表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。  作者: 九条蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/55

第45話 とある〝調教師〟の狙い

調教師(テイマー)〟松本俊彦──彼はもともとカメラ撮影が趣味なだけの冴えないサラリーマンであった。もともと静止画を撮る事が好きだが、その過程で動画も撮るようになったのだ。

 堅実で、変わり映えがしない生き方。裕福ではないが、少しずつ貯金をしていればそれなりに人生は楽しかった。恋人も家族も友人も少ない彼にとっては不自由のない生活だったのだ。

 しかし数年前、そんなゆったりとした日常に変化が訪れる。数少ない友人から投資を勧められたはいいものの、それが詐欺で貯蓄を失うどころか借金まで背負う羽目になったのだ。趣味のカメラに費やす金もなく、ただ借金を返済するだけの生活。もう人生はそれだけで終わるのではないか──そう絶望していた矢先に、世界は変革を迎える。ダンジョンが生まれたのだ。

 何も生活に希望がなかった彼の中に、世界でも未知なダンジョンを自身のカメラに収めたいという欲が芽生えた。危険らしいが、どうせ生きていても良い事などないのだから、安い命だと思えたのだ。そこで、SNSを通じてダンジョン・シーカーと知り合い、中を撮影させてもらう事になった。まだDtubeができる前の話で、ダンジョンの中に入った人類としては前から数えた方が早いだろう。

 松本にとって予想外だったのは、ダンジョンの中に入って松本にもスキルが目覚めたという事だった。

 目覚めたスキルは〈使役(テイム)〉。魔物と意思を疎通し、従える事ができるスキルだ。

 最初は倒して使役するしかないと思っていたが、そのうち魔物の思考や欲求を読み取れるようになり、語り掛ける事で使役に成功する事例ができた。

 しかし、意思疎通をするにはある程度知能がある魔物でないといけなかった。獣型や無機物な魔物よりも人型に近い魔物の方が意思疎通が容易く、また欲求もわかりやすいのだ。獣型の魔物も使役は可能だが、魔物同士を連携させるなら知能が高い方が良い。最初はゴブリンやコボルトなど、妖魔などを従えるところから始めた。〈使役(テイム)〉を用いて魔物を何体か使役すると、その魔物を率いてより強い魔物を従えていく、というやり方を取るようになった。

 そこで松本は、魔物同士の戦いを動画に収める、という事をしていた。異界の生物同士で戦わせた動画はきっと流行って売れるだろうと思ったのだ。

 だが、現実はそう甘くなかった。まだダンジョンについて皆が無知だったという事もあり、それが現実の動画だとは誰も信じなかったのだ。

 CGだ詐欺だと散々叩かれて、松本に魔が差した。


(じゃあ、本物だとわかるような映像を撮ってやろうじゃないか……!)


 松本が自身の使役する魔物に同行していた知人シーカーを襲わせ、そのシーンを撮影したのはその翌日の事だった。

 だが、松本はこの時に新たな興奮を得る事となる。自分が本当に欲していた絵はこれだったのだ、と知ってしまったのだ。

 また、今度は生身の人間を襲わせている事もあって、CGだとは疑われなかった。海外の闇サイトでその動画は高く評価され、高値で買い取ってもらえたのだ。ようやく、自分の趣味と実益が全て満たされる商売を見つけた。

 魔石の換金は確かに高値だが、松本の負っている負債に対しては焼け石に水程度だ。だが、このダンジョンマーダー動画は異なる。自分の借金返済の未来が見えたのだ。


(もっと効率的に稼げて、良い絵を撮るには……?)


 ダンジョン・シーカーは殆どが男性だ。女性のマーダー動画を求める声が闇サイトでは挙がっていたが、なかなかその機会は訪れなかった。

 それに、シーカー達の腕も上がってきている。彼らを殺す為には、自身の使役する魔物も強化していかなければならなかった。

 それから、松本は自身の魔物を少しずつ強化し、更に強い魔物を使役していった。また、ソロのシーカーを闇討ちし、動画を撮影しては海外サイトで売っていた。それがダンジョン発生最初の一か月くらいの出来事だった。

 この時には、松本は殆どダンジョンの中で過ごすようになっていた。ダンジョン外に出るのは、マーダー動画を販売する際と借金の返済、そして食糧調達などの理由がある時だけだ。

 最初の頃は順調だった。しかし、松本の資金繰りの雲行きが怪しくなるツールが生まれた。

 Dtubeだ。

 Dtubeが始まり、Dtuberという新たな職が生まれてからは今までのようにただ襲うだけとはいかなかった。万が一自分が写されてしまっては元も子もないからだ。

 以降はDtubeをしていないシーカーだけに狙いを定め、慎重に素材集めに勤しんだが、またある変化が生まれる。

 UtuberからDtuberに転向する者が現れ、その中から人気Dtuberが現れたのだ。その筆頭が大正フラミンゴとヒルキンだった。この二組は松本からすれば、かなり鬱陶しい存在だった。

 もともと松本はUtuberという職種を嫌っていた事もあるが、彼らのせいでDtuberが余計に増えてしまった。今はまだ中層以降までくる人気Dtuberはいないが、このままでは自身の()()まで彼らが来てしまう。彼らに中層まで来られてしまうと、その素材集めにも影響が出てくる事が懸念された。


(こいつらをこれ以上来させてはいけない……!)


 松本は大正フラミンゴとヒルキンをDtubeから撤退させるにはどうすれば良いかを考え始めた。

 そこで調べていたところで目に入ってきたのが、大正フラミンゴのダンジョン内でのカメラマン募集。他人の目に触れられるリスクがあるが、ここで人気Utuberの惨殺動画が世に出回ればDtubeを始めようというUtuberは少なくなるだろう。自らの狩場を荒らされるリスクもない。

 松本からすれば狙うのは大正フラミンゴとヒルキンのどちらでもよかったが、大正フラミンゴがちょうどカメラマンを募集していた事に加えて、若い女性の二人組なので、動画の()()にも期待できる。

 高値で売れる事は間違いないので、多少危険ではあるが大正フラミンゴのカメラマンとして参加する事とした。護衛のシーカーと大正フラミンゴの二人を殺し、最後はカメラマンである自分の目の前でミノタウロスに斧でも振り上げさせれば映画さながらのシーンが撮れるだろう。

 そして、松本のシナリオ通りに話は進んだ。

 ミノタウロスとミノタウロス・リーダーの前に大正フラミンゴは成すすべなく破れ、これからいざ目的の絵が撮れるとなった瞬間に──イレギュラーが起きた。邪魔が入ったのだ。

 元勇者と元魔王のカップルDtuber【そまりんカップル】とかいうふざけた名前の配信者だったが、その名前とは裏腹に、本当に元勇者と元魔王なのではないかと思う程の強さだった。松本の使役する魔物の中で最強だったミノタウロス・リーダーが瞬殺されたのである。

 これはあまりに予想外だった。

 ミノタウロス・リーダーをぶつけていれば精鋭パーティー以外のシーカーは楽勝だと思っていたのだが、全く及びもしないとは思わなかった。

 それから松本は土日の間にダンジョンを潜った。あの二人に勝てる魔物を使役しなければならないと思ったし、何より計画を邪魔をされたのが許せなかった。


(あのガキどもめ……絶対に殺して動画にしてやるぞ)


 松本は心に誓った。

 それに、むしろ高値で売れるかどうかでいうと、【そまりんカップル】の登場は追い風になるかもしれない。十代の男女の、目の前で魔物に恋人を殺される様を見て絶望している様を動画に収められるのだ。加えて、大正フラミンゴの御蔭でバズり知名度が上がっている。より価値は上がるだろう。値段次第では、借金も返済できて晴れて元の生活に戻れる。

 そうして復讐を誓った松本は、新たな魔物を使役し、深い層を目指した。

 そして、三〇階層……ようやく、最高の相棒に出会えた。

 その相棒は今もムシャムシャとシーカーの死体を喰らっている。

 最初は見ていて吐き気を催したが、今では随分と慣れてしまった。これまで何人ものシーカーを魔物に殺させていた御蔭で、色々免疫がついたのだろう。随分と壊れてしまったものだ。


「まづもどォ」


 醜悪で巨大な影がこちらをふと見て声を掛けて来た。

 相棒だというのに、彼の喋り声はこちらの肝を冷やす。


「おんな、ぐいでぇ」


 魔物は人骨を嬲りながら言った。


「わかったわかった。今活きのいい女がこちらに向かっているから、ちょっと待ってろ」


 松本は苦い笑みを漏らして言った。

 おそらく、この魔物はゲームで言う〝ボスキャラ〟のような存在だ。これまで見て来たどの魔物とも存在感もスケールも異なっている。

 そのボスキャラをも使役できるこのスキル〈使役(テイム)〉はかなりチートではないかと思うが、どちらかというと彼の場合は使役しているというより、互いに利害関係者、という状態だ。

 ダンジョンの魔物は階層間を移動できない。それはおそらくダンジョンのルールなのだろう。

 だが、移動する手段がある。それがスキル〈使役(テイム)〉によって使役される事だ。

 幸い、この魔物はぎりぎり言葉を操れる。そこで、松本は、〝ボスキャラ〟との交渉を始めたのだ。たくさん人を食わせてやる代わりに、俺の〈使役(テイム)〉を受け入れろ、と──。

 腹を空かせていた魔物は松本の提案を受け入れ、松本に使役される代わりに人を食らった。この二日今日だけで中層にいたシーカーはかなり食ってしまった。ただでさえ中層まで来れるシーカーは少ないのに、このままでは枯渇してしまう。いずれ上層の方まで出向く羽目になるだろうが──それもそれで良い。

 そまりんカップルのふたりを殺した動画を撮れば、金になる。そうすればダンジョン生活ともおさらばだ。おそらくもう松本の正体もバレてしまっているだろうし、東南アジアにでも高跳びをして、のんびり暮らすのが良いのかもしれない。金に困ればその国のダンジョンにでも入ってまた同じ事をすればいい。

 松本の人生設計は完璧だった。


(さあ、早く来い糞ガキ共……俺の邪魔をした事を後悔させてやるぞ)


 松本は下卑た笑みを浮かべて祠の入り口を眺め、来訪者を待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ