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元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。  作者: 九条蓮


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第36話 シーカー狩り

 翌日、学校に登校すると騒然としていた。それは、先週のように俺と果凛を見て騒いでいるというより、特別な話題で持ち切り、という感覚だった。


「どうかしたのでしょうか? 皆様方、どこか落ち着かないようですけれど」

「さあ……もしかしてなんかWEBで話題の事でもあったのかな」


 先週の配信でバズって以降、スマホのアプリのニュースやSNSを遮断しているので、どうにも旬の話題にはついていけていない。

 やっぱり自分が有名人扱いされる事に心がついてこなくて、精神的に参ってしまう。有名配信者やインフルエンサーはこの感覚を常日頃から味わっていると思うと、やっぱり凄いなぁと思わされた。

 何度かバズを繰り返すうちにこの感覚にも慣れるのだろうか? 大正フラミンゴのふたりも最初の頃はこんな感じで落ち着かなかったとか? 怖いもの知らず感があるモエさんはともかく、ハルさんは基本的に大人しくて気弱そうなのに、この重圧によく耐えられるものだ。今度会った時に訊いてみよう。

 昇降口で靴を上履きに履き替え、教室に入ると──俺達を見掛けるや否や、何人かのクラスメイトが駆け寄ってきた。


「おいおい、風祭さん、冴木! 大丈夫なのかよ⁉」

「暫く配信しない方が良いんじゃない⁉」


 駆け寄ってそう言ってきたクラスメイトは、クラスの中でもダンジョン配信が特に好きな連中だ。有名配信者だけでなく、マイナーなシーカーの配信も追っている、所謂ダンジョン配信オタクである。


「どうした?」

「え? 配信者なのにまさか知らないのかよ。配信関連のニュースとか見てないのか?」

「いや、自分のニュースとか見るのが嫌で通知とか切ってるんだよ……慣れてなくて」


 正直にそう返すと、クラスメイト達はやや呆れた笑みを浮かべていた。何で配信者やってるんだ、というような意図が込められていそうだ。

 ただ、どうせ誰も見ていないだろうと思いながら配信しているのと、いきなりバズを体感するのとでは心構えが全く異なるのでそこはどうか理解して欲しい。

 果凛が配信オタのクラスメイト達に訊いた。


「それで……何かありまして?」

「あ、そうそう。実は──」


 昨日シーカー殺しが多発したんだ、と彼は続けた。

 事情を詳しく訊いてみると、昨日殺されたシーカーは三人。いずれも特に関わりも関係性もない三人のシーカーで、地下十五層前後で細々とダンジョン探索をしていた無名なDtuberだそうだ。


「映像は見れるか?」

「いや、Dtubeの仕様上、配信者が死んだら配信は停止される上にアーカイブは残らないから残ってはない」

「スクショ動画を撮ってる人はいるかもだけど、さすがに急だったから僕も撮ってなかった」

「撮ってなかったって事は、お前らは見ていたのか?」


 俺の質問に、二人は顔を見合わせ、こくりと頷いた。


「見ていた配信者は別々だったんだけど、ほぼ同時刻で同じフロアにいたみたいだから、多分同一犯だと思う」

「同一犯って事は……敵は人間?」

「わからない。襲っていたのは確かに魔物だったけど、これまでとは動きが違ったんだよ。まるで、人間の動きがわかってるみたいに追い詰めていて……狩られてるみたいだった」

「狩られている、ね……」


 俺と果凛は視線を合わせる。

 どうやら、ミノタウロス・リーダーに大正フラミンゴを襲わせた奴と同一犯である可能性が高い。また、襲われたシーカー達に共通点が見られなかった事から、無差別犯で間違いないらしい。


「どんな魔物だったかわかるか?」

「いや……いきなり襲われた感じで逃げるのに必死って感じだったから、正確に姿までは捉えられてなかった。何体かの魔物に追われてる感じだったよ」

「僕が見ていた配信でも同じ感じだった。でも、こっちは最後に留めを刺したやつの声が聞こえたんだ……」

「声? 魔物が喋ったんですの?」


 果凛も信じられなかったようで、驚いたように訊いていた。果凛の質問に、配信オタクのクラスメイトはこくりと頷いた。彼自身実際に耳にしているのに信じられていないようで、固唾を飲んでいる。


「それで、そいつは何て言ったんだ?」


 俺の質問に、クラスメイトはこう答えた。


『いただきます』


 その声が聞こえた後、配信者の視界は真っ暗になったのだという。そこで息絶えたのだろう。その姿までは捉える事はできなかったようだ。

 いただきます……意味はわかる。そして、おそらく、そのままの意味だろう。その魔物は配信者を食ったのだ。

 曰く、その魔物の喋り方は覚えたてのようなつたない喋り方だったという。それでいて低くうなるような、背筋が凍るような声だったそうだ。

 食人鬼の類の魔物だろうか。地下二〇階層までには当然それらしい魔物はいなかった。

 もう少し色々彼らから聞き出そうと思ったところで朝礼のチャイムが鳴ってしまい、話は中断。俺達は自席に着いた。

 授業中、果凛が小声で話し掛けてきた。


「……早速動き始めましたわね」

「ああ。思ったより早かったな」


 話を聞いた感じでは、シーカーを追い詰める役割を担う魔物と、とどめを刺す話す魔物がいるという事だろうか。

 地下十五層前後で活動しているシーカーとなると、実力もそれなりにあるはずだ。そのシーカーを追い詰め殺したというのだから、かなり強い魔物である事には違いない。

 ミノタウロス・リーダーを俺達にやられて更に強い魔物を使役(テイム)したというのだろうか。しかも、かなり深くまで潜れる人間で? そんな奴本当にいるんだろうか?


「今夜、潜りませんこと?」

「いや……その前にもう少し情報を集めておきたい。いくら何でも敵が未知過ぎる」


 おそらくであるが、敵──〝調教者(テイマー)〟は俺達を狙っているように思う。

 大正フラミンゴのふたりを公衆の面前で殺すつもりだったのに邪魔されたとなれば、俺達に恨みを持つのは当然。次にダンジョンに入った際にはおそらく狙ってくるだろう。せめて、もう少し相手の情報を仕入れてから挑みたい。大正フラミンゴの知り合いのシーカーに当たってもらって──と考えていた時に、一通のLIMEが届いた。ハルさんからだ。


『今日事務所まで来れますか? ちょっと見せたいものがあって』


 渡りに船。ちょうど、向こうも同じ事を考えていたようだった。

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