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芸能界、とんでもないっす(後編)

「ゴロー!」

「あ、どってぃー先輩」

 シャオパン達と入れ替わりでこちらへ来たどってぃーに、あんなあんなと肩を引っ張られる。

「紹介したる。こいつ、らいおん丸。まいの舎弟やねん」

 そう言うどってぃーがもう片方の手で引き寄せたのは、ライオンのぬいぐるみ。金色のたてがみがふさふさで触り心地が良さそうである。スポーティーな衣装を身にまとっているどってぃーとは違い、ブランドに(うと)いゴロでも一目で高級品だとわかるほどきらびやかな出で立ちをしており、何と言うか全体的に眩しい。

 目がチカチカしそうなゴロだったが、きちんと挨拶をせねばと少し緊張しながら笑顔を浮かべた。

「初めましてっす。ゴロといいま…」

「ふーん、確かに田舎臭いな。ハウスキーパーでもこういう所に来るんならちゃんと服を着ろよ」

「す?」

 一瞬何を言われたのか理解できず、笑顔のまま固まる。喋った本人はどってぃーに掴まれているのとは反対の手で鼻をつまみ、やれやれといったように首を振る。

「これだから貧乏人は困るんだよね。TPOって言葉知らないのかな?」

「てぃ、てぃーぴー?」

「ハッ、おまけに教養もないのかい?こんな奴がぽってぃーさんの元で働いてるなんて、面汚しもいいところ…うぶっ⁉」

 ゴロが何も言ってこないのをいい事に言いたい放題だったらいおん丸だが、突然顔をわし掴みにされその体が宙に浮く。

「ど、どってぃー先輩⁉」

「おいらいおん丸、黙って聞いとったら何やねんさっきから」

 目を光らせてらいおん丸を締め上げるどってぃーにゴロが慌てふためくが、どってぃーはもちろんぽってぃーも止める様子がない。

「らいおん丸、お前舎弟のくせにまいのハウスキーパーにいちゃもんつけるんか。ゴロのメシ食うた事ないやろ。お前の家のちょびっとずつしか出てけーへんメシより美味い肉いっぱい食えんねんぞ」

「ぼ、ボクの家の食事は一流シェフが作るとっておきのコース料理だぞ!それに、ボクは君の舎弟なんかじゃ…」

「あ゛あん?」

「ヒィッ、ご、ごめんなさい!言い過ぎました!」

「ぽってぃー先輩!ととと止めなくていいんすか⁉こんな所でトラブルを起こしたら、お仕事に影響が…!」

「あー、問題あらへん。らいおん丸の家は、いわゆる成金(なりきん)でな。あの衣装も親に言うて特注で作らせとるんや。金に物言わせたら何でも解決できると思てるから、ある意味どってぃーがああやって手綱(たづな)握ってくれてるぐらいでちょうどええねん」

 それに、と少し屈んでゴロの耳元で(ささや)く。

「あいつなりにゴロがバカにされてムカついてるんや。大目に見たってくれ」

 その言葉を聞いたゴロは驚き、どってぃーの方を改めて見る。

「お前、罰として最高級の肉とお菓子たっぷり送ってこいや」

「そ、それ単に君が食べたいだけ…痛ぁ⁉わかった!わかりました!」

 ちゃっかり自分の好物を巻き上げているが、ぽってぃーの言う通り自分のために怒ってくれてるのだと思うと嬉しくなった。

「ぽってぃーさん!写真のチェックお願いします!」

「どってぃー君、らいおん丸君。衣装チェンジ行こうか」

 それぞれ別のスタッフに呼ばれ、ぽってぃーはモニターのある方へ、どってぃー達はスタジオを出て控え室に向かう。一人残されたゴロは、また込み上げてきた緊張に気持ちが落ち着かなくなってきた。

 少し気分を紛らわせようと、近くにいたスタッフに声をかける。

「すいません、お手洗いはどこっすか?」

「ああ、このスタジオを出て二つ目の角を左に行くとありますよ」

「す、ありがとうございますっす」

 ペコリと頭を下げ、すぐ戻ろうと足早にスタジオを後にした。

「───フゥ~」

 トイレからスタジオへの道を戻りながら廊下を歩いていく。長い長いそこには、一定の間隔でドラマやバラエティー番組のポスターが貼ってあった。CMだけでなく、こういう場所でも宣伝をするのかと美術館で絵を見るような感覚で眺めていると、あるポスターの前で足が止まった。

「これは…」

 こんがりと焼き目がついた丸いフォルム。写真からでも、香ばしい香りが漂ってくるような気がする。”ぬいぬい印の焼きおにぎり”と書かれた商品名を見たゴロは、故郷の祖母の事を思い出した。

 冬の寒い日には、みんなで囲炉裏(いろり)を囲みながら祖母の握ってくれたおにぎりに醤油を塗って焼いて食べるのが恒例だった。熱々のそれをはふはふと白い息を吐きながら頬張ると、不思議と寒さを忘れられたものだ。

(懐かしいっすね)

「君、ちょっといいかな?」

 しんみりと郷愁(きょうしゅう)に浸っていると、突然自分とポスターの間からサングラスをかけたネズミのぬいぐるみがニュッと顔を出した。

「□▲%¥$&◆⁉」

「君、見かけない顔だねぇ。誰かの付き人かい?」

 緊張どころか心臓が吹き飛びそうなほど驚くゴロをよそに、サングラスの彼はゴロの頭から足先までじっくり見ながらそう尋ねる。怪しまれているのだと思い、ゴロもハッと我に返り慌てて首にかけた入館証を見せる。

「え、えっと、おい、ぽってぃー先輩の…」

「あぁ、てぃっぽーちゃんとこの子かい?」

「てぃ…?」

「いいね、君。うん、いいよいいよ」

 謎の言葉を発しながら何やら満足げに頷き続ける彼を前に、ゴロはただ疑問符に囲まれていた。



「お、ゴロ。やっと帰ってきたか。迷子にでもなっとったんか?」

 しばらくしてスタジオに戻ってきたゴロを見つけたぽってぃーは、彼の隣を歩く人物にギョッと目を()いた。

「ま、マウチューさん⁉何でゴロと…な、何か失礼でもありましたか⁉」

「お疲れ~、てぃっぽーちゃん。いや~、いつもの事ながら君のダイヤの原石を見極める目はグンバツ(抜群)だねぇ」

「は、ど、どうも…えっと、どういう…?」

 自身が出演しているテレビ番組のやり手プロデューサーにバンバン肩を叩かれ、ぽってぃーも状況が理解できず混乱する。

 マウチューと呼ばれた彼は、どうもこうもとゴロを差して言った。

「おたくの新人のゴロちゃん、”ぬいぬい印の焼きおにぎり”のCMに出ない?」

「…ええぇ⁉」

 スタッフからトイレに行ったと聞かされ、戻ってきてみればCM出演のオファーを持って帰る。前代未聞の事態にぽってぃーはあんぐりと口を開ける。バッとゴロを見るが、当たり前だがグルグルと目を回していて説明できる状態ではない。

「あ、あの、せっかくのお話なんですが、彼はタレントではなく私のハウスキーパーでして…」

「いいねぇ。現役ハウスキーパーが太鼓判を押す焼きおにぎり、ヒットの匂いがするよ~。この際、おたくに所属させちゃったらどうだい?」

「いや、彼はそういう…ん?」

 断ろうとしたぽってぃーだが、不意に何かに気づいたように考え込む。

「…マウチューさん。ゴロのキャラ、アリですかね?」

「リーアーリーアー。企業側もきっと喜ぶよ~」

「ゴロ」

「は、はいっす」

 名前を呼ばれ顔を上げると、真剣な顔をしたぽってぃーが真っすぐこちらを見て言った。

「お前、ドルチェに入る気ないか?」

「⁉すすすすすすすすすすすすす!」

 とんでもないとばかりに首を横に振るが、ガシッと肩を掴まれる。

「田舎から出てきたぬいぐるみのシンデレラストーリー、これは売れるで。事務所にはわいから話つけたる」

「す…?す…す…」

 完全にキャパオーバーである。ぽってぃーが熱心に喋り続けているが、何も頭に入ってこない。

 自分が芸能人になるなんて、そんな夢物語夢にすら掲げる事もおこがましかった。あり得ないと思っていた。

 だがその時、ふとなぜか上京を後押ししてくれた祖母の言葉が蘇った。

─せっかく都会へ行くんだ。たくさんの世界に触れてでっかくなっておいで

「…ぽってぃー先輩。おい、でっかい男になれるっすかね?」

 その言葉にキョトンとしたぽってぃーだが、すぐに笑ってこう言った。

「わいがしっかり育てたる!」

 後日、ぽってぃーが改めて事務所へ話を持っていき、ゴロはただのハウスキーパーからドルチェ所属のハウスキーパーへと肩書きが変わったのだった。

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