表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

蕗子

「あ、来た来た」

 奈津がうれしそうな顔をして、現れた女子をお出迎え。

「4組の美作蕗子(みまさかふきこ)、あたしの幼なじみ」

 ぽっちゃりした女子を見た。白い肌に柔和な表情をしている。

「はじめまして」

 どこにも嫌味のない挨拶をされた。初対面でこんな自然な態度を取れる子はうらやましい。

「この子、野球部マネージャーの鳴尾浜桃子さん」

「はじめまして」

 わたしはぎこちなく頭を下げた。


「蕗子、これ、ちょっとやってあげてくんない? この子、あんまり得意じゃないみたいなのに、無茶振りされて、かわいそうなんだ」

「奈津から無茶振りされるわたしはかわいそうじゃないの?」

 蕗子は微笑を浮かべている。

「人は助け合ってゆくものよ。得意は人のためにあるんだよ」

「奈津の得意は、いつわたしに恵みを与えてくれるのかしら?」

「なに言ってんの。今こうやって蕗子の得意を引き出す機会を作ってあげてんのよ。これまでどんだけ機会をあげてんだか、蕗子、感謝しなさい」

「ほんと、素敵な幼なじみに恵まれて幸せだわ」


 蕗子はわたしに顔を向けた。自然な笑みを湛えながら、両の掌を見せた。ふっくらとした愛らしい掌だった。

「ちょっと貸してもらえます?」

 汚い衣料を手渡すのは躊躇われたけど、わざわざ来てくれたので甘えることにした。

 蕗子は、裁縫道具と当て布を受け取ると、裂けたところを縫合してゆく。指の動きが速い。最後に裏から当て布を縫いつけた。

「はい、これでいいですか?」

 汚いズボンを畳んで手渡してくれた。きれいに縫えている。

「あ、ありがとう」

「さっすが蕗子、やっぱ、あんたいいお母さんになれるよ」

 奈津がどんと蕗子の背を叩く。

「いつもそればっか」

 蕗子は「じゃ」と笑みをわたしに向けてから、戻っていった。


 昼休み終了のチャイムがのんびり流れた。蕗子が縫ったズボンの持ち主は、他の野球部員と一緒に、汗ダクダクで帰ってきた。午後イチの授業が終わってから預かりものを持ち主の元へ返す。

「え、もうできたの?」

 坊主頭は目を丸くした。

「さっすがマネージャー、助かるわあ、実際!」

 長身をコメツキバッタのようにして、過剰なまでの謝意を示した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ