グラウンドへ
音楽科の演奏に包まれた厳かな入学式とともに、わたしの高校生活がはじまった。
県立双翼高等学校。
文科、理科、体育科、美術科、音楽科の五科から成る専門科の集合高校。
わたしは文科。英国社が重視される点数配分が、数学ぎらいのわたしには好都合だった。
専門科ごとにクラス分けされるのは2年生からで、1年生は五科がごっちゃになって各クラスに分けられていた。
個性的な生徒が集まる、とは聞いていたけれど、なるほど色がまったく違う。
文科はほとんど女子で、2年生以降のクラスでは、ほぼ女子高状態になるはずだ。対する理科はインテリっぽい男子が多くて、女子は2割ほど。体育科はムダに元気がいいって感じで、男子比率が高い。美術科は独特な雰囲気の子が多く、ほとんどが女子。音楽科は揺るぎない自信に満ちあふれてるって感じで、これまた女子がほとんど。全体では4対6で女子が多いって感じかな。
かわいい制服は、学校再編のときに、美術科の生徒たちがデザインしたらしい。男子は詰め襟、女子はセーラー服というトラディショナルな制服スタイルを踏襲しつつ、品があって飽きの来ないデザインにしたという。男女とも、スクールカラーのネイビーブルーを基調に、男子の詰め襟にはカラーがなく、凝ったデザインの校章が入ったボタンがアクセント。女子のセーラーには鮮やかなスカイブルーのラインが入り、同じスカイブルーのスカーフと、背に入った校章がアクセントになっていた。
シンプルながら、この秀逸なデザインを考案した高校生って、どんなに凄いんだろ?
今、同じ教室にいる中にも、驚くような才能の持ち主がいるかもしれない。
クラスの中には、どう見ても野球部の坊主頭が二人いた。いずれも体育科の生徒たち。
あの子たちとこれから関わり合うんだ。と思うと、見つめてしまう。
オリエンテーションで部活紹介があった日の放課後。わたしはひとりグラウンドへ向かった。
野球部はグラウンド東端で練習すると聞いている。グラウンドに面する校舎の裏側から歩いてゆくと、木々の向こうに白いユニフォーム姿が見えた。
少し緊張する。
どう挨拶すればいいんだろ。ストレートに「あのう、マネージャーになりたいんですけどぉ」がいいのか、「野球部に興味あってぇ」がいいのか、よくわからない。あれこれ混乱しながら歩いていたら、突然、大きな声がした。
「そこの女子」
声の方向を向くと、白いユニフォーム姿。どう見ても野球部の部員だ。背は高くも低くもない。今、声かけられたのって、わたし?だよね? 周囲に女子はいない。
「あ、はい」
「どこ行きたいの?」
どこ? 野球部だけど、どこ行きたいと聞かれると、どこって言えばいいんだろ? まごまごしてると、ユニフォーム姿がまた口を開いた。
「部活見学っしょ?」
「そうです」
「どこの部?」
「どこ。。野球部に」