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どうやら機械の天使に転生したみたいです 〜ぶっちゃけ人類は滅んでいるし天使と悪魔が戦争してるし最初からオワタ〜  作者: 餅々
1章 最初から積んでる絶望的な状況で生きようなんて誰が思いますか?
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エメラルとルベル 3

 マザー直属の部隊、神の恩寵。

 そこに所属する選りすぐりの兵士を集めた最強の遊撃部隊、聖歌九隊。


 全九名で構成され、それぞれ階級に合わせ特殊な称号が与えられる。


 九位のエンジェル。

 八位のアーク。

 七位のアルケー。

 六位のパワーズ。

 五位のヴァーチャー。

 四位のドミニオン。

 三位のソロネ。

 二位のケルビム。


「そして一位が、セラフィムですっけ」

「そうだよぉ」


 確認するように呟いたエメラル。その彼に対し、そう赤髪の天使が頷く。

 三対の翼を持つ上級天使、ノイン・セラフィム――否、この時はノイン・ケルビムだ。

 ノインはおっとりながら真面目な性格のようで、はっきりと覚悟を告げた。


「僕はこのセラフィムの地位を目指しているんだぁ。そうすればマザーの護衛という重要な任務が与えられ、マザーと常に一緒にいられるんだよぉ」

「へえ……すごいですね、それは」

「うん。ここまで強くなったのも、一欠片でも良いからマザーに見てもらいたかったからなんだぁ。僕はどうにもマザーに振り向いてもらえなくてねぇ」

「そうだったんですか。しかし何故ハウダロンまでわざわざ? 貴方ほどの方はお忙しいのでは……」

「流石に泥沼化しているこの現状を放ってはおけなかったんだよぉ。上層部は君達を囮に、別の作戦を展開しようとしていた。その時の損害は今より倍以上に膨れ上がっていたはずだよぉ。僕としては、そんなの見ていられなかったんだぁ」

「成程……!」


 エメラルは感激し、わざと目をキラキラっとさせた。

 ノインは純朴なのでそんなことにも気付かず、照れている。


「だってさ! ケルビム様すごく良い方だね!」


 そうして廊下の隅の方に視線をやれば――すぐに大声で返事が返ってきた。


「うううううう、うるさい! エメラルのバカ、アホ、おせっかい!」


 そこには角に身を隠し、こっそりと顔を覗かせていたルベルがいた。

 顔を真っ赤にさせ、ひたすら「バカバカバカ!」と繰り返している。

 さっきからこっちに熱視線を送っていたというのに……バカはどっちだとエメラルは思う。

 しかしノインは気にしていないらしい。彼もまたそちらの方を見て、ニコリと人好きのする笑顔を浮かべる。


「あ、君は先日の子だね! この前はごめんねぇ。何か嫌なことをしたのなら――」

「そ、そそそそそそ、そんなことないでしゅ!」


(でしゅ?)


 今噛んだな、とエメラルが考えている間にも、ルベルの口は止まらない。

 ぐるぐると目を回し、早口で捲し立てる。


「あ、アレは恥ずかしかったというか、突然のことにすごいびっくりしたっていうか! あ、貴方が気にすることでもなくって! その……とにかく、俺が悪かったというか! なんていうかぁーーーー!!」

「? そぉ?」


 その様子にノインは首を傾げるものの、ルベルの側にそっと近付いた。


「ともかくここにしばらくいることになったから、よろしくねぇ。僕は型番Kronos-C-009のノイン。君はぁ?」

「ひゃ!? 俺ですか!? おおおおおおお、俺は……俺はァ!」

「俺はぁ?」


 返事を聞くため、ノインはルベルの顔を覗き込む。

 すると更に茹蛸のようにルベルは紅潮。ぷしゅうと湯気が出るくらいパニックになった。


「あ、あう……! えと、えっと……!」

「? どうしたのぉ?」

「う、うわああああああああああ!!! ごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいいいいいい!!」


 ルベルはそのまま距離を置き、叫びながら去っていってしまった。

 見事な逃げっぷりである。

 エメラルは溜息を吐きたくなる。

 まさかここまでヘタレだったとは。


(ほーら、ケルビム様だってポカンとしてらっしゃるじゃないか)


 しかも地味にショックを受けたようで、ノインは呆然としていた。

 流石に二回目は堪えようで、若干声が震えている。


「あの……僕、……もしかしてあの子に嫌われたのかなぁ?」

「いえ、それはないです絶対に。ルベルは意地っ張りなので、気にしないであげて下さい。お願いします」


 エメラルが頼み込むと、ノインはこくんと頷いた。

 そして、


(やれやれ)


 と額に手をやる。まったく、なんて手のかかる兄弟だろう。


(いくら上下関係がないとは言え、これじゃあ兄の気分だよ)


 まあ実際、一ヶ月程エメラルの方が早く生まれているのだが。

 ルベルの面倒を見てあげられるのは、自分しかいないのかもしれない。


 とは言え、これでは前途多難だ。

 本当にどうしたものか。エメラルは困ってしまって、でもこんなことで悩むことが出来るようになったのが微笑ましくって、少し笑ってしまった。

 

「ふふ」


 嬉しそうに。幸せそうに。









◆◇◆◇









 ――ハウダロンの戦いが終わって、既に数日が経過していた。

 突如現れたノイン・ケルビムによって敵はすべて焼き払われ、首領の悪魔も討伐。呆気なく終戦を迎えた。


 元々、このハウダロン領の真核の保有条件は、この星より伝えられていた。

 曰く、「敵対するものを蹂躙せよ。武によって優れたるを星に見せつけよ」。

 つまり、純粋な勝敗により、真核は手に入れられると考えられていた。

 だからこそ天使陣営も悪魔陣営の、惜しみなく戦力を投下していたのだ。

 その結果泥沼化したのだが、実際のところ条件の意味は少し違っていたらしい。


 文字通り、真核が出る条件は“蹂躙”、“優れた能力を見せる”ことだった。本当にそのままの意味で解釈するのが正解だったのだ。

 それに気付いたノインが、上層部に直談判。強引に出撃許可をもぎ取り、ここまでやってきて敵の魔獣を一網打尽。

 無事にハウダロン領を入手することに成功した……というのが事のあらましである。


 とは言え、今回の件で上層部は相当逆ギレしたようで、ノインに謹慎命令を下した。

 自分達の判断ミスを認めたくなかったのだろう。それに戦争の影響でハウダロン領の魔力汚染は深刻で、このままではエネルギースポットの流れに悪影響を及ぼしかねない。

 また再び侵攻されないよう拠点の増築、環境の整備をしなければならないこともあって、汚染された魔力の浄化は必須だった。

 そのためにノインはそのままハウダロン領に留まることになった。今のところ、自由に動かせる人員で、彼ぐらいしか浄化の能力は使えない。

 そして、その滞在期間は長くて数週間だ。

 あまり時間はないのである。


「だからアタック出来るチャンスは少ないんだよ。そこのところ分かってる? ルベル」

「ハァ!? 何で俺がそんなこと気にしなきゃいけないんだよ! べ、別に良いし! そんなの!」

「本当かなぁ。ずっと話したそうに、ケルビム様の側をうろうろしていたのは何処の誰だっけ?」

「ぐ! さっきから何なんだよお前!」


 その生暖かい目線やめろぉ!! とルベルは吠える。

 現在、人気のないところで作戦会議……もといノインと別れた後、ルベルを無理やり捕まえ、説教中である。


 あの時、ルベルが恋に落ちたのは誰の目からも見ても明らかだった。

 そして、本人の様子もかなりおかしくなって、次の日は一日中ボーとしていたし、その次の日は頭をガンガン壁に打ち付け、そのまた次の日は部屋に引き篭もった。初めての感情故にどうして良いのか分からないのだろうが、良い加減行動を移すべきだとエメラルは思うのである。

 なんせこんなに面白いことはない。

 ルベルの奇行を見てエメラルは爆笑したし、正直あのルベルに春がキターーーーー!! と喜んだ。

 むしろ、その手があったかと思ったくらいだ。


(だって恋人を作れば、ルベルだって甘えられる人が出来るじゃないか! 見てくれる人が増える! ルベルだって幸せになれる!)


 しかもノインは超優良物件と来たものだ。

 性格良し、顔も良し。おまけに聖歌九隊の一人である。簡単に死なずルベルを置いていったりしない、まさに理想の相手。普通の天使であればまず選ばないという選択肢はない。

 だというのに、ルベルは頑なな姿勢を崩さない。

 自分はノインを好きではないと言い張り、そのくせソワソワしている。

 見ていられず、きっかけになればとノインと仲良くなってみたが、ルベルは逆に気後れした。

 非常に面倒臭い。


「せめてお礼くらい言った方が良いんじゃない? ケルビム様のおかげで、私達は救われたんだし」

「……それは」


 するとルベルは黙った。

 それはもう、痛いところを突かれたように黙った。

 正論だったからだ。


 今やノインを見ると、皆が歓声を上げ、熱狂する始末だ。

 この生き地獄を終わらせてくれてありがとう。明けない夜を照らしてくれてありがとう。

 ノイン様、ケルビム様万歳。

 その声は日夜止まらず、完全にお祭り騒ぎだ。勿論エメラルだってその中ではしゃいだし、ハナビだってノインの前で号泣していた。

 この恩はいつか必ず返すと固く誓っていたくらいだ。当然エメラルも同じ気持ちである。

 何故ならサフィの仇を取ってくれたから。ルベルがこれ以上身を呈してエメラル達を守る必要がなくなったから。

 今ならノインのために死んでも惜しくない。それ程までに感謝の念は深かった。

 だが皆がそんな状態だというのに、ルベルは何も言っていない。

 ずっと避けている。それではいけないだろう。

 そもそも礼儀知らずだ。


「ケルビム様と話せる機会は少ないけど、それでも一言くらい何か伝えた方が良いって。このままだと後悔することになるよ?」

「うう……」


 そう指摘してやると、ルベルはようやく逡巡するような顔つきになった。

 目を泳がせ、口をモニョモニョとさせる。


「で、でも、俺みたいなのがあんな偉い人とお近づきなりたいとか、烏滸がましくないかな? 相応しい人はもっといるだろうし……ぴゃ!」


 途端、悲鳴が上がった。

 エメラルがルベルの頭をはたいたのだ。

 それはもう思いっきり。

 おかげで、ルベルは涙目になって頭を抱えた。


「い、痛い……! 何するんだよ!」

「ええ〜い、やかましい! 烏滸がましいとか、相応しいとか、そんなの関係ないでしょうが! お前が話したいかどうか、重要なのはそれだけだ!! ウジウジするなチキン野郎!」

「うぐ……」

「ほら行くよ、ルベル」

「ちょ、うわ!?」


 エメラルはルベルの手を握って歩き出す。

 ルベルは抵抗出来ず、そのままズルズル引きずられていった。

 やがて、段々とお目当ての人物が見えてくる。彼は人気のない場所にいて、相変わらず落ち込んでいた。

 だからなるべく元気良く声をかける。


「ケルビム様!」

「? ああ、君は!」


 そうしてノインがパッとこっちを向いて、顔を明るくさせた。

 なるべくルベルに対し、優しい笑顔を浮かべる。


「やっと顔がはっきり見えたね。あの……さっきは本当にごめんねぇ。驚かせたよねぇ?」

「へ? そ、そんなことは……」


 ルベルは恥ずかし気に目を逸らすと、エメラルの後ろに隠れようとした。

 だが強制的にエメエルに前へ押し出され、逃げ場を失ってしまう。

 しばらくして覚悟を決めたのか、叫ぶようにお礼を言った。


「え、えと……命を救っていただいて、あ、ありがとうございました! このことは一生忘れません! 貴方はマザーに匹敵する程、大恩のある方です! だから、だから――!」


 次第に熱がこもり、頭を下げるルベルに、逆にノインの方が困ったような顔をする。


「そこまで畏まらなくても良いよぉ。でもこっちこそ、どういたしましてだねぇ」

「…………!」


 するとルベルはバッと顔を上げ、目を見開いて……次に嬉しそうに、こくこくと勢い良く頷いた。

 調子が出てきたのか、胸の前で両手を組み、しどろもどろながら名乗る。


「あの! お、俺、ルベルって言います! よろしくお願いしますケルビム様!」

「うん、よろしくぅ。それと僕のことはノインで良いよぉ。僕も君を、ルベルちゃんって呼ぶから」

「……ちゃん……?」

「? あれ? 違ったぁ? 君、女の子でしょ?」


 その時、何故かルベルは惚けたように固まって。

 慌てたようにノインが「嫌だったかなぁ?」と聞くと、静かに首を振った。


「……………違わない。嫌じゃない」


 それからとても可愛らしい、心の底から幸せそうな笑顔を咲かせた。


「本当にありがとう。嬉しいよ――ノイン」


 まるで救われたように瞳を輝かせて。

ざっくり設定16

ノイン・セラフィム

型番Kronos-C-009。クロノス砦出身。聖歌九隊に所属し、セラフィムの称号を持つ赤髪の天使。全天使の中でも最強、最高性能を持つ機体。業火を操る能力を持ち、辺り一体を焼き尽くすことが可能。シンプルながら非常に強力な力で、現在はこの能力を用い、マザーの本体を守る任務についている。そのため、“地上”とコンタクトを取る際は通信、専用の義体を使ってコミュニケーションを取る。

見た目は大柄でがっしりとしているが、性格は反対におっとりしていて、間延びする喋り方をする。ルベルと出会った時はまだケルビムの称号だった。

実は天使の中でも相当な変わり者で、異世界の漂流物を収集、研究している。その研究成果はかつての人類が解析困難であった音声媒体の再生に成功したり、英語や日本語の解読に成功していたりと、相当進んでいる。

その中でも好きな言葉は「Happy birthday」。エメラルとルベルはノインの影響で、異世界の言葉を複数知っている。

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