スキャンダル、まずいっす
《───それでは次のニュースです。女優のリッスン・ナッツさんがモデルのフォクシーさんと交際している事を今日発売の週刊ぬいスポが報じました。かねてからお揃いのアクセサリーをつけている写真をSNSに投稿するなど、いわゆる"匂わせ"をしていたナッツさんですが、所属事務所は報道について「仲のいい友人の一人だと聞いている」と答えており、清純派のイメージが強いナッツさんの突然の熱愛報道にファンの間ではショックを受けたというコメントが溢れているとの事です》
「あー、ついに撮られたか」
サンドイッチをもぐもぐしながらテレビを見ていたぽってぃーの言葉に、ゴロはオレンジジュースの入ったグラスを置きながらす?と首を傾げた。
「いや、業界では結構有名やったからな。事務所的には清純派のナッツに恋人がおるやなんてイメージダウンにしかならんから何としても知られたくなかったみたいやけど、当の本人がめちゃくちゃ現場で惚気話しとったから時間の問題やとは思とったわ」
「イメージダウン、すか?」
「せや。ファンからしたら、純粋そうな雰囲気が魅力の奴に恋人がおるんはイメージが壊れるから嫌なんや。まあナッツは元々裏表あったし、情報をリークする奴はいくらでもおったやろな」
ぽってぃーの話を聞いてもう一度テレビに視線を移す。画面に映るのはリボンをつけたリスのぬいぐるみの写真。ゴロも何度かCMで見た事があるが、頬袋いっぱいにキャンディーを頬張る姿はなるほど確かに愛らしい笑顔が魅力的だ。
「とても可愛らしいので、お付き合いしている方がいてもおかしくなさそうっすけど、芸能人は大変なんすね」
「相手のフォクシーが女好きで有名やから余計に話題になってしもたんやろな。外見と中身の印象が違う奴は大変やで。本人は嫌でも、事務所の意向で勝手にイメージ作られる事なんてザラやからな。フォクシーも、今回は手を出す相手を間違えたな。ナッツのファンが黙ってへんやろから、二人とも仕事に影響が出るんはまず間違いないわ」
「ぽってぃー先輩はそういうのはどうなんすか?」
そうゴロに尋ねられ、ぽってぃーはグラスを傾けながら答える。
「わいか?わいはそうやな、うーん…わいがというか、ドルチェ自体が業界でもお堅い方やからな。別に恋愛禁止って明言されとるわけやないし、結婚しとる奴らもおるけど、まあ事務所に内緒でっちゅーのはタブーなんが暗黙の了解って感じやな。恋愛以外も、スキャンダルになるような事はもちろんご法度や」
「そうなんすね」
故郷はご近所さん同士の交流が深かったので、家族の秘密イコール村の秘密と言ってもいいくらいプライバシーはなかった。中にはそれをうんざりだと言う者もいたが、ゴロ自身は嫌だと思った事はない。これも田舎と都会の差かと考えていると、玄関のドアが開く音がした。
「帰ったー!」
元気な声と共にリビングへ入ってきたどってぃーは、何かに気づいたように鼻をクンクンとさせるとぽってぃーの前に置いてある皿を見た。
「サンドイッチ!あんちゃんサンドイッチ食うとったやろ!」
「何で空の皿見て何がおいてあったかわかんねん。相変わらず食いもんに対する嗅覚並外れとるな、怖いわ」
「あんちゃんだけずるい!まいもおやつのサンドイッチ食べたい!」
「おやつちゃう、ちょっと遅めの昼飯や」
「どっちでもええから食う!ゴロ、作れ!」
「は、はいっす!」
わたわたとキッチンに向かうゴロを見てから、バフッとソファに飛び乗る。そのままテレビに顔を向けると、まだ先程のニュースについて司会者とパネラーが意見を言い合っていた。
「何これ」
「ナッツの熱愛報道や」
「ふーん。まい、あいつ嫌~い。何か笑顔が嘘くさいもん」
「お前のその勘の良さは信頼できるから頼もしいわ」
でも油断は禁物やで、とぽってぃーはグルンと勢いよく顔をどってぃーに向ける。
「お前はわいのプロデュースする西のグループのメンバーになる事が内定しとるんや。今後は今まで以上に素行に気をつけるんやで。スキャンダルなんかもっての外やからな」
「はぁ?あんちゃんまいの事何やと思てんねん。彼女がおるくらいでまいの人気は落ちひんし。よーえんちでしかデートしてへんもん」
「せやな、そのまま大人しく……………何て?」
うんうんと頷いていたぽってぃーだったが、どってぃーの言葉にピシリと固まった。
「おおおおおおおおおおま、お前、いいいいいいいま、今、なん、かかか彼女…?」
「?彼女ならまいもおるでって言うてん。くま子っていうねん」
しれっと爆弾発言をかますどってぃーに、ぽってぃーはあばばばばと謎の言葉を発しながらガタガタと震えている。手にしているグラスからオレンジジュースが零れているが、動揺のあまり気づいていないようだ。
「いいいいいいつからや、いつからそういう仲になったんや?」
「えー、ちょっと前?好きやって言われたからまあええかって思ってOKした」
写真見る?と自分のスマホをゴソゴソ取り出し、ほらと画面を見せてくる。自撮りしたと思われるその写真は八割方どってぃーの顔が占めていたが、端の方に慎ましいながらも可愛らしい笑顔を見せるクマのぬいぐるみが写っていた。
どってぃーの主張が激しい写真ではあったが、確かに親密そうに見えるそれにぽってぃーは顎が外れるほど口を開けた。
「何ちゅー事を…!幼稚園内恋愛やなんて事務所に何て報告したらええんや!」
「別に言わんでええやん。プライバシーの侵害やで」
「アホ!こういう事こそきちんと言うとかなアカンねん!」
あああああどないしよう!と頭を抱えるぽってぃーと、サンドイッチのおかわりを要求するどってぃー。正反対の二人に挟まれたゴロは、オロオロとしながらぽってぃーの零したジュースを拭く事しかできない。
「いや、待てよ?」
ぐしゃぐしゃになった頭を上げ、どってぃーのスマホを手に取る。
「あ、あんちゃん勝手にいじんなや!」
「くま子…くま子…」
ツーショット写真を血走った目で見つめ、ブツブツと何かを呟く。
「いけるか…?いや、でも、そんな事前例が…いや、前例を破ってこそ話題性が…」
「ぽってぃー先輩?」
ゴロが心配そうに顔を覗き込むと同時に、せや!と立ち上がる。
「す⁉」
「初々しい二人が見せる自然なやりとり!これがウケたら確実に人気は出る!」
早速企画書からや!と仕事部屋へ走り去っていくぽってぃーを、ゴロはポカンとしたまま見つめていた。
*
数日後、夜遅くまで仕事に出ていたぽってぃーは満足そうな顔で帰ってきた。
「お疲れ様っす。何かいい事があったんすか?」
「ああ、ちょっとな」
「ゴロー、喉乾いた。オレンジジュース~」
その時、既に眠りについていたどってぃーが目を擦りながら出てきた。それを見たぽってぃーは、ナイスタイミングだと言わんばかりに彼の両肩を掴んだ。
「どってぃー!喜べ!仕事が入ったぞ!」
「ん~、何が~?」
「ドルチェのぬいNuiTubeチャンネルで、お前とくま子のミニコーナーを作る事になったんや!」
ぽってぃーの言葉に、ゴロは目を見開く。
「ほ、ホントっすか?」
「ああ!わいが企画書を作ってな。最近はSNSでカップルが配信をするのも流行っとるし、二人の初々しい雰囲気をお茶の間に届けて一気にファンを獲得するんや。上も、そういう事なら交際を認めてくれるて言うてくれとる。頑張るんやで」
「おめでとうございますっす、どってぃー先輩!」
「そう、まいスーパールーキー」
完全に寝ぼけているので恐らく明日また同じ報告をする事になるだろうが、とりあえず首の皮一枚繋がった事にぽってぃーは安堵する。
後にこのカップルのやりとりはドルチェを代表するほどの人気を博す事になるのだが、それはまだ先のお話。




