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どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜  作者: 餅々
1章 最初から積んでる絶望的な状況で生きようなんて誰が思いますか?
3/20

どうやらエラーが起きたらしいのです

「で、落ち着いた?」

 

 ――しばらくして。

 ようやく涙が止まった俺に、機械の天使は声をかけてきた。

 それでも乾いた笑みで返すしかない。

 

「多分落ち着いた……ハハハ……うん……」

「その割には大丈夫じゃないように見えるわよ?」

 

 眉をひそめ、再び疑ってくる機械の天使。

 そんなに落ち込んでるように見えるのだろうか?

 まあそうかもしれない。

 なんせ今の俺は座り込んで遠い目をしているのだから。

 半ば現実逃避中だ。

 

 ……そりゃあ、別に?

 人間やめたことの方が重大事件だろうとか、いつまで沈んでいるんだって、我ながら思いますけどね。

 でも、男にとってロングソード(♂)っていうのは一種の誇りでもあり、存在意義でもあり、精神の根幹を司ると言っても過言ではないくらい大事な部位な訳で。

 それを強制的に去勢(重ねて言うがジョークではない!!)とか、ショックを受けない奴いる? いないと思うね。

 ハハハハハ……どうして俺がこんな目に。

 

「ジー……」

 

 などと考えていれば、機械の天使がこちらを射抜くように見ていた。

 しかもその視線は俺の股辺りだ……途端に恥ずかしくなって、咄嗟に体を抱きしめるよう翼で覆い、ちょっと熱くなった顔を誤魔化すように言う。

 

「な……なんか用かよ……!」

「そりゃあ勿論よ!」

 

 すると思いの外大きな声で返事が返ってきた。

 

「だって、何でそんな下見てるのか分かんないもの! 何もないのに! 何もないのにさ!」

「うぐ……抉るようなこと言うな! って、あんま凝視もするなっ!」

 

 隠しているのに、ますます興味津々と言った感じで見てくるので、遂に頭も抱えると、更に不思議がって天使は大声で、

 

「本当理解出来ないわ。体を隠すなんて、もったいない! その機械の体は、私達の中でも美しい光沢なのに!」

「……は? 美しいって――」

「ま、私には敵わないけどね! 私ってば、超プリティで最強美少女だから!」

 

 そうやってババーンと、機械の天使は己の裸体を堂々と晒した。おまけにバサっと翼を広げ、誇らしげだ。

 一方の俺は一瞬で微妙な気持ちになった。

 て言うか……、

 

「お前、女なのか?」

 

 自分で“美少女”と言うことは、つまりはそう言うことだろう。

 それに、そもそも喋り方と言い仕草と言い、どうも女子っぽいし。

 そう確信して訊けば、天使はこれまた阿保のような顔でキョトンとして、

 

「そのつもりよ! そう言う設定だわ!」

「設定?」

「だって性別なんて、髪型や名前みたいなものじゃない! 好きなように出来るものじゃないの?」

 

 “彼女”はさも当然のように、そんなとんでもないことを言う。

 だが、それはそれは明らかに人間の価値観ではない。

 本質的に無性別だからか、それとも機械だからなのか。

 悪意はなさそうだが、それでもやっぱり目の前の機械人形は異質な存在だった。

 

「……」

 

 俺は絶句してしまって、しばらく言葉出てこなかった。

 しかしその間にも機械の天使は首を傾げている。

 気味が悪くなって、俺は警戒心を上げると、目を逸らしながら(流石に女子(仮)の裸を見るのが居た堪れなくなって)再度問うた。

 

「それでお前は何者だよ」

「だから、貴方の双子の姉……Zwiur-EQ-021よ! ねえ貴方、基本情報は持っていないの? 普通は既にダウンロードされているはずよ?」

「生憎、そんなものはない」

「そう。困ったナぁ。ふふ、けどね――」

 

 そこで天使の少女は自身の首元に触れた。

 それだけでコードが背後の機器の中に吸い込まれて連結が解除される。

 そのままこちらに歩み寄って、しゃがみ込み、俺と目を合わせて。

 

「それでも一足先に目が覚めたから、私、貴方と話すのをずっと楽しみにしてたのよ? そっちがどう思うが、私にとって貴方はただの可愛い弟だわ。だから、これだけは言っておくね。――生まれてきてくれてありがとう。これからもよろしくね――“ニニ”」

 

 そして聞きなれない名前で呼びながらも、花が咲くように天使は笑ったのだった。

 優しく、慈愛に満ちた笑顔で。

 

 そんな彼女に――どうしてだろう。

 こっちの方が何故か呆けてしまう。

 

 直後、バチリと頭の片隅でふと、蘇るものがあって――

 

 ――⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。生まれてきてくれて、本当にありがとうなぁ。

 

 途端に、訳もなく無性に悲しくなった。

 いつか、何処かで聞いた言葉。

 とても大切な記憶なのに、もう何も思い出せない。

 そのことがまた、寂しい。

 

 そうやって顔をくしゃりと歪ませた俺に、天使の少女が続けて口を開きかけると――ふと、第三者の声が聞こえてきた。

 

「あの〜……お取り込み中申し訳ないが……」

「!? ギャア!」

 

 が、突然だったために、盛大にビビってしまう。

 飛び上がった拍子で目の前の天使の少女に抱きつく形になってしまい――すると嬉しかったらしく、彼女はデレっとなって、

 

「なぁに? 早速甘えてくれたの? やだぁ〜!」

「え、あ……これは違うから!」

 

 慌ててパッと離れたが、しかし天使の少女は気にしてないらしく、仕舞いには嬉し過ぎたせいかアヘ顔のような笑顔になる。

 

「うぇへへ、ふひひひひひひ!!」

 

 その気持ちの悪さと言ったら……。

 こっちの方が釣られて顔が引きつるレベルである。

 しかも妙に低く、腹の底から出ているような声だった。

 そのためか……、

 

「……あれ。予想以上に大分変わった子だな……」

 

 と、声をかけてきたその人物は、本当に困ったような苦笑を浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 見れば右の方の壁が、いつの間にか縦に裂け、パックリと口を開いていた。

 そこから目の前の天使の少女とは別の機械の天使が、こちらを覗いていた。

 

 そいつもやはり、性別差を感じさせない顔をしている。作り物めいた美貌に、二対の機械仕掛けの翼、頭に浮かぶ歯車の輪。

 ただし、こっちの方が見た目年齢は上に見えた。

 およそ十代後半から二十歳ぐらいだろうか……?

 長い金髪をお下げにし、瞳の色は深い緑で、白くゆとりのあるワンピースのような服を着ている。ちなみに腰の宝玉のパーツだけは露出させる構造だった……何か大事な機関なのかもしれない。

 

 と――密かに観察していると、彼は優しげな微笑みを浮かべて、まずはこちらに何かを渡してきた。

 

「とりあえず、二人ともこれを着ようっか」

 

 そう言って裂け目から差し出したのは、彼が着ているの同じデザインの服だった。

 非常にありがたい。

 そのスカートに思わないところもなくないが、これでやっと裸から解放される。

 

 そうやって俺が素直に喜んでる横で、だが天使の少女は逆に不服そうだ。

 ムスリと唇を尖らせた。

 

「何でこんなのを着なきゃいけないの? マザーがお作りになったこの私の玉体を隠すなんて……世界の損失だわ!」

「そうは言ってもねぇ。規定で決まっているから仕方ないんだよ。鎧代わりでもあるし大切にするんだよ」

「むぅ」

 

 が、堪忍したらしく、天使の少女はそそくさと着替え始める。

 そんな彼女をチラ見しつつ、俺もどうにかしてこの後の機器と離れられないか……と思う。

 ひとまず少女の天使の真似をして、実際に首筋に触れてみる。

 っと、皮膚の下でボタンのように感触が返ってきて、そこを押すと、勝手にコードが頸から抜け落ちた。

 案外簡単に外れるらしい。

 内心ホッとして、服を手に取り、頭から被る。

 そして何とか二人して着替え終わり、繭のように部屋から出てくると、青年天使は満足そうに頷いた。

 

「うん。似合っているじゃないか。これで君達も一人前の天使兵だね」

「あら、そう? まあ当然のことだわ! 私は美人だもの!」

 

 なのだが、天使の少女は嫌がっていたくせに一転して得意気だった。

 コロコロ表情が変わるやつである。

 これには青年天使も再び苦笑するしかない。

 

「じゃ、付いてきて。こっちだよ」

 

 そうして、青年天使は案内を始めた。

 俺達は彼の背を追って歩き出す。

 

 外は思ったよりも広大な空間だった。

 全体は摺鉢上になっているのだろうか? 天井は見上げても遥か上にあり、その上空を他の天使達が無数に飛び回っている。パイプや橋が縦横無尽に走っていて、そこを足場として移動する天使も。

 あちこちには入り口が設置されていて、皆あくせく、出たり入ったり。

 壁には繭で覆われたカプセルと思わしきものが大量に並んでいて、その表面にはプレートが打ち込まれ、それぞれ数字や英語の羅列が刻まれていた。

 尚、俺達が最初にいた部屋もこのカプセルと同じもので、そこには「Zwiur-EQ-021」「Zwiur-EQ-022」と書かれていた。多分、Zwiur-EQ-022が俺に割り当てられた型番なのだろう。

 

 と――そんな具合にあちこちをキョロキョロしていると、ふと青年天使が口を開いた。

 

「では、改めて自己紹介をするね。私は型番Waen-SG-329のエメラルだよ。一応末席ながら上級天使の一人で、見張り番をやっている。……って、そっちの君はまだ分からないか。うん、しょうがないよね」

 

 すると俺が訝しげにしてるのを察したのか、エメラルは本日三度目の苦笑を溢した。

 困り顔が癖なのだろうか。

 そう思っていると、そのエメラルの様子に、隣の天使の少女が納得したように言う。

 

「と言うことはやっぱり、この子、どっかおかしかったのね! だと思ったわ! ねっ!」

 

 そこで何故か同意を求めるように、天使の少女は俺の顔を見てきた。

 おまけに大声だったからか、周囲の注目が集まり、通り過ぎていく天使達が、何んだコイツという風に一瞥してくる。

 振り返ったエメラルの「いやいや、君も大分……」という視線が居た堪れない。

 とりあえず天使の少女から目は逸らしておく。

 気まずい。

 

「そうだね」

 

 とは言え、このままでは話が続かないので、エメラルは容赦なく説明を進めた。

 

「私が君達を迎えに来たのは、まさしくそっちの紫髪の子が言った通り。銀髪の子からエラーが検出されたからだよ。その結果、基礎的な情報のダウンロードに失敗したらしい。こんなのは数十年ぶりだね」

「それって……」

 

 俺の脳裏に、生前の知識がいくつか浮かぶ。

 やはり、家族構成も、住所も、自分自身の経歴さえ何も思い出せないが、自分が人間だという自覚は間違いなくある。

 どう考えたってこんなのは異常でしかない。

 だがもし、そのエラーとやらで記憶が蘇り、逆に“基礎的な情報”が塗り潰されたとしたら……。

 

 そうつい考え込みそうになって、首を振る。

 推察を重ねたところで答えなど出ないのだから。エメラルも気遣うように言ってくれる。

 

「まあ、気にしなくて良いよ。双子っていうのは、一つの細胞杯が二つになって生まれてるとても稀有な存在。元々バグは起きやすいんだ。それに失敗したのなら、再ダウンロードすれば良いだけの話」

「……そうですか」

「ふーん、ならちゃんとエラーは解決するのね! 良かったわね、ニニ!!」

「……あの、さっきから気になってたんだけど、そのニニっての、やめてくれない?」

 

 ずっと変な名前で呼ばれるのは違和感がある。

 やんわりと別のあだ名で呼ぶように言った。

 

「俺の名前はノブナガだよ。それかムラマサ」

 

 そして思いついた名称を並べれば、今度は天使の少女が訳が分からないという表情になった。

 嘘でしょって言いたげだ。

 

「ダサいわね! 二十二番のニニで良いじゃない。分かりやすいし」

「は?」

「そうだね。流石にその名前は無いかな……」

「え」

 

 しかもまともそうなエメラルからも反対されてしまった。

 そんなにおかしな名前だったろうかと俺は驚く。

 変だな。普通のネーミングセンスの筈なのに。

 

「イエヤス……ヨリトモ……リョウマ……」

「まだ言ってるの、ニニ! 貴方の名前は私の中ではもうニニって定着してるから、それ以外の名前は許さないわ!」

「なんだと、うっさいな。この……えーと」

 

 っと、そこで、この天使の少女に名前がないことに気がつく。

 良い加減不便だ。

 うーん、こいつの髪は紫だから……、

 

「ムラサキシキブ」

「は?」

 

 眉をしかめられた。

 おかしい……。ショックだ。

 

「あ、着いたよ」

 

 などと言い合っている間に、どうやら目的地に辿り着いたみたいだった。

 

 そこは別の区画だろうか。

 比較的狭い部屋で、あれ程見かけていた天使達の姿はなく、ただ眼前には青い透明な水晶が地面からいくつか生えているのみである。

 

「ここはα情報室。これまでのツヴィウル砦の歴史が記録されている場所だよ。今、アクセス出来るようにしてあげるね」

 

 エメラルはそう告げて、左右の腰の宝玉のパーツからそれぞれ二本、ケーブルを伸ばした。

 驚愕している俺をよそに、そのケーブルで青い水晶部分に触れると、虚空にキーボードが現れる。

 彼は慣れたようにそれを叩いていくと、しばらくして水晶が輝き始めた。

 

 エメラルは俺に促すように、言う。

 

「さあ、これで準備完了だ。これに手を置けば情報が再ダウンロード出来るはずだよ」

「……」

 

 天使の少女も、早く早くと目で訴えてきている。彼女の歯車がくるくるっと回っていた。

 俺はしばし悩み……そこからええいままよと、覚悟を決める。

 もう逃げ場などありはしない。ここは流れに身を任せるしかないのだ。

 

 そして俺は、青い水晶の上に手を乗せた。

 瞬間、奇妙なことに、脳内にディスプレイが表示されるのが分かった。

 

 ――ファイル*mdl3401のダウンロードを開始しますか?

 

 ――YES NO

 

 勿論、俺はYESを選択する。途端、全身が粟立つ変な感覚。

 肌を走る回路が一瞬光ったと思うと、直後膨大なデータが自身に流れ込んでくる。

 それらはこの世界の基本的な常識。

 

 三百年前の魔機大戦。“天使”とは何なのか。“この戦争”の目的は?

 

 その一つ一つが、不思議なことに、内容を確認しなくても理解出来る。

 そして理解してしまったからには、自分がどんな状況で、どれだけ救いようない立場にいるかも、実感してしまって。

 

「………………」

 

 やがて、情報の奔流が止まる。

 無慈悲にダウンロード完了の文字が脳内ディスプレイで踊っている。

 

 エメラルは、祝いの言葉を贈った。

 

「おめでとう。これで今日から君も、私達の仲間だ。これからも一緒に頑張ろうね。マザーの尖兵の一員として」

「尖兵……」

 

 ……それに、マザー。

 その響きに、ビクッと反応してしまう。

 

 呼吸が荒くなる。

 ああ、どうして、ああ――

 

「ニニ?」

 

 案ずるような天使の少女の声。でも気にしていられない。

 だって俺は――ただ死ぬためだけの存在に生まれ変わったのを知ってしまったから。

 

 だから、この心を染め上げるのは絶望だけ。

 圧倒的なまでの……虚しさだった。

ざっくり設定3

ニニ

型番Zwiur-EQ-022。二十二番だからニニと安直名付けられたちょっと不憫な主人公。前世はなかなかに悲惨な環境にいた中学生で、死因は自殺。

基本的な記憶はないが、いじめられたことと、自殺したことは覚えていて、他にも趣味や知識はそのままである。

天使に生まれ変わったことに絶望しているが、記憶がないのもあってこれでも明るくなった方。意外にもビビリな性格で、苦手なものは虫とお化け。比較的流されやすいのもあって、結構なお人好しである。

好きなものは料理と歴史と一人遊び。


天使の裸体

天使は基本的に裸であることを恥ずかしがらない。彼らにとってマザーに作られたその体は誇るべきものであり、特に機械のパーツの光沢具合には美意識を持つ。

何とパーツの輝き具合を競い合う非公式の大会まであり、毎月熱烈な戦いが繰り広げられるのだとか。また天使達はその機械のパーツに“エロ”を見出すのだと言う……。

主に三つの派閥があり、翼ってエッチで背徳派と、腰のコードを絡ませたい派と、機械部品全体を愛でるのが至高派が存在する。

ニニの機械パーツは特に天使達の琴線に触れる光沢具合らしく、結構“可愛い”、“エロい”らしい。尚後の本人曰く「まったく嬉しくない」。

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