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お手紙、書くっす

拝啓

 ばあちゃん、元気にしてるっすか?弟や妹達がいい子でお手伝いしてるか心配っす。おいはとても元気でやってるっす。ぽってぃー先輩のところで奉公を始めて早十日、少しずつっすが都会の暮らしに慣れてきたっす。背中を押してくれたばあちゃんに安心してもらうため、そして憧れのぽってぃー先輩に快適な生活を送ってもらうために日々新しい事に挑戦するのは、大変っすがとても充実してるっす。おいがどんな毎日を送っているのか、お話ししてもいい範囲で手紙に書くっす。

 おいの朝はそっちにいた頃と変わらずお日様と競争するところから始まるっす。都会にはニワトリはいないので、目覚まし時計という起きたい時間に起こしてくれる特別な時計が朝が来た事を教えてくれるっす。しかもその時計、ただの時計じゃないっす。ぽってぃー先輩が支給してくれたスマホにそういう機能があるんす。おい、ついに幻の都会アイテムスマホを手に入れてしまったっす。スマホはまさに魔法の道具っす。アプリというものを必要に応じてスマホに入れると、ただでさえ便利な都会の生活がもっと便利になるんす。

 顔を洗って、歯を磨きながらスマホのカレンダーでぽってぃー先輩の予定を確認したら、朝ご飯の準備に取りかかるっす。和食の日はまずお米を洗って、ご飯を自動で炊いてくれる炊飯器をセットするっす。お味噌汁はばあちゃんに教えてもらった通り、ちゃんとかつお節を削ってお出汁(だし)を取ってるっす。お出汁(だし)の一部は卵焼きを焼くのに使うっす。ぽってぃー先輩が優しい味がすると言ってくれたので、ばあちゃん直伝だと伝えたら優しい人なんだなと言っていたっす。おい、嬉しかったっす。

 あとはお魚を焼いたりおひたしを作ってるっすが、最近はぽってぃー先輩のご要望で洋食にも挑戦してるっす。今日はハムエッグというものを作ったっす。都会には食パンやコッペパンだけじゃなくて色んな種類のパンがあるっす。おいは三日月の形をしたクロワッサンというパンが気に入ったっす。スマホで朝のニュースを見ながら朝ご飯を作ってテーブルに並べると、ちょうどぽってぃー先輩が起きてこられるっす。時間ピッタリに用意ができると何だか達成感があるっす。

 後片付けをしたら、お掃除やお洗濯をするっす。ぽってぃー先輩がおうちでお仕事をする時は、お邪魔にならないように気をつけてるっす。洗濯機という大きな箱が洗濯物を洗ってくれている間に、おいは全部のお部屋のお掃除をするっす。おうちがとても広いので、床掃除は自動でやってくれる機械にお任せしてるっす。でもこの機械、気をつけないとおいの尻尾を狙ってくるのでおいが床以外の場所をお掃除した後にお願いする事にしてるっす。

 お洗濯ができたら、ベランダに出て洗濯物を干すっす。ぽってぃー先輩のベッドは大きいので、シーツを干すのが結構大変っす。でも、おうちがとても高い場所にあるのでそこから見える景色はすごいっす。お日様の光をいっぱい浴びるのは気持ちいいっす。

 大体ここまででお昼になるので、お掃除は中断して昼食の準備をするっす。ぽってぃー先輩はお昼はサッと済ませたいそうなので、おにぎりやサンドイッチを作る事が多いっす。おい一人の時は、朝ご飯を多めに作っておいてその残りを頂いてるっす。食べてる間はワイドショーという番組をテレビで見てるんすが、出ているタレントさんの名前がなかなか覚えられないっす。でも、家事の時短術のコーナーはとても参考になってるっす。

 午後は主に水回りのお掃除をしてるっす。お風呂も大きいので、磨き甲斐があるっす。ピカピカになった鏡に映るおいは、普段よりウキウキして見えるっす。

 そういえば、ここに来てからずっと疑問に思っていた事があるっす。この家にはたくさんお部屋があって、ぽってぃー先輩はお仕事用と寝室を分けて使ってるっす。その他にもお客さんが泊まれるお部屋があって、その内の一つをおいが使わせてもらってるんすが…あ、そうそう!ぽってぃー先輩のおうちはすごいんす!広いだけじゃなくて、マンションなのに階段があって二階建てなんす!上の階が寝室になっていて、おいの部屋もそこにあるっす。ぽってぃー先輩の(はか)らいで和室にしてもらっているから、部屋にいると実家にいるみたいでホッとするっす。

 話が少し()れてしまったすね。この家に住んでいるのはぽってぃー先輩とおいの二人だけ。最初の数日はぽってぃー先輩が紹介してくれたお世話係の先輩が泊まりがけで色々と教えてくれていたんすが、今は二人だけ。なのに寝室はもう一つ、お客さん用ではなく誰かが住んでいるらしいお部屋があるんす。当然そこもお掃除に入るんすが、中にはおもちゃがいっぱいあって、何となく弟達を思い出すんす。ぽってぃー先輩に聞こうと思いながら、タイミングを逃してばっかりでまだ解決していない謎っす。

 お掃除が終わったら、買い出しに出かけるっす。近くのスーパーは品揃えが豊富で、見た事のないお野菜や果物がいっぱいあるっす。ぽってぃー先輩に美味しいご飯を食べてもらうために、レシピ本に書いてある料理を日々研究中っす。この家には大きな冷蔵庫が五つあるんすが、今のところ一つしか使ってないっす。これも謎の一つっす。都会ではよくホームパーティーという宴会をするらしいので、その時に使うのかもしれないっす。

 毎日忙しいっすが、ぽってぃー先輩はよくおいの事を褒めてくれるので楽しくお仕事させてもらってるっす。ずっと"先輩"に憧れてるって言ったら、自分の事をそう呼んでいいと言ってくれたっす。とにかく優しいっす。奉公する身でこんなのでいいんすかね?何だか恐れ多いっす。

 そんなこんなで、おいは頑張ってるっす。たくさんお給料を頂くので、仕送りもいっぱいできるっす。ばあちゃん達も美味しいものを食べてほしいっす。体に気をつけて、弟達には仲良くやるよう伝えてほしいっす。また手紙を書くっす。その時にはまた色んなお話ができるようにするっす。



「───こんな感じっすかね」

 便箋(びんせん)(つづ)った文章を読み直し、ゴロは手にしていた鉛筆を置いた。時計を見れば、買い出しの時間の少し前。ポストに寄っていくとちょうどいいだろう。手紙を封筒に入れながら、ふと今朝ぽってぃーに言われた言葉を思い出す。

─今日の夕飯からは、毎食とにかく肉料理を作ってくれ

─す、毎食っすか?

─せや。食費はいくらかかってもええから、使える限りの肉を調達して作ってほしいんや

「お肉をたくさんとなると、スーパーよりお肉屋さんに行った方がいいっすね」

 なぜ急にそんな事を言ったのかはわからないが、雇い主がそうしてくれと言っているのだ。それに応えるのが自分の役目だろう。

 使える限りと言われたので、いつものエコバッグだけでは足りないかもしれない。余裕を持ってありったけの袋を持っていこうと出かける準備をしていると、突然玄関の方でドアが開く音がした。

「す?」

 首を傾げる。今日はぽってぃーは部屋で仕事をしている。来客の予定もなかった筈だ。

(まさか、泥棒っすか⁉)

「帰ったーーー!」

 思わず身構えるゴロの耳に、家中に響くほど元気な声が届く。勢いよく開けられたリビングのドアの向こうには、オレンジ色のテディベアが立っていた。

 黄色い帽子を被ったそのぬいぐるみは、ポカンとしているゴロとは正反対のケロリとした様子で言った。

「お前誰や」

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