野球部というところ
野球部の朝は早い。
7時半から練習がはじまるということは、それまでに準備が終わっていなければならず、7時には学校に着いていなければならないということだった。となると、わたしは家を6時に出ることになり、5時には起きなければならない。
学校に着いて、体操着に着替えると、待っているのは重労働だ。
「むんっ」
腰を落として、足を踏ん張り、可動式のネットを動かす。
「ふんっ」
ボールの詰まったカゴを持ち上げ、ピッチングマシンやバッティングピッチャーのところまで運ぶ。
「モモちゃん、けっこう力あるねえ」
さくらさんはそう言ってくれるけど、先輩の手際のよさと力強さは新入りの比ではない。
運動部にいて体力には自信があったはずなのに、息を乱すことなく、てきぱき力仕事をこなす先輩女子には明らかに見劣りする。小柄でベビーフェイスの梨花さんだって、重い荷物をひょいひょい抱えている。
朝は時間が経つのも早い。
ホームルームがはじまるのは8時40分だから、練習が終わり、後片付けとグラウンドの整備、着替えを8時半には終わらせなければならない。実質、練習できる時間は1時間もなく、バッティング練習だけで終わってしまう。
部員たちが可動式ネットの片付けやらグラウンド整備をしている間に、わたしたちはボールなど道具を片付ける。汚れすぎたボールは別のカゴに分けておく。これは午後にも洗わねばならない。
まだ4月の朝で気温もそんなに上がっていないのに、後片付けが終わる頃には、体操着はぐっしょり汗と砂塵にまみれている。
こんな調子じゃ、体育の授業は、最初からひとり汗臭くなった体操着を着てくことになるんだろうな。
ため息しかない。
「夏とかって、替えを用意したほうがいいですか?」
さくらさんに聞くと、「そうね、二枚くらいあった方がいいかもね」と返された。
あと4分でチャイムが鳴る。
マネージャー室を飛び出すと、バタバタ校舎内を駆けた。
双翼は敷地が広い。
普通の学校の倍はある。
野球部はその東端にあって、わたしのクラスはほぽ西端。全力で走っても、教室に入ったときには、チャイムが鳴り終わろうとしていた。
また汗をかいた。
制服まで汗臭くなりそう。