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第四話「桜の記憶、風の行方」

春の風が吹くたびに、桜の花びらがひらひらと舞い落ちる。


窓辺にそっと降りたそのひとひらを、咲希はじっと見つめた。


——まるで過ぎ去った日々を振り返るように。


その淡い花びらは、まるで薄れゆく記憶の欠片のようだった。咲希の瞳に映るのは、ただの花びらではない。かつて共に笑い合った日々、静かに涙を流した瞬間、そしてもう戻らない誰かの面影。


悠斗の言葉が、まだ心の奥に静かに響いている。


「桜、だいぶ散ってきたな……」


その一言は、過去への扉をそっと開く鍵のようだった。


咲希は静かに頷き、そっと花びらを指先で撫でる。その感触は儚く、まるでふとした瞬間に蘇る淡い思い出のように、すぐに指先から滑り落ちた。


「けれど、また咲くんだよね。来年も、その次の年も。」


咲希の声には、過ぎ去った時間への切なさと、未来への小さな希望が宿っていた。


悠斗は少しだけ笑みを浮かべ、視線を花びらから遠くの空へと移す。


「そうだな……桜は、散ることで新しい季節を迎えるんだ。」


その言葉に、過去の記憶がそっと包まれ、新しい風が二人の心を優しく撫でた。


春の風に舞う桜の花びらは、ただの花びらではなく、二人の心に刻まれた思い出そのものだった。


春乃は、その場の空気を感じ取りながら、ふと咲希に視線を向けた。


咲希の指がそっと動いたのを、彼女は見逃さなかった。


悠斗の言葉の奥にあるもの。


咲希の仕草に滲むもの。


そして、その両方を結びつける何か——楓の存在。


春乃は、慎重に言葉を紡ぐ。


「……悠斗くん、楓さんのこと、まだよく思い出す?」


その問いに、悠斗は桜を見つめたまま、ゆっくりと目を細めた。


「思い出さない日なんて、ないよ。」


それは決して重く沈む言葉ではなく、ただ静かに紡がれたもの。


けれど、その声音の奥には、確かに過去の余韻が揺れていた——。


咲希は、その言葉を受け止めながら、胸の奥で疑問を抱く。


悠斗が思い出す「楓」と桜。それは、彼にとってどんな意味を持つのだろうか。


そして、咲希自身にとっても——。


春乃は、そっと息を吐く。


悠斗、咲希、楓——もしかしたら、彼らの間には、まだ明かされていない何かがあるのかもしれない。


風が吹いた。


桜の花びらが、ふたりの間を静かに舞い落ちる。


その行方を見つめながら、咲希はゆっくりと目を閉じた。


「……桜って、散るけれど、また咲くよね。」


その言葉が、悠斗にも春乃にも、そして楓の記憶へと届くように響いた——。


春が終わりゆく中で、桜の記憶だけは、風に乗り続ける。

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