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オークに転生! フィジカル全振りは失敗ですか? 【健全版】  作者: kazgok
【第四部 建国編】第一章 独立宣言
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婚礼

 リュテス陥落、そして勇者による王位簒奪(さんだつ)からひと月半の後。


 ここイーダスハイム領首都ゴーザシルト城において、ヴォルフガング侯爵とロジーナ姫、そして黒龍の挙式が行われていた。


 参列するのは、本国より国王フィリップとその子息、西方諸国より各国の王族、聖龍連峰より黄金龍以下序列10位までの龍種とその従者たち、魔破の里より藻屑と羽生美強、世界樹の森より長老ケルサーレと数名の重鎮、ルビオナ王国より魔王ロック他王族と宰相アビゲイル、新生フレッチーリ王国より勇者王ダミアンとその仲間たちと、錚々(そうそう)たる顔ぶれである。


 すでに季節は晩秋となり、婚姻の儀は慣例によって秋の女神の大司教が執り行う。荘厳な雰囲気の中、異例の同時挙式は滞りなく進んでゆく。


 そして、全ての儀式が終わると、ヴォルフガング侯爵はその場でジルバラント王国からの独立を宣言した。これに対し、ジルバラント国王フィリップは堂々と立ち上がると、独立を承認する。


 思いもよらぬ王の行動に、密約を知らぬ王子たちは狼狽(うろた)えてしまう。しかし国王に質す暇もあればこそ、貴賓席から大きな拍手が響く。拍手の(ぬし)は、聖龍連峰の黄金龍をはじめとした龍種の面々であった。


 拍手の輪はあっという間に広がってゆく。人化しているとはいえ、恐るべき龍種の行為に誰が異を唱えられようか。無視も出来ぬとあれば、賛同する他はない。


 万雷の拍手の中、あらかじめ用意されていた王冠が運ばれてくる。ヴォルフガング侯爵が来賓へ手をかざすと、波が引くように拍手が鳴りやんだ。


 婚礼の場はそのまま戴冠(たいかん)の儀式へと移行する事となった。あまりにも淀みないこのやり取りに、事情を知らなかった各国の参列者たちも、これが既に決定事項であったのだと察する。


 戴冠を終えたヴォルフガング・フォン・ザイフリート王は、国名を新たにイーダスハイム龍王国とし、自らも龍人王と名乗る事を宣言した。これを聖龍連峰が(とが)めぬからには、イーダスハイム龍王国と聖龍連峰は友好国以上の関係であると認めたに等しい。


 領土の規模こそ大国とは言い難いが、龍種の後ろ盾を持つ国家の誕生となれば話は違う。まして妃のひとりは誰あろう聖龍連峰ナンバー7、本来の姿は頭胴長60メートル、全長120メートル、翼開長140メートルにも及ぶ漆黒の夜に(ギュークルゴォ・)潜みし大いなる(ガーラグ・ギィ・)狩人(シューグオ)である。


 フレッチーリ王国での王位簒奪劇において、黄龍が猛威を振るった事は記憶に新しい。頭胴長25メートルの若龍でさえ国家を揺るがす脅威なのだ。ましてや黒龍となれば、はたして人間に対抗する手段はあるだろうか。


 これにより、西方諸国のパワーバランスは大きく変わった。新生フレッチーリ王国にも黄龍がいる。龍種への対抗手段を本格化させるか、聖龍連峰との関係を構築するか、各国首脳は慎重な舵取りを迫られる事となるだろう。


     ◆◆◆◆◆


「続いて、叙爵(じょしゃく)の儀を執り行う。ナナシ・オーカイザーよ、これへ」


 ヴォルフガング龍人王の呼び出しに、末席で暢気(のんき)に式典を楽しんでいたナナシは「へぁ?」と間抜けな声を上げてしまう。聞き間違いかと王を見れば、王は真面目な顔で首肯して登壇を促して来る。


「おら、王様を待たせてんじゃねーよ」


 横に座るキーラに肘でつつかれ、ナナシは慌てて通路へとまろび出た。小山のように巨大なオークの登場に、来賓の視線が集中する。


 転生者であるナナシは叙爵の作法など全くわからない。とはいえ、まごまごしていては自分だけでなく王にも恥をかかせてしまうだろう。


 とりあえず、ナナシは背筋を伸ばし威儀を正す。今日のナナシは流石にふんどし一丁ではなかった。出席を強要するかわりにと、ロジーナ姫が正装一式を仕立ててくれたのだ。


 身長4メートルにも達する、恰幅(かっぷく)の良いオークが正装した姿は、見る者を圧倒する威容を放っている。これには亜人や魔族に偏見のある者も、世界樹の森のエルフたちも目を見張った。


 当のナナシはと言えば、姿勢を正した事で少し落ち着きを取り戻す。そうして高い視点から周囲をスッと見渡すと、並みいる王国貴族の中でも、ひときわ巨大なオーラを(かも)し出す黄金龍と目が合った。黄金龍は満面の笑みを浮かべると、胸の前で両(こぶし)をギュッと固めてナナシにエールを送る。


 龍種の女王からの応援に、ナナシも気分が軽くなった。そして()()()と歩を進める。わざわざ叙爵とやらをしてくれようというのだ。少々礼を失していようが、良いように取り計らってくれるだろう。


 ナナシは王の前に進み出ると、片膝を突き(こうべ)を垂れた。ヴォルフガング龍人王はナナシの頭に右手をかざすと、叙爵の儀を口上する。


「ナナシ・オーカイザーよ、汝の多大なる功績を、改めてここに知らしめよう」


 王の言葉を受け、控えていた宰相フンベルトが進み出て、手にした羊皮紙を広げた。


「これより、ナナシ・オーカイザーの功績を発表する」


 そして、羊皮紙に記されたナナシの活躍を読み上げてゆく。


「ひとつ、ロジーナ王妃殿下をオークの襲撃より守りし事。

 ひとつ、世界樹の森に巣食いしオークの群れを討伐せし事。

 ひとつ、ブリュッケシュタット付近にて戦略級殲滅魔法を未然に防ぎし事。

 ひとつ、死霊王(リッチ)が率いる死霊の軍団を殲滅せし事。

 ひとつ、混沌の使徒なる魂喰らいを退散させたる事。

 ひとつ、偉大なる龍種の祖たる褐色の大地を(ギューガララァ・)支配せし大いなる(シュフーグ・ガゥ・)霊峰(バーガル)を再び眠りに(いざな)いし事。

 ひとつ、混沌の使徒なる万象砕きの討伐に貢献せし事。

 ひとつ、混沌の使徒なる奈落落としを退散させたる事。

 ひとつ、緩衝地帯における戦略級殲滅魔法の使用に伴う災害を未然に防ぎし事。

 以上がナナシ・オーカイザーの主たる功績である」


 こうしてみると、まさしく救国の大英雄と言って差し支えない功績の数々である。来賓の王侯貴族もナナシの事を噂には聞いてはいたが、いざ公式の場で列挙されれば、圧倒的な活躍に息をのむばかりであった。


 発表を終えた宰相が下がると、ヴォルフガング龍人王が後を続ける。 


「我、ヴォルフガング・フォン・ザイフリート龍人王は、これらの功績をもって、ナナシ・オーカイザーにイーダスハイム龍王国における公爵位を授けるものとする。汝、ナナシ・オーカイザーよ。我がイーダスハイム龍王国のため、その身を捧げるか」


 そう宣言すると、王はかざした右手でそっとナナシの頭に触れた。そしてナナシにだけ聞こえるように、返事は如何にと(ささや)きかける。


 これは儀式に慣れぬナナシへの配慮であった。ナナシはその気遣いに感謝しながら、精いっぱい威厳を保ちながら答える。


(わたくし)、ナナシ・オーカイザーは、慈愛と寛容をもって民に接し、公正と礼節をもって我が身を律し、勇気と武勇をもって悪を退け、民に奉仕し、王に忠誠を捧げる事を誓います」


 ナナシはゲームか何かで見た、うろ覚えの騎士の徳を何とか列挙した。これはジルバラント王国における正式な作法ではなかったが、ここは新たに独立した国である。王が許せばそれで良いのだ。


 ヴォルフガング龍人王は満足げに(うなず)くと、来賓に向かってさらに続ける。


「これにてナナシ・フォン・オーカイザーを正式に公爵と認定する。なお領地は、ルビオナ王国とイーダスハイム龍王国の間に広がる緩衝地帯を与えるものとする!」


 この爆弾発言に、流石の王侯貴族の間にもどよめきが広がった。緩衝地帯を一方的に領土認定する事は、宣戦布告にも等しい行いである。まさか独立と同時に魔王と事を構えるつもりなのか。


 しかし、当の魔王ロックは落ち着いたものであった。ナナシを巻き込んだ以上、総力戦をするつもりは無いのだろうと踏んだのだ。いくら王命でも、そんな事はナナシが承知するまい。


 驚いて顔を上げたナナシと、ヴォルフガング龍人王の目が合った。王は穏やかな表情で、右手を軽く払う。ナナシは王の意をくみ、一礼すると脇へ寄って再び(ひざまず)いた。


 ヴォルフガング龍人王は数歩進み出ると、魔王ロックを見据えて宣言する。


「我がイーダスハイム龍王国は、緩衝地帯の領有権をかけて、ルビオナ王国へ代表戦を申し込む!」

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