第12話 剣
リオルは剣を振るってデーモンに迫る。
手刀によって攻撃は防がれる――だが、それで良い。
カウンターのようにデーモンが手刀を振るうがリオルにはかすりもしない。
「魔力の流れが見えないのは簡単な仕掛けだったね。まさか、薄っぺらい魔力を張り付けて隠してるだけとは思わなかったよ」
デーモンの魔力の流れが見えないのは簡単な理由だった。
魔力の流れを隠す様に薄っぺらい魔力を張り付けていただけ。
ハンカチを被せて物を隠しているようなものだった。
「ただ、単純なマジックほど見破るのは難しい……キミがボクの自殺に動揺してくれなかったら気づかなかったかも」
得体の知れない化け物でも、人が急に自殺をするとビックリするらしい。
リオルの行動に動揺したデーモンは魔力の隠ぺいに失敗した。
カーテンが風に揺らいだように、一瞬だけ魔力の流れが見えたのだ。
そして仕組みが分かれば対処は簡単だった。
「魔力隠ぺいは難しいよね? 隠ぺいに魔力を注ぎすぎると体の動きに支障が出る。逆に薄すぎれば魔力を隠し切れない。簡単そうに見えて高度な魔力操作が求められる――だから、外から魔力を込めてぶっ叩けばボロが出る」
ガン! ガン! ガン!!
リオルは過剰なほど魔力を込めた剣をデーモンに振り抜く。
そのたびにデーモンの魔力隠ぺいが揺らいでいた。
魔力の水面が揺れるたびに、隠されていたデーモンの魔力がちらりと見える。
たった数秒魔力が見えるだけでも致命的だ。
『ドラグ・マキナ』で鍛えられたリオルの観察眼と反射神経なら、たったそれだけの魔力からデーモンの攻撃を避けることが出来る。
(ま、避けるだけじゃ勝ち目は無いんだけど……)
だが、リオルの勝利には後一手足りない。
それはホブゴブリンとの戦いでも露呈した弱点。
火力が足りない。
まだ鍛錬を始めたばかりの十歳の少年であるリオルは攻撃面が貧弱だ。
前世の経験から攻撃を避けることが出来ても、致命的なダメージを与えることができない。
ホブゴブリンとの戦いでも、油断している敵に全力の一撃を当てて倒せたのだ。
(デーモンは油断してる感じはしないし……そもそも、ホブゴブリンよりもずっと硬いから全力で切っても攻撃が通らない)
デーモンの手刀を潜り抜けて剣を当てても、金属のように固い皮膚に弾かれる。
頑張れば倒せる様な感触じゃない。
アクションRPGなんかだと、たまに直面する問題である。
敵の攻撃は避けられるのだが、自分の攻撃が貧弱すぎてダメージが通らない。
そのせいでズルズルと長期戦となってジリ貧に追い込まれて負けるのだ。
そんな時の対処法は主に三つ。
一つ。素直にレベルを上げて火力を上げる。
二つ。状態異常を使ってじわじわ削る。
そして三つめは――どんな手を使ってでも火力を増強してゴリ押す。
「利用できるものは利用しないとね」
ズバン!!
黒い稲妻の軌跡を残して、デーモンの首が飛んだ。
切り飛ばしたリオルの剣はバチバチと黒い雷をまとっていた。
「キミの真似したらできちゃった。良い魔法を教えてくれてありがとう」
それはデーモンが飛ばしていた黒い球体の魔法と同じ属性だ。
なんか真似したら出来た。
さすがにデーモンのように魔法を飛ばすことは出来ないが、剣にまとわせるくらいならなんとかなったのだ。
ゴトリ。
デーモンの首が鈍い音を立てて地面に落ちた。
その首をリオルはジッと見つめる。
(……第二形態とか、蘇ったりとか……流石に無いかな……)
ちょっと期待したリオル。
だが流石に首を切り落とされて死んだようだ。
少しがっかりだ。
(ま、強めの序盤ボスって感じだったから、第二形態は無いよねー……あれ、ホブゴブリンの第二形態が『これ』って見方も出来るかも?)
リオルはぼんやりと考えながら広場の中央へと向かう。
そこには生贄のように磔にされた女性冒険者が捕まっていた。
(意識は無いみたい……とりあえず、怪我を治して近くの村に届けてあげれば良いかな)
リオルはお忍びでゴブリン退治に来ているので、屋敷に連れ帰るわけにもいかない。
救出はするが、後の対処は別の人に任せるしかない。
リオルは片手を上げて虚空を掴む。
いつの間にか、その手にはカンテラのような道具が握られていた。
トントン。
リオルがガラスを叩くとカンテラから青い光が漏れる。
漏れる光は蛍の群れのようにふわふわと飛び立つ。
光たちが冒険者の周囲を舞うと、体中に広がってた痣が消えていく。
それは『ドラグ・マキナ』の道具だ。
ゲーム的な表現をするなら『非消費系の範囲回復アイテム』である。
(後は剣……返さなきゃダメだよね……)
リオルは名残惜しそうに剣を鞘に仕舞う。
それはホブゴブリンが使っていたミスリル製の剣。たぶん、この冒険者の持ち物のはずだ。
どうしてゴブリン討伐に来るような新人冒険者が、お高いミスリル製の剣を持っているのかは分からないが。
理由はともかく『人の物を盗ったら泥棒!』なのだ。
(切れ味も良かったし、強い武器だったけどしょうがないよね。だけど、ボクが持ってきた剣は折れちゃったんだよなぁ……そうだ!)
思いついたリオルはデーモンの元へと走った。
「上手くいくかな?」
リオルが首をかしげると――リオルの影から竜の顔が飛び出した。
ただの竜ではない。金属で作られたロボットのような、この世界の竜とは似つかない姿をしている。
竜は大あごを開いてデーモンの体を飲み込んだ。
ぐちゃり。ぐちゃり。湿った音が遺跡に響く。
「どう? 美味しい?」
「GAW?」
竜は不思議そうに首をかしげているが、マズいわけでは無さそうだ。
しかし、次の瞬間には『ぺっ』となにかを吐き出す。
なにかは床に転がると、カラカラと甲高い音を響かせた。
「お、良さげなのが出てきた」
竜が吐き出したのは剣だった。
真っ黒な刀身がキラリと艶めいている。
一目で普通の金属製では無いことが分かるだろう。
それはデーモンの記憶から作られた特殊な武器だ。
『ドラグ・マキナ』では敵を倒すと、その敵の記憶から武器を作ることができた。
同じことが出来るかと試してみたら上手くいったようだ。
「しばらくは、これを使おうかな。ありがとねー」
「GAWU」
リオルが手を振ると、影から出た竜の顔は潜って行った。




