、コンビを組んでた2体を奇襲で仕留めて終わった。



「おなしゃーす」


と受付のドロイドに魔石を渡してアガリをもらう。3日も貯めれば具無しラーメンぐらいなら食べられるかな、って程度の額だけど。

底辺の食事は配給品の、フードパウダーで出来たブロックと水が主体だ。フードパウダーは人体に必要な栄養素がまんべんなく配合されています、って謳い文句だけど何で出来てるかは知らない。考えないほうが気楽に生きられるだろう。オーガニックな肉や野菜なんて夢のまた夢。


底辺の居住エリアの片隅にあるボロいアパートに戻り、服を洗濯カゴに放り込んで下着姿のままブロックをかじる。不味い。ひたすらに不味いそれを変な匂いのする水で流し込む。お腹いっぱいにはならないけど、あんまりこれを食べすぎると逆に身体を壊すのだ。トイレに篭りたくなるレベルの腹痛を我慢しながらノルマをこなすあの地獄は二度と経験したくないよ。休日なんてものは底辺にはない。生存税は毎日収めるのが義務だ。


ギシギシと軋むベッドに寝転がってスマホを眺める。スマホはもう娯楽ツールと言うより生活インフラの一種だ。冒険者の管理もスマホで行うので、機能こそ必要最低限だけど、底辺にももれなく支給されている。ちなみに売り飛ばしたら問答無用で極刑になる。紛失したら弁償だけど、1000日分のアガリを注ぎ込んでようやく、なレベルだ。スマホはダンジョンに吸収されないので、遺品のそれを提出するとちょっぴりボーナスがもらえる。当然、殺して奪うやり方もある。底辺はいくら死のうとお構いなしだ。単純に効率が悪いからやるやつはあんまりいないけどね。

デバイスの形は色々発展したけど、結局昔ながらの四角いタブレットタイプが一番使いやすいってことになったらしい。


底辺のスマホで見れるのは冒険者管理組織からの連絡事項と制限だらけのネット、そして「ニコニコダンジョン」だけ。

ニコニコダンジョンとは、ダンジョンの出現と同時ぐらいにネットに現れた謎の動画サイトで、ダンジョンを探索している冒険者の様子を配信で見れる、というもの。誰が撮影してるのかは不明。どこぞのエリート様が解明しようと徹底的に調査したけど成果ナシ。結局よくわからんまま、娯楽としては優秀なので放置されてる。

冒険者以外の人間でも見られるので観光気分でダンジョンを眺めるもよし、エリートの華麗な活躍に胸を躍らせるもよし、底辺の惨めな死に様を見て嘲笑うもよし、だ。

視聴率の高い冒険者はボーナスが付いて、ダンジョンで豪華なアイテムを見つけやすくなるとかなんとか。私には縁のない話だ。


たまたま開いた配信で、どっかの底辺ソロがオーク3匹にボコられてハムにされてる(まぁ死体は消えるんだけど)のを見ながら最後のブロックを流し込んだ。人が死ぬ様を見ても何も感じなくなったのはいつ頃だったかな。

がちゃり、とドアの開く音がした。鍵なんて上等なもんはついてないセキュリティフリーな建物だからいつでも誰でも入れるんだけど。

入ってきたのは近所に住むオッサンだった。名前は知らない。なんだかんだ長いこと生き残ってるしお金も持ってるから、それなりに優秀な人なのかもしれない。


「どうだ?」


とお金を見せてきたので、いいよと返事する。

オッサンが靴と服を脱いでる間にスマホを枕元に放り投げて下着を脱ぐ。

ムードもなにもなくのしかかってきたオッサンは、いつも通り獣みたいな臭いがした。




コトが終わって身支度を整えるオッサンを眺めながら、そういえば父親も生きてればこれぐらいの年齢だな、とふと思う。

父親は随分前に死んだ。

ダンジョン発生前は世界中が不景気にみまわれていて、雇用法も実質形骸化していた。父も例に漏れずリストラされては転職してまたリストラされ、を繰り返していた。ダンジョンが現れた後も、古い産業は時代に取り残され、衰退の一途を辿っていた。そして、父親の生業はその古い産業だった。

何度目かのリストラのあとに


「父さんな、これから冒険者で食っていこうと思うんだ。もう凄い装備も揃えたんだ」


などと宣って、同じくリストラされたオッサンたちとパーティを組んでダンジョンに挑み、初回でオークの群れに突撃してあっさり全員返り討ちになった。死に様はニコニコダンジョンで配信され、愚かな雑魚ども、として笑いものになった。装備は詐欺師が用意した値段に見合わない粗悪品だった。

心配して配信を見ていた母は発狂し、酒とクスリに溺れ、やがて夜の街に消えた。

残された私は頼るべき親族もなく、こうして底辺冒険者としてなんとか生を繋いでいるってわけだ。

まぁこんなのは、わりとどこにでもある、ありふれた話だ。


何も言わずにそそくさと出てったオッサンを見送って、枕元のお金を数える。肉無し青椒肉絲(ピーマンの出どころは不明)ぐらいなら食べられるかな、って額。母はいくらぐらいでカラダを売ってたのかな、と考えかけて止める。どうせロクな結論にならない。母と同じにはなるまい、と決意して冒険者になったのに、結局母と同じことをしている自分に笑ってしまう。


夜も更けてきた、このまま寝ちゃおう。シャワーなんて贅沢品はない。レンタルだと10分で3日分のアガリが飛ぶし。どうせ底辺エリアにいる連中はどいつもこいつも臭う。というか底辺エリアは全体的に臭い。つまり、誰も気にしない。


明日は楽に稼げるといいな、なんて考えつつ目を閉じた。

眠りに落ちたのはそれから何時間もたった後だったと思う。

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