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どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜  作者: 餅々
1章 最初から積んでる絶望的な状況で生きようなんて誰が思いますか?
7/20

貴方を理解するために

 この世界の情報をダウンロードされて、まず最初に思ったこと。

 それは、怖い、だった。


 だって当たり前だろう?

 一度死んだのに、またもう一度死ぬために生まれ変わったんだから。


 天使の寿命は何もしなければ二百年程度。

 だがその大半がニ〜三年で死んでいく。

 それだけ戦いが激しくという証拠だ。


 そもそも天使とは、悪魔と戦うための尖兵。

 しかしその実態はただの使い捨ての道具。

 その末路はどれも碌なものではない。


 焼かれて死んで、爆発して死んで、切り裂かれて死んで、貫かれて死んで、身代わりで死んで、囮として死んで、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで――データの中には、無数の死が記録されていた。


 そんな幾千万もの屍を積み上げながらも、それでも天使達は笑っていた。

 むしろ本望であると。彼らは間違いなく殉教者だった。


 皮肉な話である。

 本来天使なんて、この世界の人類が作り出したお伽話の住人でしかない。

 星が使わした神の使い、魂を掬い上げ浄土へ運ぶ火の車輪。

 それが天使だ。

 それなのにまさか本当に兵器として製造され、逆に人類の眷属として今は働いているんだから、奇妙と言わざる得ない。


 滑稽でしかない。

 元人間の立場からしても、この世界の人類を復活させたところで、きっと上手くいかないと思う。

 愕然とした気持ちだった。


 どう転ぼうが、どう生きようが、俺の未来は既に閉ざされている。

 始めから終わっている。


 天使になってから、怖いと思わない日は一度もなかった。

 特訓が怖い。死ぬのが怖い。マザーを崇拝する考えが怖い。

 ありとあらゆるものが気持ち悪くて吐き気がする。


 そのくせ、諦めきれない生存本能が働き、今も惨めに息をしている。


 そして生前のように笑われて、馬鹿にされて……。


 何で俺はいつもこうなのだろう。

 どうしていつも、ダメダメなんだ。


 すべてに絶望して、すべてに恐怖して、虚無感に支配されて、俺は一人、誰もいない森の中で、膝を抱え込んで座り込む。

 固く閉じた瞼の裏に、ライラの泣きそうな顔が浮かんでいた。


「くそ……クソ……クソ!」


 その度に罪悪感が溢れてくる。無視しようとしても、自分自身の良心が目を逸らさせてくれない。


 大体、彼女はこの世界で唯一俺に優しくしてくれた奴だったんだから。

 思えばあの子の存在はここでは大きく、だからこそあんなことを言ってはいけなかったのに。


 謝らなければいけない、と何度も考えた。それなのに、アイツは味方じゃないと、反発の気持ちが生まれた。

 感情がしっちゃかめっちゃかだ。

 自分でもどうしたいのか分からなかった。


 膝に顔を埋める。

 涙が出てくる。


 この体になって本当に、泣き虫になった。


 ああ……俺は、俺が大嫌いだ――









◆◇◆◇









 ――某時刻。

 丁度ニニが絶望している最中、一人の天使の少女が、ぼんやりと人気のない廊下に佇んでいた。


 薄紫色の長い髪に、憂いを含ませたアイスブルーの瞳。

 型番Zwiur-EQ-021ことライラだ。


 彼女もまた、非常に暗い気持ちに陥っていた。

 普段だったなら、気ままにニニを追いかけ回すか、元気一杯にシュミレーションで特訓しているか、ブラブラ散歩しているかのライラだったが、流石にこの時ばかりは落ち込んでいたのである。

 ライラを知る人が見たらきっと驚くだろう。

 あんな能天気で、何でも上手くいくと思ってる奴がどうして……と。


 とは言え、彼女は実際のところ、皆が思うほど馬鹿ではない。

 ライラは自分が取るに足りない存在だと自覚している。


 いくら自身が美少女で、いくら自身が天才で、いくら自身が有能でも、この手は二つしかなく、永遠に鉄の翼で飛んではいられない。

 出来ることには限りはあるのだ。

 つまり、能力でライラを上回るものは沢山いるのであって、それでも自分を褒め称えるのは、単純そうすることで己を鼓舞するためだ。


 ライラは負けず嫌いなのである。

 勝つと気持ち良い。負けると悔しい。見下ろされるのは嫌いで、目標を達成した時の快感は何ににも勝る。


 自分を信じられなくても、無理やり信じることが一番大事なのだとライラは思う。

 そうしなければ、出来ないことも、出来ることも、目の前から遠ざかっていくだけ。

 だが――


「一人にして……か」


 さっきも言った通り、流石に“今回のことは” 堪えてしまっていた。

 ライラは溜息を溢す。

 最愛の弟、ニニからの強い拒絶――瞳を閉じれば、いつだって、あの子のことを思い出す。

 

 あの時の悲痛な表情、悲痛な怒り、悲痛な嘆き――正直言って、ニニの考えていることが、ライラにはいまいちよく分からない。

 マザーのために戦い、マザーのために死ぬことは、天使にとっては史上の誉だ。

 ライラはその点で言えば一般的な天使らしく、それが一番の幸福であると信じていた。

 それ故、ニニがいつも不安そうにしているのは、マザーの役に立てなくて、自身を否定しているのだと思った。

 だから、伝えたかったのだ。


 ニニだってやれば出来るんだ。

 ニニは大丈夫だって――


 でも結果はこのザマだ。

 あれ以来、ニニは目も合わせてくれないし、それどころかライラの姿を見るなり逃げ出すようになっていた。

 その度に心抉られ、毎度毎度ショックを受ける。

 そんなどんよりとした彼女に、同期達が若干、同情するような目を向けなくもなかったが――それはそれとして。


「やっぱり心配なのよねえ」


 なんだかんだ考えつつも、ライラはポツリと呟く。

 ライラはニニから避けられても尚、弟を見捨てることが出来なかった。

 その選択肢は始めからないと言って良い。


 だって危なっかしく、顰めっ面で、無愛想な奴だけど、ちゃんと優しいと知っているから。

 放ってなんておけない。

 放っておいたら逆にダメになると、ライラは確信を持って言える。

 だから、ライラは弟のために出来る限りのことをするつもりだ。


(……でも、二二からしてみれば鬱陶しかったに違いないわ。ずっと突っかかってきて、追い詰められるようなこと言われて。私、盛大に間違っていたんじゃないかしら……)


 と――そこでふぅと息を吐き、ライラは改めて自嘲する。

 時間だけはたっぷりあったから、これまでのことを振り返ることは出来た。

 それでやっと一方的だったと、ライラは今更ながらに気付けたのだ。単に自分の感情を押し付けていただけなのだと。


 それはちょっと考えてみれば当たり前の話だった。

 ニニはいつもいつも思い詰めた顔をしていた。そんな時に、頑張れだの、やれば出来るだの、逆効果過ぎる。

 今思い返しても、やっちまった! と思うライラだ。

 うぐぉ〜と、頭を抱える。


 そうして、次はちゃんと距離を取って、関わらないければならないと思って。

 

(……けどまあ、そうは言っても、アイツのことを理解出来ていないのに代わりはないのよね……)


 と、またまた重い気分になる。


 なんせ、ニニの言ったことはすべてが常識の外にあった。

 マザーを否定し、戦いを否定し、天使の存在すらも否定するあの言葉――ライラの思考にはないものだ。いや、他の奴らがそう話しているのも聞いたことがない。

 だからこそニニの発言には、ガツンと頭をやられた気分だった。

 未だ、困惑は抜けない。

 あんまりにも異常なので、いっそ上に報告した方が良いんじゃないかと言う気分にもなってくるが……。


(……ううん。それは駄目だ)


 それではあの時悲しんでいたニニを否定することになる。

 ニニはあの考えをひっくるめてニニだから、姉であるライラはその部分も受け入れなければいけない。


 首を振り、気分を切り替え、ライラは更に考える。


 ライラの目的は何か?

 それは勿論、ニニと仲直りすることだ。しかし最終的には、ニニに元気になってもらうことこそが、ライラの望みである。

 ウジウジするのをやめて、どうか笑って欲しい。

 彼の傷を癒してあげたい。

 そのためには、どうするべきなんだろう。


(まずはアイツを理解すること……いや、共感するところから、かしら?)


 そうしなければきっと心を開いてくれない気がする。

 とは言え、今すぐにでも話をしたいが、現状では無理だ。

 それに時間を置くにしろ、また対応を間違えて怒らせるのは不味い。ここはアプローチを変える必要がある。


 そうやって、すぐさま方針を決定。既にライラは前を向いている。

 そもそも失敗したのなら、別の方法を試せば良い。


 ――繰り返すが、ライラは自分が取るに足りない存在であることを自覚している。

 だからこそ、性格に反して粘り強く、合理的で、頭の回転が速い。


 人には向き不向きがあり、出来ることには限りがあり、無理なものは無理で、そんな時はキッパリ諦めた方が急ぎ良い。それよりも重要なのは、失敗した原因を把握することだ。

 問題解決はトライアンドエラーの積み重ねだ。

 方法Aがダメでも、方法Bなら上手くいくかもしれない――そのことをライラはよく知っている。

 そしてそのすべてを自分一人で解決しなくても良いのだと、彼女は理解していた。


 そのためにはプライドも、拘りも、邪魔なものでしかない。


「うん……なら、あの人が良いわね」


 そうライラは一つ頷き――早速行動を開始した。









◆◇◆◇









「成程……それで、拙者のところに来たんでござるね?」

「そうよ。だって貴方、すごい色んなところに人脈あるんでしょ? その中に誰か一人くらい、ニニみたいな人がいるんじゃないかって!」

「はぁ……それで会ってどうするんでござる?」

「勿論、話を聞くの。その時どう思ったのか。どう感じたのか。私は追い詰められた経験がないから、そういう人のことを知って、ニニの気持ちを分かってあげたいの。そしたら、ニニとどう話せば良いか分かるかもしれないじゃない?」

「ふむ……まあその考えは分からんくもないでござるが……」


 と言い渋るのは、このツヴィウル砦に配属された天使の一人――ハナビだった。

 事情を説明された彼は(勿論余計なことは言っていない)、随分と悩んでいた。

 その珍しい反応に、ライラは少し驚く。


 なんせハナビは常に飄々としているのである。

 灰色の髪を短髪にし、口元をマフラーで隠し、“ござる”などという特徴的な口調で話すこの人物は、胡散臭い割にこう見えても結構な長生きで、翼が四枚もあるのも、実力者の証だ。

 なのだが、協調性があまりなく、そのせいでこんな僻地に飛ばされてしまったらしい……。

 そのくせ、当の本人は常にのほほんと笑っていた。

 だから、正直ライラは嘘でしょと思っていたが、未だに処分されない辺り、実際のところは分からない。


 ともかく、そんな彼はやっぱり不思議な奴で、暇だからと勝手に先代から売店の店主の座を引き継いでしまった。

 それなりに繁盛してるから商才はあったのかもしれない。

 尚、先代も先代で、飽きたのか、大喜びでハナビに店を受け渡してしまい、現在では別のところで遊び歩いている。

 未練はないのか、未練は……。


 っと、ライラが密かに呆れたところで、ハナビは更に、ううむと眉間の皺を深くした。

 大体、何をそんなに考え込むのか。

 ライラはパンと両手を合わせ、拝み倒す。


「お願いよー! 私、コミュ力ないって自覚したばっかだから、絶対そーいう繊細な人を相手に出来ないと思うのよ! 貴方が間に入ってくれたらどれだけ助かるか!」

「えぇ〜そうは言ってもでござるがぁ……」

「お願いぃ〜!」


 ライラは遂にジリジリと迫り、反対にハナビが嫌そうに下がる。

 そうしてやれやれと首を振られたので、ライラは思わずムッとなって、


「何よ! 何で無理なの! はっきり言いなさいよ!」

「うーん。じゃあ言うでござるけど〜」


 と、ジト目なったところで、思いの外素直にハナビは答えた。

 しかも満面の笑みで。


「うん。正直言ってめんどー臭い。でござる」

「ハァ? 何よそれー!」


 これにはライラも怒る。そりゃあもう怒る。

 深刻な何かかと思った分、裏切られた気持ちでガルガルと唸り声を上げ、ライラは猛抗議。

 ハナビはまったく意に介さず鼻で笑うだけだった。

 しかも「あのネぇ」と続けて、


「そもそもこっちに何のメリットもないでござるよ。それなのに一方的にお願い聞けって、言うこと従うと思うでござる? だったらそれなりの対価を渡して欲しいでざるよ」

「ウギギギ……」


 しかしハナビの言うことは最もだった。

 そのため何か言おうと思っても、何も思いつかない。

 やがてライラはニッと笑い、同意した。


「そうね! 正論ね! 私が間違っていたわ!」

「あれ? 嫌がらせつもりだったのに、受け入れるのあっさりし過ぎでござるな……」

「ん? 何か言った?」

「いや何でも。ござるござる」

「何その笑い方」


 ハナビが乾いた笑みを浮かべたので、相変わらず変な奴っちゃなぁ……とライラは肩をすくめる。

 実際、初めて会った時もこんな感じだった。

 暇なのでブラブラと散歩してたら偶然売店に辿り着いて、おもしろいものが並んでいたから、なんか頂戴っ! と言ったら、普通に嫌味ったらしく追い出された。

 でも何故だか道行く度に出会い、今ではこうして立ち話をする仲である。けれども、ライラはハナビと馬が合うとはこれっぽっちも思っていなかった。

 何よりウザいし。

 こっちの方が仲良くしてやっているという感覚である。

 無意識に下に見ているどうしようもないライラだった。


「で、どうしたらお願いを聞いてくれるかしら? お金持ってないから、そんなにお礼は出来ないけど……」


 正式に配属先が決まれば、報酬として非番の休み(週二日制)と給金がもらえるが、ライラはまだ見習いだ。

 無一文の自分に出来ることはあるか? と聞けば、途端にハナビは怪しげな笑顔を作った。


「ぐふふ、なら、ニニ君のブロマイドを売ってもらえないでござるかねぇ……。彼、結構可愛いから、界隈じゃあ注目されてるんでござるよォ。死ぬ前に一度で良いから拝み倒したいという紳士淑女が大勢……なんで、仲直りしてからで良いんで、写真を撮ってきて欲しいんでござる。そしたら爆売れ間違いな――」

「却下!」

「ござる!?」

「だったら代わりに私のブロマイドを売りなさい! 裸体には自信があるのよ! さぁ早く!」


 などと、ライラは得意気に服を脱ごうとして、逆にハナビから白けた目を向けられた。


「えぇ〜……いやぁ、お前はないでござる……そんだけ自信満々だとすげえ引くでござる……こー言うのは恥じらいとか、そー言うのが大事なのであって、お前みたいな奴は所謂ネタ枠に入るんでござるよ……」

「何ですって!?」


 ライラは声を荒げた。

 納得がいかなかった。こんなにも顔が良い自分に魅力がないと抜かすハナビは節穴だ。

 彼女は心底からそう思った。


「ふんだ! じゃあ良いわよ! こうなったらお店の手伝いで手を売ってあげるわ! 光栄に思いなさいっ!」

「いや、何ですげー偉そうなんでござる?」


 それにハナビは呆れ返っていたが……、


「ま、それで良いでござる。ほんならよろしく頼むでござるよ、ライラ」

「任せなさい、うぇひひ、ヒヒヒヒヒ!」

「不安でござる……」


 何だかすごく心外なことを言われた気がするライラだった。

ざっくり設定7

ハナビ

型番Lokian-UbC-8710。ロキアン基地出身。灰色の髪を短くした成体の天使で、語尾にござるを付けて喋る、かなり胡散臭い人物。こう見えても結構な実力者で、稼働年数は約二十年。だがまったく協調性がなく、色んな拠点をたらい回しにされる困った人で、行く先々で不許可の売店を開いている問題児。

売っている物は実に様々。有名天使のブロマイド。ゲーム機。釣竿。天使達の詩集。どれも統一性がない。物によっては、物々交換もしてくれる。

ガメつく前向き。へこたれない。

尚、自称する性別は決めていないようで、男でもなければ女でもない。ありのままの自分こそが本当の姿だと思っている。

彼のような者は一定数存在しており、珍しくなんともなかったりする。

それぞれの性別自称者の比率は、

男が4、女が4、性別不詳が2。

天使達は性自認が非常に曖昧である。

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