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オークに転生! フィジカル全振りは失敗ですか? 【健全版】  作者: kazgok
【第四部 建国編】第一章 独立宣言
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仕官

 魔破衆頭目の藻屑(もくず)がイーダスハイム龍王国首都ゴーザシルトを訪れたのは、キーラが騎士に叙任された数日後の事であった。


 十数名の男女を従えて、護衛の羽生美強と共にやって来た藻屑は、ヴォルフガング龍人王に挨拶を済ませると、ナナシへの面会を求めた。まだ(ろく)に配下もいないナナシへ、人材を売り込みに来たのだ。


 王城に居室を与えられているナナシは、チームレジオナの面々と共に藻屑一行を迎える。藻屑はナナシの前で(ひざまず)くと、深々と礼をした。


「オーカイザー閣下、この度は突然の訪問を快諾いただき、(まこと)にありがとうございます」

「いえいえ、お久しぶりです藻屑さん。その節はどうもお世話になりました。さあどうぞ、楽にしてください」


 ナナシに(うなが)され、応接室のソファに腰掛ける藻屑。かたやナナシは床に座っている。公式な場ではありえない状況だが、話し合いならばこの方が楽だろうとナナシが提案したのだ。ちなみにチームレジオナの面々もソファで思い思いにくつろいでいた。


「それで、今日はどういったご用件でしょう?」


 藻屑の後ろに並ぶ十数名の男女に不安を覚えつつ、ナナシが問いかける。藻屑は妖艶な笑みを浮かべ、豪奢な着物の(たもと)から書類の束を取り出すと、テーブルの上に置いた。


 A4サイズ程の紙が十数枚束ねられた書類は、とても袂に入る大きさではない。おそらく、袂が内部拡張収納袋(マジックバッグ)になっているのだろう。


 差し出された書類へ、ナナシの横からモニカが手を伸ばす。残念ホルスタインと呼ばれてはいるが、腐っても知識の女神の大司教である。ナナシが公爵になってからの書類仕事はほとんどモニカが担当していた。


「拝見いたします。これは……そちらの方々の情報一覧ですか、興味深いですね」


 きらりと眼鏡を光らせるモニカに、藻屑が笑顔で答える。


「公爵ともなれば、それなりの配下も必要かと存じます。その点、我が魔破の里には優秀な人材がおります故、ぜひオーカイザー閣下にお召し抱えいただければと思いまして」


 藻屑の申し出に、ナナシは顎に手を当てて考え込む。


「うーん、配下と言っても……今は別に領地もないですし、やってもらう仕事がないかな。それにお金もないですしね」

「そ~そ~、配下なら間に合ってるんよ~。騎士団長(だんちょ~)はキーラちんがいるし、書類仕事はモニカちん、財務関連はフリーダちんにでもやらせとけばいいんよ~」


 ふにゃふにゃと割り込むレジオナの言葉に、フリーダが異議を唱える。


「ハァ!? 待って待って冗談じゃないわ! 他人の財布の管理なんて絶っっっ対にお断りよ! 私はもうお金の心配とは無縁の世界で1万年遊んで暮らすんだから!」


 手元の書類に目を通しながら、モニカもそれに続く。


「私も、書類をさばいてるのはあくまでナナシ観察の一環だから、領地経営まではさすがに御免蒙(ごめんこうむる)るわ」


 ふたりの意見に、レジオナはぐったりとソファに倒れ込んだ。


「ええ~、はやくもチームレジオナ崩壊(ほ~かい)の危機なんよ~。こ~なったらしょ~がない、私たちがさいきょ~の領地経営(りょ~ちけ~え~)をみせてやるんよ~!」

「あっ、それは却下で」


 ふんすと両拳を握りしめるレジオナに、ナナシがNOを突きつける。


「ちょ、なんでよ~。げ~むできたえあげた私たちの経営(け~え~)手腕をなめんなよ~!」

「ゲーム感覚だからダメなんだってば! 却下! 却下です!」

「うぇ~、ナナシたんヒドス~。そこまで否定(ひて~)しなくてもさ~。んも~キーラちん何とか言ってやってちょ~」


 キーラは、モニカから回って来た書類を見ながらレジオナに答える。


「えっ、ダメに決まってんだろ、何言ってんだ。それにまあ、フリーダとモニカはそもそも配下じゃねえんだし、そこまで無理はさせらんねえ……いや、フリーダはともかくモニカ、おめーは馬車馬のように働けよ! ナナシにゃあずいぶん借りがあんだろうが。あたいはナナシの嫁になるんだから一蓮托生(いちれんたくしょう)ってなもんだけどよっと……おっ、こいつとか使えそうじゃねえか?」


 キーラが数枚の書類を抜き出して、ナナシの前に広げた。それを見てここぞとばかりに藻屑が説明を始めようとする。


「さすが、お目が高い! ……は? 嫁!? 今、嫁と申したか!? 待てまてマテまて、そのような情報聞いておらぬぞ! いったい、いつの間に我らを出し抜きおった、この……」


 一気にそこまで言って我に返った藻屑。このままキーラを罵倒すれば、それはそのままナナシへの罵倒も同然である。言葉に詰まる藻屑に、レジオナがふにゃふにゃと追い打ちをかける。


「うひゃひゃひゃひゃ、ざ~んね~んでした~! ほんの5日前にこんやくしたんよ~。もうナナシたんの子種はキーラちんのもんだかんね~。ざまあああああああああ~!」

「こっの……腐れスライムが……ッ!」


 レジオナを睨み付ける藻屑のこめかみに青筋が浮かぶ。その眼光はもはやこの場でレジオナを呪い殺しそうなほど鋭い。


 その時、険悪な空気を吹き飛ばすような、快活な笑い声が響いた。声の主は羽生美強であった。


「あっはっはっは、こいつはめでてえや! そううかそうか、(ぼん)も一丁前の男になったか。こりゃあ、代表戦では負けてられねえな。だったら緩衝地帯を取った後の事を考えとくのも悪かあねえだろうよ。まあ、今日連れて来た連中の(しつ)は俺が保証するぜ」


 美強の言葉に、藻屑も冷静さを取り戻す。考えようによっては、この初心(うぶ)なオークが色を覚えればしめたもの。その有り余る精力を、小娘ひとりで受け止めきれるものではあるまい。子種を奪う機会はかえって増えたと言えなくもない。


 藻屑は小さく咳払いをすると、再び笑顔で売り込みを開始する。


「これはこれは、この度はまことにおめでとうございます。この藻屑、魔破の里一同を代表してお祝い申し上げます。さて、それではお雇い入れの件に戻らせていただきましょうか。そも給金の事はあまりご心配されずとも、基本給は低めに抑えております。領地を得られた後、働きに応じて給金を見直していただければと。最初はひとりあたり年間金貨50枚から100枚程度で揃えておりますので」


 藻屑の説明に、それでも悩むナナシ。いずれは領地を得るとしても、今は定期的な収入がある訳でもない。とはいえ、戦略シミュレーションゲーム等の知識を元に考えても、緩衝地帯を領地として治めるには大量の人材が必要となるのは自明であった。


「うーん、でもほとんど全部魔破の人たちに任せちゃっても大丈夫なのかな」


 悩むナナシに、レジオナがふにゃふにゃと助言する。


「やばいよやばいよ~、スパイが入り込み放題(ほ~だい)なんよ~! って言~たいとこだけど~、ま~金払ってるうちはだいじょ~ぶでしょ~。キーラちんとの結婚のはなしもつたわってなかったみたいだし~」

「あっ、確かに……言われてみれば侍女長のアヤメさんって魔破の里の人だっけ」


 傭兵を生業とする魔破の里では、雇われた以上は雇い主の利益が最優先である。戦場で相まみえれば同胞とてこれを討つ。魔破の里が血と命で築いた信頼がそこにあった。


「雇えるのは、代表戦で勝ったらになると思いますけど、それでもいいならお願いしようかな」


 魔破の里では散々な目にあったナナシだが、美強との共闘などもあり、もはや里への忌避感は無い。どうせ必要になる人材ならば、魔破の里に頼るのもいいだろう。自分よりはよほど里を嫌っているレジオナでさえ、人材の質に関しては文句が無いのだから。


 ナナシの言葉に、藻屑は上機嫌で答える。


「もちろんです、オーカイザー閣下! 初年度の賃金は雇い入れ日からの日割りで計算させていただきますし、月払いでも年払いでも対応させていただきます。よろしければ人足(にんそく)等の手配もお任せください。この藻屑、それなりの伝手を持っておりますゆえ」

「はい、それじゃあよろしくお願いします」

「い~かきさまら~、領地経営(りょ~ちけ~え~)は遊びじゃないんだかんね~! びしばしいくからかくごするんよ~。泣いたり笑ったりできなくしてやるぜえ~」


 ここぞとばかり、控える魔破の里の面々にふにゃふにゃとパワハラを仕掛けるレジオナ。それに対し、藻屑は笑顔を崩さぬまま応答する。


「ふふっ、我らをお雇い下さるのはあくまでオーカイザー閣下。どこの馬の骨とも知れぬ腐れスライムのしゃしゃり出る隙間など微塵もありませぬ。それともオーカイザー閣下の配下に狼藉を働くおつもりか? おお、何と恐ろしや! オーカイザー閣下、僭越(せんえつ)ながら申し上げます。このような恐ろしい魔物はいますぐ御身から遠ざけられた方がよろしいかと。いつか必ず災いを呼び込みましょう」


 後半、芝居がかった身振りでレジオナをこき下ろす藻屑に、ナナシは苦笑いで頭を掻く。


「あはは、まあこう見えて悪いスライムじゃないんで。ちょっと言ってみたかっただけだよね、レジオナ」

「ちぇっ、ま~ここはナナシたんの顔をたててかんべんしてやるぜえ~。い~かきさまら~、誠心誠意(せ~しんせ~い)つとめるんよ~。わかったらへんじは~?」


 レジオナのふにゃふにゃとした無茶ぶりに、魔破衆は一糸乱れぬジルバラント流敬礼で返す。


「オーカイザー閣下万歳! イーダスハイム龍王国に栄光あれ!」

「ふぉっ! こいつら……出来る……っ! なんなんよもぉ~! 仕込んでんじゃね~っての~」


 思いがけぬ反撃を受け、ふにゃふにゃと悔しがるレジオナ。その様子に、応接室が笑いに包まれた。

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