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オークに転生! フィジカル全振りは失敗ですか? 【健全版】  作者: kazgok
【第三部 戦乱編】第一章 勇者襲来
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皇帝陛下

「そこのオークの兄さん、もしかしてオーカイザー様じゃありませんか」


 少年のような声に振り向くと、酒樽を積んだ荷馬車の列から小さな人影が飛び降りる。


 それはティビと呼ばれる身長130センチ程の種族であった。見ればそこに連なる酒樽を積んだ荷馬車の列を操るのは、全てティビである。


 ナナシに声をかけたのは、少年のような声とは裏腹に、恰幅の良い小さな中年男性といった風情の人物であった。動きやすそうな服には細かな刺繍が施されており、革靴も手入れが行き届いている。ひと目である程度裕福な事が見て取れた。


 相手があまりに小さい為、自然と正座してぐぐっと前屈みになってしまうナナシ。


「はい、いちおう自分がナナシ・オーカイザーですけど、どこかでお会いしましたっけ?」


 巨大なオークが、柔らかな物腰で小さく体を折畳み目線を合わせようとするのを見て、声をかけたティビが慌てて手を振りながら言う。


「いやいやいや、どうかお立ち下さい! 天下のオーカイザー様に腰を折らしたと噂になっちゃ、氏族に顔向け出来ません!」

「いやいやいや、自分そんなに立派なものではありませんので、どうかお気になさらず」


 いやいいや、いやいやと極めて日本の商社マン的な謙遜合戦を繰り広げる巨大なオークと小さな中年男性。まるで喜劇のひと幕のようなその状況に何事かと人々が集まり始める。


「ほら~も~、相手が困っちゃってるでしょ~。ナナシたんはも~ちょっと威厳を持った方がいいとおもうんよ~。オークの群れのときみたいにさ~」


 レジオナの指摘に、まるで黒歴史ノートを見られたような心的ダメージを受けるナナシ。


 衆人環視の中で皇帝の役割を演じる(ロールプレイ)など、まさに羞恥プレイもいい所である。とは言うものの、目の前で困っている男性や集まって来る観衆を考えれば、誰かが恥をかいて場を収めないわけにもいかないだろう。


 ナナシは()()()と立ち上がり、後ろ手を組んで胸を張る。威厳たっぷりなその立ち姿は4メートルの身長をさらに大きく見せ、観衆からどよめきが上がった。


 軽く咳払いをひとつ入れ、ナナシは鷹揚に話し始める。


「いかにも、余はナナシ・オーカイザーである。(ゆえ)あって人目を忍ぶ旅の途中なれば、斯様な対応となった。許せ」

「滅相もない! そんな事とはつゆ知らず、うかつにお声かけしちまって申し訳ございません」


 小さな体をさらに折りたたんで平伏するティビ。何はともあれこの状況は非常に傍目がよろしくない。さっさと用件を聞いてしまおうと、ナナシは先を続ける事にした。


「よい、(おもて)を上げよ。まだその方の名を聞いておらぬな。名と用件を申してみよ」

「ははっ、私はしがない酒問屋を営む、タカッタ・スピーリト・ローレル・バーク・キユコーズと申します」


 片膝をついたまま名乗るティビの商人。いつの間にかナナシの傍へと近づいていたモニカが、うやうやしく解説する。


「皇帝陛下、ティビの名は、自分の名・職業・母の名・父の名・氏族名の順となっております。お呼びになる際は名・職業か、名・氏族名がよろしいかと存じます」


 状況を察して皇帝扱いしてくるモニカを横目でちらりと見るナナシ。モニカの横ではキーラが満面の笑みをたたえて、誇らしげにナナシを見守っている。まるで子供の発表会を見ている母親のようだ。


「うむ、タカッタ・スピーリトよ、続けるがよい」

「ひゃあもったいない! どうかタカッタと呼び捨ててくだせえまし! いや実は、皇帝陛下が例の『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』を防いでくだすった時、私は丁度ブリュッケシュタットで酒の仕入れをしておりましてね。従業員一同、いつか機会があったら命を救ってもらったお礼をしなきゃあと思っていた所でして」


 タカッタはそう言って立ち上がると、荷馬車の列へささっと合図を送る。すると列から1台の荷馬車が離れ、ナナシの前へと進んで来た。その荷台には、ティビの身長程もある大きな酒樽が6樽積まれている。


「今の私らではこれが精いっぱいですが、どうかお納めいただきますよう」


 ナナシは祖父が道楽で酒の樽買いをした時の事を思い出し、ざっと価格を計算してみた。この世界の基準は分からないが、この樽は480リットルサイズはあるように見える。安く見積もっても6樽あわせれば日本円で1500万円は下らないだろう。


 前世では全くの庶民だったナナシにとってみればとんでもない貢ぎ物である。しかしここで断ってしまえば相手の面子を潰す事になるだろう。ナナシはスッと右手を前に差し出すと、タカッタに告げる。


「タカッタよ、その方の感謝しかと受け取った。これからも商売に励むがよい」


 ナナシの対応としては他にどうしようも無かったとはいえ、これを聞いた観衆がにわかに騒めき動き出した。どこの世界でも商人は耳聡いものである。ナナシの活躍は商人の間でも広く知れ渡っていた。


 そして、あっという間にナナシの前には貢ぎ物を抱えた長蛇の列が出来上がった。今後頭角を現すであろうオークの皇帝に少しでも縁をつなごうとする商人たちに交じって、獣人や亜人の子供たちまでがキラキラ光る小石やささやかな宝物を持って並んでいる。


 内郭の城門前で起きたこの騒ぎに、門番や役人たちも何事かと様子を見に近付く。その時、物見塔で警鐘が激しく打ち鳴らされた。勇者急襲の報である。


 突然の警鐘に、広場は喧騒に包まれた。役人や門番は内郭へと続く城門を閉じようとするが、並ぶ荷駄の列は少しでも安全な場所へ移動しようと城門へと殺到する。あわてふためく人々の群れに、幼い子供たちも巻き込まれてしまう。


 パニックによって惨事が起きる寸前の広場に、拡声魔法具を使った声が響き渡った。


「みんな落ち着け! 皇帝陛下が守ってくださる!」


 魔法具を手に叫ぶのは、タカッタである。本人は小さく人混みに紛れているが、その傍に立つ身長4メートルのオークは誰の目にもはっきりと見えた。


 戦略級殲滅魔法や混沌の使徒すら退けたオークの皇帝。そのお方が御座(おわ)す所ならば、今この時最も安全な場所であろう。


 キーラに肘でせっつかれ、ナナシが声を張り上げる。


「皆の者、安心するがよい。我が名にかけてこの場を護ろう。倒れた者や怪我をした者を助け、物陰に隠れよ。くれぐれも慌てずに行動せよ、よいな」


 魂の歌声により、全ての種族にその言葉は伝わってゆく。その心強い響きは、パニックに陥りかけた群衆の心を落ち着かせ、あちらこちらで負傷者が救出され始めた。今にも踏み潰されそうになっていた幼子たちも、大人たちに抱きかかえられて助け出される。


 もしもの時はナナシを巨大化させる必要があるかも知れない。キーラたちは手分けして群衆を広場の周辺へと誘導してゆく。魔族領だけあって群衆は獣人や亜人が多くを占めており、いざとなれば戦える者は相当数いると思われた。ティビの荷馬車にはヒューマンの護衛等もついている。


 避難を手伝おうとしたナナシだったが、キーラに「こういう時の大将はふんぞり返ってんのが仕事なんだよ」と制されてしまった。仕方なくレジオナに鬼切玉宿を出してもらい、それを地面に突き立てた姿勢で上空を睨みつける。その威風堂々とした立ち姿は、群衆にさらなる安堵を与えた。


 警鐘こそ鳴らされたものの、この場には勇者パーティ単独の急襲とまでは伝わっていない。空を見上げながらナナシは考える。魔王城の前面に展開する魔王軍を突破してまで襲撃があるとすれば、よほど大規模な急襲であろう。


 生前は戦略級ゲーム等で大規模部隊の運用の難しさを実感したナナシだったが、いざ実戦となるとそんな経験は全く頭から消えていた。魔王軍8万を蹴散らせるほどの部隊を動かせば、接敵するまで存在を秘匿する事はほぼ不可能である。


 しかしそこまで頭の回っていないナナシは、空からの襲撃を見逃すまいと注視していた。すると突然、その視界に大規模なエネルギーの流れが飛び込んで来る。見覚えのあるそれは、まさしく『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』であった。


「ナナシたん! ヤバい!」


 レジオナが空を指差しナナシに叫ぶ。その時すでにナナシは空中へと飛び上がっていた。


「また『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』なの!? 発動者は誰? 興味深い!」


 そう言いながら、モニカがメガネの機能を最大限活用しながら録画を始める。


 はるか上空に出現した、恐るべきエネルギーを秘めた魔法球をなすすべなく見つめる群衆。ある者は恐怖の眼差しで空を見上げ、ある者は恐怖のあまり地に伏し頭を抱えた。


 そして空を見上げた者は、噂に聞くばかりだったナナシの武勇をその目で見る事となる。


 空中を駆け上るナナシの体がいきなり16倍、64メートルのサイズに巨大化した。キーラが手でひさしを作り、ナナシを見上げて言う。


「せっかくナナシが活躍すんのに、遠すぎて見えねえのはもったいねえかんな!」


 巨大化したナナシは、そっと『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』の防御壁を手のひらへ握り込み、太陽めがけて思い切り投げ飛ばす。まだ反物質を召喚中の魔法球は、あっという間に第2宇宙速度を突破して宇宙空間へと放逐された。


 そのまま城壁の外へと跳躍してゆくナナシの後方からは、ナナシを讃える大歓声が沸き起こる。民間人をも巻き込む戦略級殲滅魔法を使う相手に激しい怒りを覚えながら、ナナシは魔王軍を急襲した何者かへと向かって跳躍を続けるのであった。

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