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どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜  作者: 餅々
1章 最初から積んでる絶望的な状況で生きようなんて誰が思いますか?
8/20

すべてが運で決まる世界

「まあでも、弟君の気持ちは、分からんでもないでござるなァ」


 と――開店の準備を始める灰色の髪の天使、ハナビはふとそんなことを言った。


「?」


 それに同じく区画の隅で商品を広げていた少女の天使、ライラは顔を上げる。


 ――ここはツヴィウル砦の端に位置する場所だった。

 人通りも多く、かと言って本部から少し距離があり、複数の通路が交わるので渋滞も起きにくいということで、ハナビの売店はいつもこの場所で開かれていた。

 それは、一見するとテントのように見えるだろう。

 複数の生地を貼り合わせて出来た大きな布を、骨組み代わりにパイプで固定し、更に床には別のボロ布を敷いて、その上に商品を並べていく。

 これが地味に細かな作業で、値札が見えるようにしなきゃいけないとか、種類がパッと分かるようにしなきゃいけないとか、いくつも守らなければならないことがある。

 商品のラインナップは様々で、漫画、ブロマイド、ちょっと大人向けの(アハ〜ンな)小説、その辺の綺麗な小石、花束、楽器、その他etc.……。


 どうやって集めてきたんだ? とぼんやり思いつつ、ライラは首を傾げて聞いた。


「そうなの? どうして?」


 するとハナビは深く深く息を吐き、重々しい声で答えた。


「これでも二十年は生きてるでござるからねぇ。良いものも悪いものも、沢山見てきたんでござるよォ。その拙者から言わせてもらうと、この世界というのは、かつて人間様が想像された地獄と相違ないんでござる」

「は……?」


 意味が分からなくて、作業をしていた手が止まる。

 天使としては過激な発言に、ライラはハナビを凝視していた。

 それを知ってか知らずか、ハナビは目すら合わせず、苦笑を重ねる。


「君はまだ分からないかもしれないでござるが、実際の戦場はそれはもう、酷いもんでござるよ。毎日誰かが死んでいく。毎日誰かとお別れする。尊厳とか、優しさとか、慈愛とか、そんな綺麗なもんは役に立たなくって、そこにはただ残酷な死の冷たさが横たわっているんでござる……そういうものの前に、強者とか弱者とか関係ないでござるんよ。どんなに強くても、死ぬ時はあっさり死ぬんでござる。結局のところ、長く生き延びれるかは運にかかってござる。拙者は運が良いから強くなれて、運が良いから君と話せていて、でも明日、どうなってるかは分からない。今こうして息をしていることそのものが、大いなる奇跡という奴でござるよ」

「大いなる奇跡……ね」

「いくらマザーのためとは言え、皆、最後には疲れ切っていたでござった。特にこのツヴィウル砦にいる奴らは、そこら辺、分かっているんじゃないんでござるかね」

「え?」


 思わず目を瞬かせる。

 遠くに視線をやれば、チラホラと行き交う天使達の姿が見える。

 ライラには少なくとも、彼らが普通の天使に思えた。

 だが、ハナビは違うのだと言う。


「こんな辺鄙なところにいる時点で、皆左遷された落ちこぼれでござるよ。失敗したり、トラウマを背負ったり。かと言って、あんまり役に立てる部署でもないんで、それはそれで天使として存在意義を否定されるのと同じでござる」

「……で、でも、その代わり長生き出来るじゃない。何年もここにいさえすれば――」

「無理にござるよ。どれだけの天使が今も製造されてると思うでござる?」


 つまりその分、更に落ちこぼれが生まれ続けるという意味で。

 ハナビの声は重い割には淡々としていた。


「新しい子がここに来た代わりに、役目を終える奴は必ずいるでござる。そいつはまた違うところをたらい回しにされて、前線で囮になるか、後方に行っても、教育という名目で暴力を振るわれて虐待死するか……スクラップ送りになる場合もあるござるよ」


 そのスクラップ送り――というのは、一度バラされ、新しい機械の材料にされる処置のことだ。

 天使達はこの罰を非常に恐れている。

 何故なら新兵の素材になるのはまだ良い方で、酷い時には分割子宮に生きたまま組み込まれるからだ。

 こうなったら本人の意思とは関係なく、ただ拠点を駆動させるためのパーツとして無限地獄を味わう羽目になる。なんせ思考はそのままなのに、演算を休むことなくし続けなければならないのだ。そして、徐々に自我を失い、最終的には機械と一つになる。

 この状態で現役に復活したのは、神の恩寵に属する聖歌九隊の一人、ロゴス・ヴァーチャー以外に存在しない。

 しかもそのロゴスでさえ処理回路に問題を抱え、一切喋れなくなったという。

 それほどまでに、スクラップ送りは重い罰だった。


「……」


 そしてだからこそ、ライラは何と言ったら良いか分からなくなった。

 このツヴィウル砦にいる天使達は、この後悲惨な目に遭う可能性が高いのだ。

 それは普通の天使として死ぬのとどっちがマシなのだろう。

 ここで呑気に遊んでいるのは、最後の猶予期間だと思っているからだろうか。

 お世辞にも真面目とは言えない勤務態度の彼らを、ライラは密かに軽蔑していた。だが事情を知ってしまうと……どうしても印象が違って見える。


(皆、足掻く気がないのかしら……それは、絶望と呼ばれる感情に起因してるの?)


「勿論、拙者もそれなりに上手くやれない時期があったでござるよ。何度も死にたいと思ったでござる。先が見えないからこそ、いっそどうにでもなれと思ったのでござるよ」

「へぇ。だから追い詰められると、人って自暴自棄になりやすいのね!」

「誰もがライラのように、自分を信じられる訳ではないでござるよ。それはある種の才能でござる」

「そういうもんかなぁ……」


 そう指摘され、ライラは実感が湧かなくて不思議になる。

 別にライラだって、皆とそう変わらないのだと思うけれど。だって自分を信じようと意識してる時点で、それはもう、見栄なのだから。

 何の根拠もなく、無邪気にそう振る舞えるのなら、それに越したことはない。


(ただ単に、私は弱さを認めたくないだけなのよね。私は強くならなきゃいけないもの)


 何でそう思うか分からないが、それでも絶対、ライラは強くなりたかった。

 それがライラの意思だった。


「まあともかく、弟君も形は違えど、ツヴィウル砦にいる奴らと同じ思いに駆られたのだと思うでござるよ。そこまで死ぬのが怖いだなんて、新兵だとちょっと珍しいでござるけど」

「ふーん」


 などと、適当に言いつつも、ライラはしっかり相槌を打った。

 やっぱりニニは少しおかしいんだなあと思いながら。

 そうして自然の流れなのか互いに黙り、作業を再開すること数分。

 ライラはその間もぐるぐると考え、ふと、「ねえ」と声をかける。


「……ところで私思ったんだけどさ」

「え、いきなり何でござる」

「さっきの話、すごく分かりやすかったから、私、もうハナビに直接ニニとの仲直りのアイディアをもらえば良いんじゃないかって気になってきたんだけど」


 そう言い切れば、一瞬ハナビはキョトンとして、次に「ああ〜、そう来たかァ」と乗り気じゃないように困った顔をした。


「拙者はやめといた方が良いでござるよォー。きっと役に立たないでござる」

「何でよ。ここまで人の気持ちに詳しいなら、貴方に頼るのが一番良いじゃない」


 実際、さっきの会話でライラの目的は半分が達成されたようなものだった。

 ニニの心の動きをある程度想像することが出来たからだ。

 ならば、このままいっそ――と考えたライラだったが、ハナビはやはり渋い表情を変えず、


「なら拙者の考え方を聞いてみるでござる。良いでござるか? 拙者はさっきも言った通り、この世すべては運が支配していると考えているでござる。努力出来るのも運、優しく出来るのも運、チャンスがあるのも運。ぜんぶぜーんぶ、運が絡んでいると思ってるでござる」

「……は? 何それ」


 訳が分からず、今度はライラが眉根を寄せた。

 そんな彼女にハナビは一つ尋ねる。


「ライラ、どうして強者は強くれなたと思うでござるか?」

「そりゃ、勿論その人が頑張ったからでしょ! いっぱい特訓して、いっぱい戦って、そうしなきゃ強くなれないじゃない!」

「そうでござるね。けど、それだけがすべてでないでござるよ?」

「……?」

「考えてもみるでござる。まず新人は死にやすいでござるよね? その期間を生き延びても、努力出来ない奴は出来ないし、落ちこぼれる奴は落ちこぼれるでござる。そこには明確な“才能”、“環境”の差があるのでござるよ。そしてそれらを決めるのは、やはり運なのでは?」

「うーん、まあそう言われると……」


 一理あるな、と思うライラである。

 そもそもライラは、人に向き不向きがあることを知っている。

 何より自分自身、特訓していると苦手分野はどうしても出てきた。その時他人を羨まなかったか……と言われると、否定出来ない。

 そうやって嫉妬をバネに、もっと強くなろうと頑張れた。

 だが他の人……例えばきっとニニ辺りはそう思えないだろう。逆に自信を喪失しそう……というか、そういうタイプだからこそ、今彼は塞ぎ込んでいる訳で……。

 それがハナビの主張における“差”なのだろう。


 そしてそのことだけに限らず、確かに運というのは物事において、非常に重要な要素を持っているというのも事実だ。

 でなければすべては上手くいくはずである。

 それなのに悪魔は滅んでないし、天使は死んでいくし、人類は復活できていない。

 すべては運命の神様の気紛れなのだ。その神様が投げたサイコロの出目次第で、幾らでも幸福になれるし、不幸になれる。

 だから格差が生じる。平等じゃなくなる。

 ランダムな運の偏りで、人の道は決まっていく。


(確かにそう考えれば筋は通っているのよね……だけど)


「……極論じゃないの。私はあんまり好きじゃないわよ、そういうの」


 だって捻くれているというか、理屈っぽいというか。

 それはいくらでも言い訳の介在を許せる考えだから、とにかく気に入らなくて、ライラにしては珍しく、何とも言えない顔になる。

 すると、ハナビはほらな、と言いたげな表情をした。


「だから言ったでござるよ。でもこの考えで拙者は絶望から脱したのでござるよねぇ……」


 そうしてハナビは、遠い過去を振り返るように目を細めた。


「かつて、拙者は周りを妬んでござった。いつも考えていたでござる。何で自分だけがこんな目に遭う、何で自分は特別じゃない、何で自分は不幸なんだ……と。だけどある時ふと気付いたのでござる。強いくせに見下してる奴らは、その実、全部を自分だけの力で成したと思っているのだと」


 でもそんなことはないのだ。

 さっきハナビが言った通り、強者はたまたま恵まれているから強くなれただけのだ。

 じゃあそれを自分に当てはめた場合、ハナビは何故不幸になったのか?


「それもまた偶然の境遇により、そうなっていると思い込こまされていただけだったのでござる。つまりそこに意味なんてのはなかった。そして強い奴らも呆気なく死んでいった。そう――平等なんてのはないけど、人ってのはいつどうなるか分からないでござる。だったら最初から割り切った方が良いでござるよね。人は配られたカードで勝負するしかないんでござる」


 結局のところ……すべてが運で決まるこの世界において、望む流れを掴むためには、自分達自身も、それぞれより多くのサイコロを振るうしかないのだ。

 それが努力することであり、行動することであり、選択をすること……そうハナビは言う。

 その結果悪い目を引くこともあるが、その分良い目を引くこともあり得る。

 勿論、そのサイコロを振るえる回数は皆それぞれ決まっているだが……だがどんな不幸な人にだって、一回くらいはチャンスがある。


 人に優しくすれば、誰かが助けてくれるかも。

 楽しみを見つければ、それだけで少しは明るくなる。


 今日不幸だったとしても、明日、明後日は違うかもしれない。

 失敗したと思っても、それが後々に繋がることだってある。


 人生は何が起こるか分からない。

 そもそも、未来は見えないことが当たり前なのだ。


「だから、いっそ、そのサイコロの出目の出方を楽しむことにしたのでござるよ。そう思うと案外、この世界も面白いでござる。予想外のことが意外と多くて」

「成程……」


 と――そうやって微笑むハナビに対し、ライラは人差し指を顎に添えて、ううむと唸る。

 やはり最後まで聞いてみると、まあまあ合理的な考えのように思えてくるのだった。

 例え不幸なことがっても、まあそんなこともあるよね、で済ませれるし、逆に良いことがあっても、まあたまたまだし調子に乗らない方が良いよね、と中庸の思考に戻すことが出来る。

 驕りがなく、付け上がらず、理不尽なことがあっても、飲み込める。

 可能性がゼロでないから、のほほんと、幸運を信じることも出来るのだろう。

 日常のちょっとしたことにも運の要素を見出す事で、少しの変化でも楽しめる余裕を持つことが出来る。


(まあでも……それで納得できるかどうかと言われると……)


 それはないだろうと、ライラは思う。

 ここまでくると、ハナビの言いたいことも分かってくる。

 もし仮に、彼がニニを立ち直らせるアドバイスをした場合、間違いなく前述した通りの考えを紹介し、それ伝えれば如何? と言ってくるだろう。

 というか、その方法でしか立ち直っていないんだから、それ以外のアドバイスなんてしようがないのだ。


 実際、有用な考えであるが、しかし同時にちょっと冷たい考えだ。

 厳しいとも言えるだろう。

 すべてが運で決まる、お前が不幸なのはたまたまだ……と言われたら、普通煽っているように聞こえてしまうだろう。


(それでニニが元氣になる訳ないじゃない!)


 そう考えたからか、頭の中でニニの顔が浮かんだ。

 彼は相変わらずの仏頂面に、微妙に偉そうな態度で、


『は? いや何言ってんの……? よく分からないだけど……』


 そんな突き放すような口調にライラは、


(う……! そ、想像しただけでグサッと……)


 勝手にダメージを受けて、勝手に悶絶していた。

 ブラコンの自覚がある分、そういう冷たい目にはかなり弱い。

 そしてそのライラの気持ちを察してか、一方のハナビは物凄く微妙そうにしていたが、次にハッとした表情をする。


「って、そろそろ開店時間でござるよ。ほらキリキリ働く働く!」


 どうやら脳内ディスプレイで時間を確認したらしい。

 えらく催促してくるので、渋々ライラは止まっていた手を動かして初め、「うう……」と呻き続けるのだった。

ざっくり設定8

スクラップ送り

役目を終えた天使や、使い道がないと判断された天使達が行き着く末路。

パーツごとにバラバラに分解され新たな機器の材料にされる。

新兵の素材、迎撃装置になるのはまだ良い方で、拠点の演算装置――分割子宮に接続された場合は、本人の自我はそのままに、ただ拠点を駆動させるパーツとして地獄を味わう羽目になる。

その状態で復活出来たのは、神の恩寵に属する聖歌九隊の一人、ロゴス・ヴァーチャー以外には存在しない。


落ちこぼれの天使達

ツヴィウル砦にいる天使達は、そのほとんどが左遷された天使達。トラウマを背負った者、上手く戦えない者、追放された者……そんな日陰者達が集まり、ツヴィウル砦を運営している。その性質上基本的に皆かなりやる気がなく、文字通りサボり気味。

落ちこぼれの天使達の死因の大半がスクラップ送りで、その他は前線での囮役での戦死、慰み者として虐待を受け死亡するなどの例がある。

天使達は戦いの苦しみから他者を見下し、平気で他人をいじめる。底辺に追いやられた天使達の苦しみは言うまでもないだろう。

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