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どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜  作者: 餅々
1章 最初から積んでる絶望的な状況で生きようなんて誰が思いますか?
9/20

どんな顔をすれば良いのやら……

 そうして――作業を進めていると、あっという間に開店の時間になっていた。

 それは朝でもなければ昼でもなく、かと言って夕方でもない絶妙な時間だった。

 そして直後、区画いっぱいに軽やかな音が響き渡る。

 

 ――カラン、カラン!!

 

 その正体はベルの音だ――広げられたテントの前に立ち、ライラが割とノリノリでハンドベルを鳴らしているのである。

 それで道行く天使達はその音に釣られて売店の方を見た。

 ある者は、ああいつもの時間かと、何でもなさそうな顔をし、またある者は興味深そうにライラの姿に首を傾げる。

 騒がしい割に新人だから、彼女は顔がそこまで広くない。

 珍しい奴がいる……誰? と訝しがっている彼らに、店主のハナビが大声で呼びかけをした。

 

「さぁ、開店、開店でござるよー。古今東西、色んな場から集めた珠玉の商品がずらりにござる! そこの兄ちゃんも、そこのお姉さんも、近くによって、見て行くでござるよー!」

 

 ――カラン、カラン!!

 

 またも続くように鳴り響くベルの音。

 ライラは生まれて初めて楽器に触れたので、音が出るだけでテンションがぶち上がる。

 よせば良いのに、新しいおもちゃを与えられた子供のように、滅茶苦茶にベルを振り続ける。

 

「すご〜い!!」

 

 とかなんとか言いながら。

 その度にカランカランと音が鳴り、そろそろ過剰になってきたので、ハナビからベルを取り上げられた。

 

「ストップ。ここまでにござる」

「え〜」

「元々開店を知らせるためのものでござる。後は声を出すだけで充分でござるよ」

「むぅ〜……ちぇっ……分かったわよ! ちぇっ……」

「舌打ちしない!」

 

 何故だか今日のハナビはいつもより説教臭かった。

 ……仕事中だからだろうか?

 

(ちぇ〜。楽しかったのに……)

 

 そうやって心の中でぶつくさ文句を言いながら、ライラはムッスリとなる。それから仕方がないと割り切ること少々。

 慣れないながらも、どうにか声を張り上げる。

 

「えーと、安いよ、安いよー。誰でも良いから寄ってってー!」

「うわ、めっちゃ棒読みにござるな……でもその調子でござるよ。さぁー、今日も新しい商品が目白押し。今週のラインナップは……」

 

 と――二人して呼び込みを続けるライラとハナビ。

 時折漫才地味たやり取りもするのでなかなか目を引くが、勿論、大半は素通りだ。

 いくらツヴィウル砦が僻地と言っても、最低限の業務は割り振られている。

 それなりに忙しい天使達は、廊下をえっちらおっちらと行き交い走り回っている。その他の非番の奴らはそもそも別の場所で駄弁っているだろう。

 というわけでしばらく誰も来なかったが……一時間が経過し、そろそろ飽きてきた……というところで、ようやく売店の前に一人だけ人影が立ち止まった。

 

「あ、あの〜……すみません」

 

 そうやって話しかけてきたのは、気弱そうな成人の天使だった。

 クリーム色の髪を横に流していて、黒い瞳が自信なさそうに揺れていた。

 そんなおどおどしたお客さんにも関わらず、すぐさまライラはバッと反応し、わざとらしい笑顔を浮かべ、ぐいぐいと迫る。

 

「あ、らっしゃいませ!? いらっしゃい!? ようこそお越し下さりまことにありがとうございます!? 当店で何をお求めに――」

「ちょ……ち、近い……!」

「あ」

 

 思わずといったようにその天使が引いたので、ライラもまたやっちまったと、ちょっと下がった。

 こういうのはいけないんだと、ニニの件で反省したばかりだというのに。

 タハハと笑えども、ハナビの視線が突き刺さる。反省してんだから責めないでよ……と思うライラである。

 だからこそ、ごほんと気を取り直すように咳をし、改めてお客さんに向き直って――その顔に見覚えがあることに気が付く。

 

「って、あれ、教官じゃない!? 何でこんなところに!」

 

 ここでまさかの教育係の天使の登場だった――目を見開くライラを他所に、ハナビは何でもないような顔をしている。

 どうやら知り合いらしい。

 

「そりゃまあ、“彼女”は常連でござるからねえ。……そう言えば今期の教育係だったでござるな。すっかり忘れていたでござるよ、フィルルカ」

 

 そう呼ばれた教育係の天使――型番Lensvalt-mX-790、フィルルカは、苦笑いのようなものを浮かべた。

 

「あーうん……お恥ずかしながら……」

 

 どうやら彼女としても、ライラがいたのは想定外だったらしい。といっても、こっちもこっちでびっくりだ。

 特に普段とは様子が違うから結構な違和感がある。

 

(何でコイツ全然性格違うのよ! て言うか、コイツからは散々偉そーに説教されたのよねぇ。顔を見るだけで腹が立つわ!)

 

 ふとライラは怒られた時のことを思い出し、自業自得のくせに内心で毒付いた。

 胸の奥がグルグルする。

 とは言え、これはこれでやりにくい。

 試しに「今までのは演技だったんですか?」などと、ど直球に失礼なことを聞けば、「威厳を保つのは大変なんだよ……」と返されてしまった。

 ほーん、そんなものなの? とライラは不思議に思う。

 大人の天使は大変らしい。本来の性格を隠して偉ぶるくらいには。

 ……まあそれはそれとして、ムカつくことに変わりはないが。

 

「で、今日は何をお求めにござるか?」

 

 と、とりあえず店主としての仕事をしようと、ハナビがバッチリと営業スマイルを浮かべ、フィルルカに聞いた。

 フィルルカは緊張したように深呼吸をし、意味深気にスッと両手を差し出して。

 

「例のアレを……」

「フィルルカはやはりそうでござるよね」

 

 するとハナビはそれだけで、彼女が何を求めているか大体察したらしかった。

 ライラにあるものを取ってくるように言う。

 ライラは「へいへい」と相打ちを打ちつつも、テントの奥へと向かい、小さな水晶片を手に戻ってきた。

 

 それは魔結晶と呼ばれる、その名の通り魔力が凝固した代物である。

 星のエネルギーをストックしておく他、情報を蓄積する記録媒体としても用いられており、この魔結晶にも、色々と映像媒体が刻まれているらしい……が、生憎、ライラはまったく興味がない。

 そのため事務的に魔結晶をフィルルカに渡しながら、「三千KPです」と値段を告げると――

 

「う、うおおおお……こ、これが最新作ッ! 重みが、オーラが、違うぅううううううう……!!」

「へ?」

 

 突如、何故だかおどおどした態度から一転、妙に震え始めたので、ライラは一歩下がった。

 彼女にしてはマジのガチビビりだった。ドン引きだ。

 そうしている内に、えぐえぐと嗚咽を漏らし、フィルルカは天に祈りを捧げ始める。

 

「生きてて良かった……か゛み゛さ゛ま゛あ゛り゛が゛と゛う゛ッ!」

「か、神様……!? 一体どうなってるの!?」

 

 思わずハナビの方に縋り付くように聞けば、彼は真顔でこう言った。

 

「フィルルカはオタクでござる」

「は? オタク?」

「その魔水晶に記録されてあるのは、ハート❤︎エンジェル★ドッキンコ〜真夏の夜の淫夢のひと時〜(ラブリーフラッシュ&ダークスプラッシュの恋の始まり編、ウッフンアハーン♪ぱ〜と8!)でござる。要はエーブ……いやエロ……いや……大人向けのイチャラブアニメでござる」

「今ガッツリ、エロって言わなかった?」

「……」

 

 ハナビはエロという言葉を無視した。

 

「とにかくふざけたタイトルからは想像がつかないくらい、中身は名作でござるよ。まさにファンタスティック&スペクタクル。どんでん返しにまさかの伏線回収、コクのある恋愛描写、別れ、出会い……はちゃめちゃなのに何故か目が離せないという怪作でござるね。作者はおしべめしべ。あのサマーダイブラブリーボンバーや珍宝★館を書いた大作家でござるよ。有名でござるよね」

「いや知らんがな」

 

 そんな当たり前だよね、みたいに言われても。

 もうどっから突っ込んで良いか分からない……。

 

「そんな訳で、一部熱狂的なファンがいるんでござるよ。フィルルカはその中でも重症でござるよ」

「……でしょうね」

 

 確かに未だ感激で泣いているフィルルカはどう取り繕っても変質者以外の何者でもない。

 正直、こんな一面、知りたくもなかった。この後どんな目でこの教育係を見たら良いか分からない。

 

「いやあ〜……ほんっとうにありがとうございました! これで半年……いや二年は寿命が伸びます! 流石非合法ルートを持っているだけありますね……!」

「ぐふふ、それ程でもないでござるよ。何より本作者直々に届けてもらえてるでござるからね。あのフクロウの使い魔はすごいでござる……」

「先生は強いですからね……ふふふ!」

 

 そして、そうやって笑い合うハナビとフィルルカは、何だかとても怖かった。

 それから互いにコードを伸ばして接続し、KPと呼ばれる電子マネーのデータの受け渡しを完了させると、そこでようやく、クリーム色の髪の天使はこちらを向いた。

 

「……あ、そうそう二十一番……じゃなくって、ライラ。流石に恥ずかしいんでお前、このこと周りに言ったら、訓練の成績減点だから……そこのところ……よろしく」

「ちょ、待ちなさいよ! それって職権濫用じゃないの! そんなの――」

「じゃ、そういうことで」

 

 が、呼び止めようとしたのも束の間、そう言い切ると、フィルルカは「いやっほう!!」と叫びながらぴゅーんとその場を去っていった。

 

「……」

 

 後には勿論、地獄のような沈黙が降りてきて。

 ハナビが横目で、どうすんの? と問いかけて、ライラはむしゃくしゃしながら頭を抱える。

 そもそも誰が好き好んで教育係の恥部を語らなければいけないのか。

 そんなことをして万が一同期から「え、じゃあお前もそういうの見たことあったりするんじゃない?」とか言われたら耐えられない。

 妙なところで変な常識がある彼女は、絶望にも似た思いに駆られ、うぐぉ〜と呻く。

 ただしはっきりと言えることが一つだけ。

 

「アイツ嫌い!! 大嫌いよー!」

「まあ良い性格してるでござるからね」

 

 何故だか同意を示されてもライラはまったく嬉しくなかったのだった。

ざっくり設定9

フィルルカ

型番Lensvalt-mX-790。レンズヴァルト駐屯基地出身。名前の由来はレンズヴァルト→レンズ→連想ゲームでフィルム→フィルルカ。映像媒体を好んで見ている。ニニ達の教育係を務めている天使でもあり、ニニは誤解していたが、実は自称している性別は女性。性格も尊大ではなく若干自信なさげで、普段は頑張って演技をしているだけ。そもそも一年も生きておらず面倒な仕事を押し付けられただけの新人なので、心労はかなりあるそうな……。一方でエロアニメを趣向している重度なオタク。上司に振り回された疲れでおかしくなった。エロを見ている間だけ心が安らぐ。悲しい。


魔結晶

その名の通り魔力が固まってできた結晶。

エネルギーを貯める他、情報を蓄積する性質を持つ。情報室のクリスタルの材料がこれ。割とそこら辺に転がってる。


KP

天使達が使用する電子マネー。カネ•ポイントでKP。働いていたら普通に支給される。


ハート❤︎エンジェル★ドッキンコ〜真夏の夜の淫夢のひと時〜(ラブリーフラッシュ&ダークスプラッシュの恋の始まり編、ウッフンアハーン♪ぱ〜と8!)

大人向けのイチャラブアニメ……件、エロアニメ。作者はおしべめしべ。タイトルからは想像がつかないほど笑いあり、涙ありの、大長編作品。

とある二人の天使をモデルに、戦争に翻弄されながらも愛し合う恋人を描く。現在続編制作中。

非合法ルートという名の作者の使い魔のフクロウから届けられており、それ相応の金のやり取りがあると思われる。尚、渡す際はフクロウが魔結晶を直接吐き出す仕様になっている。……ファンはそのことを決して知らない……。

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