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第九話 それぞれの道へ

春風が優しく吹き抜ける午後。桜の季節は終わりを迎え、若葉が柔らかく揺れていた。


咲希は静かに目を閉じ、桜の木の下で過去の記憶に思いを馳せた。「……手紙を書こう。」その言葉は胸の奥から自然とこぼれた。幼い日の景色、交わした言葉、遠い背中。そのすべてが今、彼女の心に温かな灯火となっていた。


一方、春乃は同じ桜の木を見上げ、不安と期待が交差する未来を思い描いていた。「この街を出て、新しい場所で学びたい。」彼女の決断は、若葉が空へと向かって伸びる姿に背中を押されていた。


悠斗は桜の幹に手を置き、風の流れを感じながら呟いた。「……俺は、この場所を守りたい。」楓との思い出が息づく故郷で、桜の記憶を受け継ぎ、未来へと紡ぐ決意が揺るぎないものとなっていた。


咲希はペンを走らせ、過去と今を繋ぐ言葉を紡ぐ。春乃は新しい世界へ踏み出すための第一歩を心に刻む。そして悠斗は、この場所で生きることの意味を噛みしめていた。


若葉がそっと揺れる。その揺らぎは、迷いながらも前に進もうとする三人の心を映すようだった。春の終わりと初夏の気配が、静かに街に広がっていく——



親愛なる楓へ、


春の風が頬をなでるたび、あなたと過ごした日々が鮮やかに蘇ります。ふと思い出すのは、あの桜の木の下で肩を並べて座った午後。花びらが静かに舞い降り、あなたが「この景色、一生忘れない」と微笑んだ顔が今も目に焼き付いています。


覚えていますか?夏の日差しが眩しいあの日、二人で川辺まで歩いたこと。水面に映る空を指さして、どちらがより美しいかなんて、くだらない冗談を言って笑い合ったこと。冷たい水に足を浸して、あなたがはしゃぐ声が今も耳に残っています。


秋の終わり、枯葉が舞う道を並んで歩いた帰り道。少し冷たい風に肩を寄せ合い、あなたが静かに話してくれた夢。あの時の真剣な眼差しに、私はただうなずくことしかできなかったけれど、心の中ではあなたを誇りに思っていました。


季節が巡り、今は新しい風が吹いています。あなたが遠い場所で頑張っていること、私は知っています。でも、時々、あの頃の思い出が恋しくて、こうして手紙を書かずにはいられないのです。


どうか、あの頃の笑顔を忘れないで。あなたがどんなに遠くにいても、私の心はいつもあなたと共にあります。また桜の季節に、あの木の下で会える日を心から願っています。


愛を込めて、

咲希

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