第5話 破滅フラグ? アイツなら死んだよ
誘拐事件が終わってから数日後。
事件直後は大変だった。
メイソンが倒れたり、リオルの父へ事件解決の報せを出したりと屋敷がバタバタしていたが、今では落ち着きを取り戻し日常に戻っていた。
さわやかな光が降り注ぐ朝。
朝食を終えたリオルは屋敷の廊下を歩きながらメイドの女性に声をかける。
「おはよう。今日も天気が良――」
「り、リオル様!? も、申し訳ありません。他に仕事がありますので失礼いたします!」
リオルが声をかけると、メイドは逃げるように走り去った。
残されたリオルはがくりと肩を落とす。
(……やっぱり駄目かぁ。相変わらずボクの事が怖いみたいだ)
屋敷に帰って来てから、リオルは使用人たちと仲を深めようと頑張っていた。
笑顔を心掛けて、気さくに声をかける。
しかし使用人たちはリオルを警戒しているらしい。リオルが近付くと逃げてしまう。
野良猫のような警戒心だ。
それもそのはず。
リオルの性格は以前と百八十度変わっている。
知り合いの人格が急に変わったら不気味なのだ。
暴君のようなリオルとのギャップがひどすぎて、かえって使用人たちから警戒されていた。
しかし、リオルは細かい感情の変化に疎い。『ドラグ・マキナ』でのぼっち生活が長すぎたのだ。
なぜ怖がられているのか分からずに『なんでだろう?』と首をかしげていた。
「フェリシア、ボクの顔って怖いかな?」
「いいえ。とってもカッコいいと思います」
いきなり性格が変わったリオルと、まともに接してくれるのは一人のメイドだけ。
『フェリシア』は獣人の少女だ。
黒いミディアムヘアの頭から猫のような耳が生えてピコピコと動いている。スカートから飛び出した尻尾はピンとアンテナのように伸びていた。
フェリシアは誘拐犯に捕まっていた少女である。
すっかり傷は治っており、剥がされていた爪も生えている。ちょっとズルをして、リオルが治療した結果だ。
体調が回復してからはメイドとして雇われることになり、リオルのお世話係をしてくれている。
(フェリシアはこう言ってくれるけど……他に理由があるのかなぁ……)
リオルはピカピカに磨かれた窓を見る。
そこには薄っすらとリオルの顔が映っていた。
艶やかな黒い髪。少し釣り目っぽい猫のような目。表情は柔らかく、どちらかといえば大人しくて気弱そうな印象を受けるだろう。
(怖くない気はするけど……正直言って、人の形をしてればマシな気がしてしまう……)
『ドラグ・マキナ』の世界では、人が人の形をしているほうが珍しかった。
『顔中が目でおおわれてる』とかで無ければ、リオルにとってはまともな顔である。
リオル自身が『自分の感覚なんて当てにならない』と確信していた。
(もうちょっと、笑顔の練習とかするべきかな……)
リオルは窓に写る自分を見ながら、口元に指を添えた。
口角を指で持ち上げる。なんともぎこちない笑顔だ。猿のほうが上手い愛想笑いができるだろう。
リオルが窓に反射する自分を見つめていると、ふと気づいた。
(そういえば、こんな見た目のゲームキャラが居た気がするなぁ……)
前世のリオルはゲームが好きだった。
もっとも、前世の記憶の大半は『ドラグ・マキナ』での死闘が占めているので、ずっとずっと昔の思い出だが。
ともかく、まだ日本で生きていたころ、遊んだゲームにリオルそっくりなキャラクターが出ていたことを思い出した。
(懐かしいなぁ。たしかゲームのタイトルは『ラスト・クエスト』だっけ。昔ながらのコマンド式RPGで、何度も登場する敵キャラが嫌な奴だった気がする)
ずっと昔の記憶なので、全体的にもやがかかってぼんやりした思い出だ。
だが、なんとなくのゲームシステムと敵キャラが嫌な奴だったことは浮かんでくる。
(そういえば、あのキャラの名前も『リオル』だった気がする。偉い貴族の子どもで、ひたすら威張ってて……あれ? あまりにも『ボク』と『ゲームのリオル』って一致しすぎてない?)
見た目はそっくり。性格はどちらもドブカス。社会的地位もドンピシャだ。
あまりにも似すぎている境遇に、リオルの脳内ではパチパチと点が繋がっていく。
――これ、ただ似てるんじゃなくて本人じゃない?
(そうだよ。世界観もキャラクターも一致しすぎてる。つまり、ボクは『ゲームのリオル』と同一人物ってこと? あれ、でもリオルってゲームの終盤では死んでた気がする……)
嫌なキャラクターの定めと言うべきだろうか。
詳しい理由までは覚えていないが、リオルはゲームの終盤で死んでいた気がする。
つまり、リオルがこのままぼんやりと生きていたら『ゲームのリオル』と同じように破滅の運命が待っているかもしれない。
(た、大変だ。なんとかしないと!? ……あ、ボクは死なないんだった。関係ないか)
このままでは死んじゃうかもしれない!?
なんて、一瞬だけ焦ったリオルだが、そもそも死なないので関係なかった。
破滅の運命とか言われても知ったこっちゃないのである。ぶつかれば運命が勝手に粉々になるのだ。
(それよりも『ラスト・クエスト』の世界なら強いモンスターがいっぱい居た気がする……ボクが戦っても良いのかな? たぶん、良いよね?)
リオルはゲームのことを思い出して、ワクワクと胸を高鳴らせた。
『ラスト・クエスト』には隠しボスも多く存在していたため、むしろクリア後のやり込みが本番と言われていたほどだった。
まだ見ぬ強者たちにリオルは笑顔がこぼれる。
リオルは死にゲーである『ドラグ・マキナ』の世界を生き抜いた。
数えきれないほどの死を経験しながら、それでも終着まで戦い続けたのはリオルが戦いを楽しんだからだ。
例え『ドラグ・マキナ』から脱出しても、リオル自身が闘争を求めていた。
(せっかくだから、『ドラグ・マキナ』の魔法とかは縛って一から鍛えなおそうかな。敵と戦うまでの準備も楽しまないとね)
リオルはニコニコと笑みを浮かべながら歩き始めた。
先ほどまでの笑顔の練習よりも、その笑顔が一番自然だっただろう。




