第8話 剣術と害獣
『強くなって隠しボスたちと戦いたい』と考えたリオル。
だがリオルの体はモヤシみたいに貧弱だったため、手始めに体力作りから始めた。
とりあえず朝のランニングを日課としていたら、騎士のラウラが一緒に走ってくれるようになった。
理由は分からない。
もしかしたら、ラウラはショタコンと呼ばれるような人種なのかもしれない。
なんだかリオルが走り終わって息を荒げていると嬉しそうな眼を向けて来るのだ。
そういうフェチなのかもしれない。
リオルはラウラのことを、ちょっと疑った目で見ていた。
だが理由はともあれ、騎士が訓練に付き合てくれるのは幸運だ。
『ラウラ、良かったらボクに剣術を教えてくれないかな?』
試しにお願いをしてみたら、ラウラは嬉しそうに頷いてくれた。
そうしてラウラから剣術を教わるようになって、二週間ほど経過したころ。
「リオル様! 臆せず打ち込んでください!!」
「ふッ!!」
「その調子です!」
ガツン! ガツン!
屋敷の中庭に木剣がぶつかる音が響く。
リオルが剣を振り抜くと、ラウラがガードして受け止める。
打ち合いを続ける二人。
しかしラウラの重い一撃が振り下ろされると、リオルは受け止めきれずに吹き飛ばされてしまう。
「リオル様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。受け身は得意だから」
リオルは立ち上がると『ケガもしてないよ』とアピールをして手足を動かす。
「それよりもラウラは流石だね。受け流そうとしたんだけど、衝撃が重すぎて吹き飛ばされちゃったよ。ラウラが積み重ねてきた努力の重さを感じちゃった」
「あ……あ、ありがとうございます」
リオルが褒めると、ラウラは照れたようにはにかんだ。
ソワソワとごまかす様に髪を触る。そんなに嬉しかったのだろうか。
(ラウラくらい強いなら、褒められ慣れてる気がするけど……)
騎士団内で模擬戦とかしないのだろうか。
リオルは不思議に思いながらも、あまり深くは考えずに受け流した。
「ラウラが教えてくれてるのほ『覇斬流』だっけ。帝国では有名な流派の一つなんだよね?」
「はい。帝国でメジャーな三大流派の一つです。一太刀ごとに力を込めて、必殺の一撃を何度も叩き込む。特に大剣などの大きめの武器と相性が良い流派ですね」
「そっかー。ボクも頑張ればラウラみたいに強い一撃が出せるようになるかな?」
「きっと私なんて超えるほどに強くなれますよ! 私の目から見て、リオル様はとても筋が良い――いえ、もはや天才と評しても良いほどに呑み込みが早いですから!!」
「あ、ありがとう……」
ラウラがふんすと鼻息を荒くしてリオルを褒めた。
出来が良い弟子は教える方も楽しいのだろう。最近ではリオル以上にラウラが剣術の稽古にやる気を見せてくれていた。
「ただ、少し不思議です。リオル様は以前にも武術を習った経験があるのでしょうか?」
「いや、無いけど……」
「そうですか? リオル様はたまに『手練れの暗殺者』のような動きをすることがあります。敵の一撃を陽炎のように避けて、死角から致死の一撃を叩きこむような……てっきり、誰かから教わった物かと」
「た、たまたまだよー」
リオルは目を逸らして冷や汗を流した。
完全に前世の癖が出てしまった瞬間である。
『ドラグ・マキナ』の敵たちは、どいつもこいつも強大な力を持った化け物たちだった。
とても人間の膂力では太刀打ちできるような相手では無かったため、まともに攻撃を食らえば即死は当たり前。
攻撃を避けて意識の外から一撃を叩きこむような戦い方が、体に染み込んでしまったのだ。
(あの戦い方も弱くは無いと思うけど、あくまでもボクの我流だ。せっかく師匠が居るんだから、一度忘れて基礎から学びなおさないとね……)
『ドラグ・マキナ』で身に着けた戦い方は『自分よりも圧倒的に強い化け物を狩る』ための戦い方だ。
しかも完全な我流であるため、リオルは感覚に頼った戦い方をしていた。
もっと強くなるためには、しっかりとした知識と技術が必要だ。
そのためには一度基礎から学ぶ必要がある。
そうリオルは考えていた。
「お二人とも、飲み物はいかがですか?」
リオルたちが休憩していると、フェリシアがやって来た。
トレイに飲み物が乗っている。爽やかな香りからすると、レモンの果実水だろう。
「ありがとう。美味しくいただくね」
「私もいただきましょう」
リオルが受け取ると、続くようにラウラも手に取った。
口に含むと、レモンの酸味が疲れた体に染み渡る。
「ところでラウラ様、領内の村がゴブリンに襲われていると聞いたのですが……」
「え?」
フェリシアの言葉に、ラウラは驚いたように目を向けた。
あまり二人が話すことは無い。
フェリシアはリオルたちが訓練をしているのを遠くから眺めているだけで、終わったらリオルに付き添って風呂へと向かってしまう。
いきなり話しかけられてラウラは驚いたようだ。
いや、驚いたのは話の内容のせいでもあるのだろう。
「どこで、それを……」
「騎士の方が話しているのを聞きました」
「……そうか」
ラウラは気まずそうに目を逸らす。
なぜか困っているようだ。
「……ゴブリンくらいなら、すぐに退治しに行ったら良いんじゃないの?」
ゴブリンはこの世界ではメジャーなモンスターの一つだ。
高い繁殖力と環境適応能力の高さによって世界中に生息している。
分類としては亜人――人に近しい種に分類されており知能もそこそこ。
しかし、高い凶暴性と特殊な繁殖方法によって、有害なモンスターに区別されてる駆除対象だ。
幸いなことに弱いモンスターなので、騎士団が行けば簡単に駆除できるはずだ。
「……騎士団は人手不足で対処は冒険者に任せるそうです。団長がすでに決定いたしました」
「そっかー」
ラウラは悔しそうに歯噛みしていた。
本当は騎士団がすぐに何とかしたいが、人手が足りなくて動けないのだろう。
リオルからみて騎士団は暇そうに見えたが、意外と仕事が大変らしい。
そうなると冒険者に駆除をお願いするしかないのだが……なかなか厳しいだろう。
冒険者は金を貰ってモンスターを倒したり、未開の地にしかない資源を持ち帰る人たちだ。
例えば『街の害になるモンスターの討伐』『山奥にしか咲かない薬草の採取』なんかが主な仕事となってくる。
当然ながら冒険者は金を貰えないと仕事を請け負ってくれない。
そしてゴブリン退治は金にならない。
小さな村が出せる報奨金なんて大したものでは無いし、ゴブリンの死体からは売れる素材も取れない。
日本ならば低賃金でも猟友会がクマの駆除をしてくれるが、異世界の冒険者は慈善事業でゴブリンの討伐はしてくれない。
当たり前の話だが、仕事をして欲しければ報酬が必要なのである。
「ゴブリンはすぐに退治しなくても大丈夫なの?」
「……現状では作物や家畜が被害を受けているそうです」
「家畜が被害を受けているとなると、人が狙われるのも時間の問題ですね」
家畜を襲いだしたという事は、それだけゴブリンの群れが成長している証拠だ。
そうなれば、次に狙われるのは村民たちである。
依頼を受けてくれる冒険者を待っている時間はないのかもしれない。
(……まぁ、ちょうど良いのかもしれないね)
リオルは空を見上げて、なにかを考え始めた。




