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第10話 召喚

 リオルは広場に飛び出して、真っすぐゴブリンシャーマンへと走る。

 謎の儀式を仕切っているのはシャーマンだ。

 奴を片付ければ儀式は失敗に終わる。


「まず一匹」

「ぐぎゃ!?」


 リオルは剣を振ってシャーマンの首をはねる。

 うろたえたシャーマンたちは逃げ出すが、リオルはすぐに剣を構えた。

 逃げる背中へ剣を突き刺す。


「ぎゃ……!?」

「これで二匹」


 残るシャーマンは一匹。このまま倒してしまおうと剣を向けるが、それを遮るようにゴブリンたちが飛び出してくる。

 広場には百匹ちかいゴブリンがひしめいていた。リオルはあっという間に囲まれてシャーマンに逃げられる。


「こっちを片付けないと、シャーマンは無理かな……」


 逃げたシャーマンは再び杖を振るって儀式を再開した。額に汗を流して怯えているが、リオルよりも儀式を優先するらしい。 

 さっさとシャーマンを倒したいが、間にはゴブリンの分厚い壁が立ちはだかっている。

 先にゴブリンたちを倒さなければシャーマンに近づけない。


「さっさと終わらせようか」

「ぐぎゃ!!」「ぎゃぎゃ!」


 ゴブリンたちがリオルに襲い掛かる。

 しかし、リオルはゴブリンたちの攻撃をひらひらと避ける。

 風に舞う木の葉のようにゴブリンたちの武器はリオルに届かない。


「大丈夫。動きは読めてる……反撃も出来る」

「ぐぎゃ!?」


 リオルは攻撃を避けながら剣を振るう。

 一刀でゴブリンたちの命を切り裂いて死体を積み上げる。

 一切の無駄がない動きで、リオルは攻撃を避けて反撃を入れる。

 まるで敵の動きを予知しているように完璧だった。


(ゴブリンたちでも動くときには魔力が動く。しっかり観察すれば、何十匹居ても避けられる)


 この世界の戦闘は魔力が重要だ。

 魔力はあらゆる生き物が有しているエネルギー。魔法のような不思議現象を起こすときにも使うが、体を動かすときにも重要な役割を担っている。

 どんな人でもモンスターでも、体を動かすときには無意識に魔力を流して動きを補助している。

 そしてラウラのように上手く扱えば、超人的な力を発揮して強力な一撃を繰り出すこともできる。

 動きを補助するための第二の筋肉と考えても良いかもしれない。


 一見すると便利な魔力だが、明確な弱点もある。

 魔力は動きを意識した時点で動き始める。

 つまり魔力の流れさえ見てしまえば、次の動きが丸分かりとなってしまうのだ。

 それは手札を公開してカードゲームをしているようなものだ。動きを読まれれば対策は簡単。

 今のゴブリンたちのように一方的な戦闘となる。


 もっとも、魔力から動きを読むのは至難の業だ。

 微弱な魔力の動きを感じて先読みをするには、五感を研ぎ澄ました『観』の技術が求められる。

 それはラウラのような一流の騎士でも届かない領域。一生を武術に捧げた達人だけが掴める技術。

 化け物を相手に延々と戦い続けたリオルのような狂人だけが見える領域だ。


「グラァァァァァ!!」

「ぐぎゃ!?」「ぐぎゃぎゃ!!」


 遺跡の奥から方向が響いた。

 ドシドシと足音を鳴らして、暗闇の奥から巨体が姿を現す。

 それはひときわ大きなゴブリンだ。

 他のゴブリンたちは人間の子どもくらい――リオルと背丈が並ぶほどなのに対して、奥から出てきたゴブリンは二メートルを超えている。


(ホブゴブリン……まぁ、シャーマンが居るなら当然のように居るよね)


 それはホブゴブリンと呼ばれるゴブリンだ。

 詳しい過程は説明を省くが、端的に言えば群れが大きくなって人や家畜をさらえるようになると生まれて来る。

 見た目から想像できるように、その巨体は頑丈かつパワフル。

 ただのゴブリンたちとは違って、とても新米冒険者が相手できるようなモンスターではない。


「グラァァァ!!」

「……」


 ホブゴブリンは銀色に輝く剣を振り落とす。

 ガガン!!

 当然のように振り下ろした剣は当たらない。力任せに振り下ろされた剣は床を叩きつけてパラパラと破片が散らばる。


(凄い威力だ。当たれば即死だね……しかも、武器も普通じゃない。ミスリル製の良いやつだ)


 ホブゴブリンが振るう剣はミスリル製だ。

 ミスリルは希少だが頑丈な鉱物で、特に武器として人気が高い。

 冒険者の間ではミスリル製の武器を持つことが、一つの夢となっているらしい。


(もしかして捕まってる彼女の武器かな……? 新米冒険者が買えるような値段じゃないはずだけど……)


 彼女が実は金持ちなのか、あるいはドコかから盗んできたのか。

 理由はともかく、今はホブゴブリンの玩具だ。

 頑丈なミスリル製のおかげで、ホブゴブリンがブンブンと雑に剣を振るっても傷一つ付いていない。


 リオルはブンブンと滅茶苦茶に振るわれる剣を避けて、ホブゴブリンの懐へ入り込む。

 ザン!!

 ホブゴブリンの胸元に剣を走らせた。


ったい!? 純粋なボクの力じゃ刃も通らないよ!!)


 しかし、リオルの剣ではホブゴブリンの胸元を浅く切りつけた程度だ。

 少し血が流れただけで致命傷には程遠い。


(うーん。まだ鍛錬が足りてなかったかぁ……)


 まだ十歳の子どもでしかないリオルでは筋力も魔力も未発達。

 しかも、どちらもつい最近になってトレーニングを始めたばかり。圧倒的に力が足りていない。

 一方でホブゴブリンは野生で生きるモンスターだ。分厚い筋肉の鎧を着こんだ体に、子どもの刃は通らない。

 ホブゴブリンも余裕層にニヤニヤと笑っている。


「グラァ、グラァグラァ……」


 リオルの力が足りないことに気づいて余裕そうだ。

 なんともムカつくニヤケ面である。

 このままではリオルはホブゴブリンに勝てない。負けるつもりも無いが、致命傷を与えるのは難しい。


(……いや、ラウラの真似をすれば、なんとかなるかも)


 ラウラが教えてくれる『覇斬流』は一撃の威力を極限まで高めようとする流派だ。

 実際にラウラは振るう一撃は重い。あらかじめ動きを呼んでガードしても、とても受けきれないほどの威力だ。

 その秘密は魔力の扱いにある。


 覇斬流では切りつける瞬間に、剣から魔力を放出するのだ。

 例えるならジェットエンジンだ。

 剣が切り裂く瞬間、推進力を高めるように魔力を爆発させる。

 こうして速度を高めた剣筋は、敵の肉を骨ごと断つような威力を発揮する。


(ちゃんと教わった訳じゃないけど……ラウラの動きは何度も見て来た。マネできるはずだ……たぶん)


 リオルは剣道のように真っすぐ剣を構える。

 ホブゴブリンはリオルの構えを見てもニヤニヤと笑っているだけだ。

 油断してくれてラッキーである。なんの憂いも無く一撃に全力を注げる。


(少ない魔力を剣に集める……その他は最低限に、踏み込みと振り下ろしに必要な分だけあれば良い) 


 身体中に散らばっていた魔力を集中する。

 この一撃に全てをかける。

 リオルはゆっくりと剣を振り上げ――ズドン!!


「うーん……八十点? 」

「ぐ、ぐら……」

「上手くいけば胴体を引き裂けた気がする」


 ホブゴブリンの胸元が切り裂かれた。

 だらだらと流れる血を抑えて、どさりとホブゴブリンは倒れた。


「ぐぎゃ!?」「ぐぎゃやや!!」「ぎゃぎゃ……」

「あ、ちょっと、逃げないでよ!?」


 ホブゴブリンが倒されて、ゴブリンたちはバタバタと逃げ出す。

 本来ならゴブリンは全滅が望ましい。

 中途半端に逃がしては、また繁殖してしまうからだ。

 しかし、リオルは追いかけられない。先にやらないといけないことがある。


「とりあえずシャーマンを倒して、冒険者の人を助けて、ゴブリンたちを追いかけて……や、やることが一杯ある……」


 とりあえずシャーマンだ。

 ゴブリンシャーマンだけは逃げずに儀式を続けていた。冷や汗を流しながら必死に杖を振っている。

 

「無抵抗なモンスターを倒すのは気分が悪いけど……ごめんね?」


 ぐさり。

 喉元に剣を突き刺すとシャーマンはばたりと倒れた。


 次は捕まっている冒険者の救出だ。

 リオルは磔にされている冒険者へと駆け寄る。

 冒険者は服を脱がされて素肌をさらしている。ちょっと気まずい。

 リオルは冒険者から目線を逸らしながら、縛っているロープをほどこうと奮闘する。

 だが、やっぱり見ないでロープを外すのは難しい。リオルは上手くほどけずに手間取っていた。


 そうしている間に、ゴブリンシャーマンの血が遺跡の床へ広がっていた。

 流れる血は小さな川を作るように走る。

 じわじわと進み続ける先にあるのは――魔法陣だった。


「――ッ!?」


 リオルが振り向いた時には遅かった。

 床に描かれた魔法陣が赤色に輝く。

 同時に、倒れたホブゴブリンが動き出した。バキバキと滅茶苦茶な動きは、子どもが人形で遊んでいるようだ。

 やがてホブゴブリンの体が宙に浮かぶ。

 グチャグチャと湿っぽい音を立てて肉が潰れる。ベキベキと体が引き伸ばされる。下手くそな粘度遊びみたいにホブゴブリンの体が変化する。


 変化が終わった時は全てが変わっていた。

 細身の体、異様に長い手足、蝙蝠のような羽。それは悪魔のようだった。

 その窪んだ目に光が灯った。緑色の光はキョロキョロと見回す様に動き、リオルに止まった。


 ずちゅ。

 次の瞬間には、悪魔の手がリオルの胸を貫いていた。

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