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先鋒戦 Ⅰ

 闘技場のグラウンドで、緋色の戦闘衣装をまとったジュリエット・エンドルーザーと、純白の軽鎧に身を包んだ獣王丸が対峙している。高まる緊張の中、闘技場にマクシミリアンの実況が響く。


「さあ、ついに始まりました代表戦! まずは先鋒戦、双星の魔女ジュリエット・エンドルーザーとゴーレムファイター獣王丸の戦いですが、解説の羽生獣兵衛さん、どう見ますか?」

「ルビオナ王国は初戦を取りに来たな。まあ副将のナナシと大将の黒龍相手にゃあ星が読めねえだろう。何としても中堅戦までで2勝、出来りゃあ3勝しときたいって寸法だな」


「なるほど、確かに現代技術の粋を極めたゴーレムファイターとはいえ、魔力門を持つ百戦錬磨の魔女相手には分が悪いと思われます。その辺、ゴーレムファイターに詳しいマイスラさんはどう思われますか?」

「戦闘の技術だけなら遜色ないと思うけど、ジュリエットにはバカみたいな魔力があるからねえ。獣王丸がジュリエットの魔法にどう対策してくるかがカギになるんじゃない?」


「これは意外な見解が出ました。現在の賭け率はジュリエット1.2倍対獣王丸3.6倍となっておりますが、賭け率ほどの差は無いという事でしょうか」

「まあ少なくともジュリエットは、獣王丸を捨て駒と甘く見ない方がいいわね」

「確かに、お嬢はその辺抜かりねえだろうしな。なんの算段もなく勝ちをくれてやるってこたあねえだろうさ」

「解説のおふたりのご意見からも、白熱した戦いが期待できそうですね。さあ、間もなく試合開始です」


 マクシミリアンの実況がひと段落すると同時に、試合開始を告げるラッパが響き渡った。


 片手剣と丸盾をオーソドックスに構える獣王丸に対し、ジュリエットは腕組みをしたままため息を吐く。


「はぁ、せっかくの代表戦だっていうのに、緒戦の相手が玩具とはね……まあいいわ、さっさと終わらせましょう」


 ジュリエットの前方から、何の予兆もなく無詠唱で6本の『魔力誘導弾(マジックミサイル)』が発射された。獣王丸は特級冒険者すら(しの)ぐ速度でこれをかわし、ジュリエットの側面へと移動する。


「ヌルいわ!」


 次の瞬間、ジュリエットを中心に無数の『火球(ファイアーボール)』が全方位へと放たれた。恐るべき数の『火球』が闘技場全体を襲い、グラウンドを円形に覆う『防御壁』へぶつかって観客に悲鳴を上げさせる。逃げ場のない物量攻撃に、さすがの獣王丸も盾と剣で防御せざるを得ない。


「おおーっと! 双星の魔女の面目躍如(めんもくやくじょ)、とんでもない量の火球だァーッ! これには観客も騒然! しかしご安心ください、観客席は宮廷魔導士とエルフの防御壁によって安全が確保されています!」


 マクシミリアンの実況に、観客席から歓声が上がる。


 グラウンドでは、足が止まった獣王丸へ、ジュリエットが怒涛の追撃を始めていた。


「ほらほら、ちょっとはいいとこ見せなさいよ! まあそんな隙与えないけど!」


 試合前から発動待機状態で維持していた大量の『火球』は全て消費したものの、温存していた自身の魔力と、魔力門から供給される魔力によって撃ち出される『火球』は、この時点で百発に迫ろうとしている。


 対する獣王丸は、自身に備え付けられた魔法具から展開する『防御壁』と、魔力で強化された盾と剣による迎撃でこの追撃をしのぐ。しかしジュリエットと違い、魔晶石による魔力供給に限界がある獣王丸は、ついに押し寄せる『火球』の猛威に屈してしまう。


 獣王丸の防御が崩れたと見るや、ジュリエットは魔法を『魔力誘導弾』へと切り替え、5本同時に獣王丸へと叩き込む。


 着弾の大爆発と共に後方へと吹き飛ぶ獣王丸。力なく地面に投げ出されたその体は、両腕が上腕からちぎれており、破損した胸部装甲からは赤く光るコアが覗いていた。


「獣王丸大破! これはもはや勝負ありか? 双星の魔女の火力に、最新鋭ゴーレムファイターも成すすべなし!」


 絶望的な実況が響き渡る中、ジュリエットが内部拡張収納袋(マジックバッグ)からエルフ銀(マイスリル)製のロングソードを取り出す。


「まあまあ頑丈だった事は褒めてあげる。さあ、終わらせましょうか」


 しかし、よろめきながら立ち上がった獣王丸はジュリエットを見据え、叫ぶ。


「まだだ! まだ私の心は折れていない! 来い、グレートジェット! グレートタンク!」


 獣王丸の声に呼応するかのように、闘技場上空に1機のジェット戦闘機(と形容するしかない物体)が飛来する。また同時に、闘技場の入場口が大きく開き、1両の戦車(と形容するしかない物体)が土煙を上げながら現れた。


「グレートフォーメーション、ゴー!」


 獣王丸が掛け声とともに跳躍する。だがジュリエットも指をくわえて見ている訳ではない。


「何だか知らないけど、やらせないわよ!」


 ジュリエットは瞬時に10本の『魔力誘導弾』を発現するが、そのジュリエットをグレートタンクからの砲撃が襲う。1基の砲塔と、左右に備え付けられた機関銃からの絶え間ない攻撃に、流石のジュリエットも『防御壁』を展開するのが精いっぱいとなる。


 破壊される『防御壁』を次々と張り直しながら、発現させた『魔力誘導弾』を辛うじて発射するジュリエット。しかし10発の『魔力誘導弾』は、全てグレートタンクの機銃掃射によって撃ち落されてしまう。


 グレートタンクの砲撃によって動けないジュリエットの上空で、グレートジェットが獣王丸を包み込む様に変形し、巨大なゴーレムの上半身へと変化する。さらに地上ではグレートタンクが、内蔵された射出兵器を斉射しつつゴーレムの下半身へと変形してゆく。


 グレートタンクの一斉射撃はジュリエットの周囲にも着弾し、爆炎と共に盛大な土煙をあげる。やがて視界が晴れたジュリエットの目に映ったのは、巨大なゴーレムの上半身と下半身が合体する瞬間であった。


「武装合体! グレート獣王丸、見参!」


 名乗りと共に拳を天に突き上げ見得を切るグレート獣王丸。頭頂高12メートル、背部には翼と砲塔が組み合わさったバックパックが付いている。また脚部のふくらはぎから(かかと)に当たる部分をグレートタンクの無限軌道が構成しており、これはそのまま地上での高速移動に使用する事が可能であった。


 胸部の黄金に輝く獅子の顔が、グレート獣王丸の名乗りに連動して咆哮を上げる。雄々しきその姿に、観客から大歓声が上がった。


「こっ、これは驚きの展開だーッ! 終わりかと見えた獣王丸、まだまだ真の姿を隠していたーッ! 双星の魔女にも劣らぬ火力を見せたグレート獣王丸、これは勝敗の行方もわからなくなって来たぞーッ!」

「あっはっはっは! さすがお嬢! まさかこんな手で来るたあな!」

「こうして動くのを見ると、胸に獅子の頭をつけたのは正解ね……確かにカッコいいわ」


 興奮して実況するマクシミリアンと笑う美強、そしてデザイン時に反対した胸の獅子に対して認識を改めるマイスラ。量産機とワンオフ機の違いを熱く語ったレジオナの意見に納得せざるを得ない、グレート獣王丸の雄姿であった。


 いっぽうグラウンドでは、グレート獣王丸が右腕を大きく後ろに引き、ジュリエットを見据える。


「いくぞ必殺! ジェェェットパァーンチ!」


 グレート獣王丸が右腕を繰り出そうとしたその時、ジュリエットが拡声魔法を使い叫んだ。


「ちょっとまった! こんなの反則でしょ! どうなってんの審判?」

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