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簒奪

 王都フォートマルシャンに敵襲の警鐘が響き渡る。


 オランド将軍は即座に撤退命令を出すも、時すでに遅し。ソニックブームで被害を出さぬよう減速しつつも、黄龍は孤児院の上空にさしかかっていた。


「オランドぉッ!」


 勇者ダミアンが黄龍の背から飛び降りざま、オランド将軍へと斬りかかる。


「逆賊めが! そっ首叩き落としてくれる!」


 オランド将軍も剣を構え迎え撃つ。仮にも大国フレッチーリの将軍であるオランドは、その武勇も特級冒険者を凌駕(りょうが)している。研鑽(けんさん)した剣技だけならダミアンにも引けを取らないだろう。


 しかし、ダミアンにとってこれは決闘ではなかった。彼にとって、もはやこれはフレッチーリ王国と勇者の戦争であった。正々堂々など知った事か。戦いは手段であって目的ではない。


 ダミアンは飛び降りつつ『解呪(ディスエンチャント)』をオランド将軍へと放つ。圧倒的な魔力によって放たれた『解呪』は、オランド将軍の身体強化と魔法防御をあっさりと消し去った。そこへ眷属ならではの阿吽(あうん)の呼吸で、オルガが10倍の魔力を乗せた『雷撃』を浴びせる。


 オランド将軍も、これには抵抗(レジスト)(むな)しく一瞬硬直してしまう。それでも絶命に至らなかった事はさすがと言えよう。しかしその一瞬の硬直は、達人の域においては致命傷であった。


 ふたつの影が交錯し、着地したダミアンの足元へオランド将軍の首が転がる。その後ろでは、首から血を吹き出しながら、元は2メートル近かった巨躯がゆっくりと倒れてゆく。


 ダミアンはオランド将軍の首を掲げると、生き残りの近衛騎士たちを睨み付ける。


「罪もない孤児たちにまで手を出すとは、貴様らそれでも騎士か! 恥を知れ! そっちがその気ならやってやろうじゃないか! シャルルには首を洗って待っていろと伝えろ!」


 そう言い放って、ダミアンはオランド将軍の首を騎士たちへと投げつけた。転がって来たオランド将軍の顔には、稲妻状の傷跡(いわゆるリヒテンベルク図形)が浮かび上がっている。それを見降ろす騎士たちに、もはや戦う気概(きがい)は残っていなかった。


 騎士たちはオランド将軍の首を拾い上げると、粛々(しゅくしゅく)と撤退を始める。


 大量の死傷者が横たわる孤児院の前では、どこからか現れたレジオナたちが、春の女神の信徒だけでなく、近衛騎士や警備兵も分け隔てなく治療を始めていた。軽傷の司祭や信徒たちもそれを手伝っている。殺し合いをした相手とはいえ、それはそれ、これはこれ。それこそが春の女神の信徒の矜持(きょうじ)であった。


 脅威が去った孤児院から、孤児と職員たちが現れる。孤児たちはダミアンを見ると、一斉に彼へと走り寄った。安堵に輝くその笑顔を見て、シャルルを倒すというダミアンの決心がさらに強まる。


 そうして孤児たちに囲まれる彼のもとへ、人化した黄龍と眷属たちが降り立った。そこへ紅の流星がふにゃふにゃと声をかける。


「お~い、ク……勇者(ゆ~しゃ)さまぁ~。なぁ~んかひとことあんじゃなグェッ!」


 言い終わる前に、ラビ渾身(こんしん)の抱き着きを食らってむせる紅の流星。


「レジオナ! ありがとう! 本当に助かったわ!」


 力いっぱい紅の流星を抱きしめるラビ。ほんの数年前までは、管理者として孤児たちの世話をしていたのだ。管理から離れたとはいえ、今でもラビにとっては我が子も同然の存在であった。


 年長の孤児たちは心配そうにラビの様子をうかがっている。紅の流星はやれやれといった(てい)で、抱き着くラビの頭を優しく撫でた。


 しかし周囲は今それどころではない。そんなダミアンたちのもとへ、大司教デボラが手を叩きながら歩み寄る。


「はいはい、感動の再会はそれくらいにして、皆治療を手伝いなさい。死者は丁重に神殿の安置室へ運んで。騎士団の死者も望む者がいればこちらで預かるように。ほら、ラビ大司教も。そんなに心配ならまた管理者やってもいいのよ?」

「デボラ、世話をかけたわね。信徒のみんなも……まさかシャルルがここまでやるとは。私も奴を甘く見てたわ」


「まあ、前々からちょっと横暴さが目に付いてはいたけど、魔王軍が動いたのが決定打となったわね。魔王軍の使者の腕を持って来て、すぐに蘇生しろなんて無茶を言ってきたし。どの道、いつかは神殿勢力と王国の間で衝突が起きていたでしょうね」

「信徒に死者まで出た以上、もうシャルルを放っては置けないわ。私たちはシャルルを討って、ダミアンを新たな王として擁立(ようりつ)する」


「王位簒奪(さんだつ)とは思い切ったわね。いいじゃないの、フレッチーリ王国の全てのフワレヤ信徒は勇者ダミアンを支持しましょう。他の神殿勢力への根回しも任せて」

「ありがとう、助かるわ。私たちはこのまま王城へ攻め込むから。ねえ、ダミアン」


 話を振られたダミアンは、大司教デボラの視線を受け止め、力強く(うなず)いた。


「すべてはいずれと先延ばしにしてきた僕の責任だ。普段からもっと強く諫言(かんげん)していれば、ここまでの事態にはならなかったかもしれない。奴隷の解放も魔王なんかに先を越されてしまった。でも、ここからだ」


 ダミアンは孤児たちを優しくかき分けて歩み出ると、王城を睨み宣言する。


「王は何をしても許されるなら、僕が王になってやる。そしてフレッチーリ王国を変えてやる!」


 そして眷属たちへ振り向き、叫んだ。


「いくぞ、みんな!」


 その言葉を合図に、ダミアンたちは『飛行』、あるいは身体強化による跳躍で空中へと飛び上がる。そして空中で人化を解いた黄龍の背に乗り、王城へと飛翔してゆく。


 しかし、その中にエロイーズの姿だけが無かった。いや、彼女の姿を見た者が、はたしてこの場に居ただろうか。黄龍が飛来した時、既に彼女の姿は無かったのではあるまいか。


 エロイーズ・エローが今どこにいるのか、知るのはダミアン一行だけであった。


     ◆◆◆◆◆


 王城は既に厳戒態勢となっていた。飛来する黄龍に対し、城壁から無数の対空射撃や攻撃魔法が浴びせかけられる。しかしそれらの攻撃は、背に乗る特級魔術師オルガの展開した『防御壁(プロテクション)』によって全て阻まれてしまう。


 黄龍は城壁の手前で悠々と滞空し、電光の息吹(ライトニングブレス)を放つ。城壁では魔術師たちが『防御壁』を展開するも、黄龍の丹念な息吹(ブレス)にはとても耐えきれない。


 城壁からの攻撃が沈黙するのを確認し、勇者一行は城門へと降り立つ。門には頑丈な鋼鉄製の落とし格子が、前後2枚降りていた。


 しかし、かつては鉄壁を誇ったであろうその格子も、今では過去の遺物に過ぎない。ダミアンは剣を高く掲げると、鋭い叫び声と共に格子へと走り寄る。


「けえええええええええっ!」


 空間そのものを切り裂く次元流の斬撃が、鋼鉄製の分厚い格子を易々と切断した。袈裟懸(けさが)けに2度振るわれた斬撃により、格子に三角形の通り道が穿(うが)たれる。


 城内では近衛兵や宮廷魔術師が必死の抵抗を試みるものの、勇者一行は無人の野を行くがごとく、その歩みを止める事は無かった。そもそも、人化した黄龍の電光の息吹(ライトニングブレス)を、城内の通路で正面から耐えられる者が存在するだろうか。勇者一行が進む後には、無残に焼け焦げた死体が残るばかりであった。


     ◆◆◆◆◆


 ダミアンはシャルル13世の姿を求め、まずは謁見室へと足を運んだ。最後の抵抗として勇者一行を迎え撃つには、謁見室くらいの広さが必要だろうと考えたためである。とはいえ、勝手知ったる城内の事、シャルル13世を見つけ出すまでは(しらみ)潰しに場内を探索するつもりだった。


 しかし、その心配は杞憂(きゆう)に終わる。謁見室への扉の前、行く手を阻む様に剣聖ゴーモンがひとり立っていたからだ。


「これはこれは勇者サマ、ちょっとばかりおいたが過ぎるんじゃあないですかね」


 ポリポリと顎を搔きながら、からかうようにゴーモンが言う。


「貴方がここにいるという事は、どうやら当たりを引いたみたいだな」


 ダミアンは油断なく剣を構えた。シャルルは傲慢(ごうまん)な王であるが、同時に臆病さも(あわ)せ持っている。そうでなければ、謀略はびこる王位継承の争いを生き残っては来れなかったであろう。そんなシャルルが、最も信頼する最高戦力である剣聖を、自身の側から離すとは考えられない。


 ダミアンの思惑をよそに、ゴーモンは腕組みをしたまま話を続ける。


「しかし解らんもんですな。王位に就きたいなら、さっさと王女殿下を(めと)ればよかったでしょう。さんざ女どもと遊びまわっておいて、今更どうしたんですかね?」

「王になんて興味はなかった。でも、シャルルのやり方に黙っていられなくなったんだ」


「いくらなんでも不敬が過ぎますぜ、勇者サマ」

「剣聖ゴーモン、貴方こそ奴のやり方を見て平気でいられるのか!? 奴隷や孤児たち、それに罪もない村人まで平気で殺そうとするような奴だぞ!」


「いやあ、そりゃあ逃げた奴隷やら、裏切った勇者サマの方が悪いと思いますがねえ? それに村人って言っても、フレッチーリの国民じゃあないんですし」

「貴方も所詮はシャルルの犬か。正義より王の言葉が大事なんだな」


「これはまた酷い言われようだ。でもまあ、あながち間違っちゃあいませんや。私はどちらかと言えば、首輪が欲しい方でしてね」

「普段の貴方の振舞いからは想像もつかないな。もっと自由な人だと思ってた」


「ははっ、あれこそ飼い犬の振舞いですよ。狩りの最中ならともかく、日常の戯れ程度、笑って許すのが飼い主の度量でしょうが」

「……首輪が欲しいなら、僕たちの方に付く気はないか?」


「犬っコロにも忠義ってもんがありますよ。それに、勇者サマ御一行はここで終わりですしねえ」


 剣聖ゴーモンがするりと剣を抜いた。それを見て、ダミアンは手を振って眷属たちに下がるよう促す。


「ラビ、みんなを守ってくれ。ゴーモンとは僕が戦う」


 ダミアンの言葉に、眷属たちも従うしかない。実際、剣聖に太刀打ち出来るのは、この場においてラビとダミアンだけであろう。飛行が制限される城内においては、黄龍でさえ剣聖の相手ではなかった。


(ぬし)様……頑張って!」

「マスター……どうか万象の加護あらんことを」

「ご主人様……剣聖にゃんかワンパンにゃ!」

「ダミアン、負けたら……この子たちはきっと逃げないわよ。覚悟して」


 眷属たちの声援にうなずくダミアン。その様子に剣聖は不敵な笑みを浮かべる。


「どうせ皆殺しなんだから、全員でかかってきても構わなかったんですがねえ。ま、順番にやっていきましょうか」

「貴方を倒せばシャルルは終わりだ。行くぞ剣聖!」


 勇者と剣聖の雌雄を決する戦いの幕が切って落とされた。

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