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オークに転生! フィジカル全振りは失敗ですか? 【健全版】  作者: kazgok
【第三部 戦乱編】第一章 勇者襲来
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城下町

 勇者ダミアンは、こちらに向かって歩いてくる魔王と、それに付き従う数名の側近を見つめながら迷っていた。最初の計画通りならば、すでに魔王軍を半壊させた上で魔王を倒していたはずである。


 しかし現実はどうであろう。魔王軍は空軍を除いて無傷であり、魔王の影武者すらも殺せてはいない。


 こちらはエロイーズの装備を失い、ラビもエロイーズも、黄龍さえも手傷を負わされてしまった。このまま帰還すれば、魔王軍に迎撃されて逃げ帰ったと見られても仕方がないだろう。


 ダミアンが勇者として自由奔放に振る舞っても許されているのは、ひとえにその強さ故の事である。


 この世界の常識とはまた違った価値観で行動するダミアンには、人間社会の中にも敵は多い。彼らはダミアンの失敗を虎視眈々と狙っているのだ。


 出撃した以上は、とにかく目に見える形の戦果を上げなければならない。焦ったダミアンはオルガに命じ、奥の手を使う。


「オルガ、アレを使うんだ! みんなこっちへ集まれ!」


 以心伝心でダミアンの意図を汲んだオルガが、待機状態で維持していた『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』を発動させる。黄龍が慌てて人化すると、ダミアンの祈念により神聖干渉『絶対防御圏(インバイオラビリティ)』が発動し、勇者たちを包み込んだ。


 膨大な魔力の流れにより、発動した魔法が戦略級殲滅魔法であると気付いたラビがダミアンに叫ぶ。


「ダメよ! こんな場所で使ったらもう取り返しがつかなくなる! やめて!」


 肉体の関係があっても勇者の眷属になる事を拒んでいるラビには、この奥の手は知らされていなかった。しかしその叫びもむなしく、発動待機状態にあった『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』は既に術式の構築を終えており、もはやその内部に反物質の召喚を待つばかりである。


 魔王軍8万体と魔王城下に暮らす10万の民衆に対する、殲滅へのカウントダウンが始まった。


     ◆◆◆◆◆


 勇者の急襲より少し前、魔王との話し合いを終えたナナシたちは、魔王城の城下町へと繰り出していた。黄金龍は大長老マイスラや白髪のレジオナと共に、魔王城で何やら密談をしている。


 城門を抜けて進んでゆくと、兵舎や備蓄庫等を内包した城壁、いわゆる内郭の外側には様々な商業施設や工業施設が広がっていた。そして、それらを支える飲食業や宿泊施設、その他雑業及びそれらに勤務する人々と家族の住居等を広大な外郭が守っている。


 絶対的な権力者である魔王によって町は計画的な区画整理がなされており、外郭と内郭を結ぶ主要な道路は放射状に等間隔で延び、道幅も広い。建物自体も高さ制限こそあるものの、3階建て程度の家屋が立ち並び、主要道路に面した建物は1階部分が店舗になっている場合も多かった。


 8頭立ての荷馬車が余裕をもってすれ違える広さの大通りには、魔王軍の物資を運ぶ荷駄が列をなして並ぶ。大型種族も含む8万の兵ともなれば、日々の食料だけでも100トンを超える物資が必要となる。


 転生者である魔王ロックの偏執的とも言える兵站の重視により、魔王領各地から莫大な量の物資が魔王城へと集められていた。


 さらに流通に伴う人の移動を目当てに、様々な商売人も魔王城へと集う。その中にはヒューマンやティビ等、人間の姿も多く見られる。その結果、城下町は西方諸国の首都もかくやと思われるにぎわいを見せていた。


 この世界に転生してから初めて町の中へと足を踏み入れたナナシは、活気にあふれる町の喧騒に感動を覚える。


「すごいね! 魔王領っていうからもっとこうおどろおどろしい無法な感じかと思ってたけど、なんか普通の都会っぽい!」


 内郭へと続く門の前は大きな広場となっており、役人が荷駄の中身を検査したり、その他様々な手続きを行っている。そして順番待ちの荷馬車や旅客を目当てに、様々な物売りや軽食の屋台が広場の周りに並んでいた。


 町の様子を録画しながら、モニカが感想を述べる。


「魔王城から見下ろした時も思ったけど、随分きちんとした町並みよね。はっきり言って西方諸国よりも遥かに進んだ設計思想に基づいて整備されてるわ」

「おいナナシ、あれ見ろよ! ゴブリンが馬糞の掃除してるぜ!」


 キーラが指さす方を見るナナシ。そこでは2人組のゴブリンが、荷馬車の列の横を1輪の手押し車(いわゆるネコ車)を押しながら進んでいた。


 荷馬車の列に馬の落とし物を見つけると、スコップを担いだ方のゴブリンがさっとすくって手押し車に放り込む。敷石で舗装された道路にほとんど痕跡も残さない、熟練の技であった。


 転生者であるナナシから見れば普通の町並みも、この世界で暮らす人間からしてみれば異様なまでに清潔である。定期的に現れる転生者の知識により、地球の中世や近世に比べればはるかに衛生観念の高いこの世界においても、この町の綺麗さは群を抜いていた。


「あのウンコ、どこに持ってくんだろ?」


 何気ないナナシの疑問に、レジオナが広場の隅を指し示す。広場の両隅にはそれぞれ木造の立派な平屋建てがあった。


 平屋とはいえ天井の高さは4メートル以上あり、床面積も100平方メートルはあるだろう。入口は3ヶ所に分かれており、建物正面には西方共通語で大きく公衆便所と書かれていた。


「あつめたウンコはね~、あそこのこ~しゅ~トイレにあるウンコ捨て場にすてるんよ~」

「公衆トイレですって!? まさかスライム式浄化槽だったりするの?」


 モニカの疑問に、レジオナがふにゃふにゃと答える。


「そりゃ~ま~、スライム式がいちばん便利だかんね~。っていうかさ~、じんるいはもっとスライムにかんしゃすべきなんよ~。いまの人口ささえてんのぜ~んぶスライムのおかげなんだしさ~」


 少し怒ったようなレジオナの様子を見て、ナナシが不思議そうに聞く。


「スライム式ってそんなにすごいんだ。でもなんでレジオナは不満そうなの?」

「そりゃ~、スライムにウンコ食わせてひりょ~にするって~、スライムをなんだと思ってるってはなしなんよ~。スライムだいひょ~としてはふくざつなきぶんよのさ~」


 レジオナのふにゃふにゃとした説明に、モニカが補足を入れる。


「スライム式浄化槽のいい所は、まず臭いが少ない所ね。ある程度大きなスライムは餌を体内に包み込んで捕食する習性があるから、落ちてきた排泄物を包み込む事で臭いが外に漏れなくなるわ。そしてある程度育ったり増えたりしたスライムは、核を潰した後乾燥させて砕けば有機肥料として活用できるの。体組織の保水性を利用すれば荒れ地の土壌改善にも役立つし。何より排泄物を堆積発酵させて作る有機肥料より何倍も素早く作れる上、寄生虫や病原菌もスライムが処理してくれるから安全性も高いのよ。スライム式浄化槽で作られた有機肥料は農作物の増産にかなり貢献しているわね」


 モニカによる早口の説明にふんふんと頷くナナシ。


 実際には輪作や農耕具の機械化等、様々な農業革命の集積による農作物の増産ではあるが、肥料の存在はやはり大きい。近年では匿名の何者かによって『虚空録』に窒素固定法の論文まで記載されている。


 ナナシたちがそんなやり取りをしていると、公衆トイレからフリーダが出てきた。心なしか目がキラキラしているように見える。


「ちょっと! すごいわよこのトイレ。個室に魔道具がついてて、用を足した後に水が出てお尻を洗ってくれるの。しかもその後温風が出て乾かしてくれるのよ! 馬鹿じゃないの!?」

「興味深い!」


 それを聞いたモニカがメガネを光らせてトイレに駆け込む。恐らくつぶさに実況を交えた録画をするつもりであろう。キーラさえも物は試しとトイレに入ってゆく。


「魔王さんちょっとやり過ぎなんじゃ……」


 呟くナナシと目線を交錯させたレジオナが苦笑いを返す。


「ま~、てんせ~しゃなんてそんなもんでしょ~。お姫ちんだって製紙こ~じょ~作ってるしさ~。だからジルバラントじゃウォシュレットじゃなくてトイレットペーパーが主流なんよ~」


 転生者が現れるのは何も西方諸国に限った事ではない。定期的に転生者が現れるこの世界では、『虚空録』の存在によってその知識さえも距離を超えて即座に共有される。


 この世界において無限に供給される魔素という資源により、それらの知識は魔法や魔道具を介してほぼ同等の効果をこの世界へともたらしていた。鉱物資源の扱いに秀でるドワーフ地下工房との協力が深まれば、21世紀の地球文明すら凌駕する日は遠くないだろう。


 なにやら遠い目をしているふたりに、フリーダが声をかける。


「ほらほら、いつまでもトイレの話してないで、その辺見て回りましょうよ。このフリーダ様がドーンと奢ってあげるから」

「えっ、フリーダが奢り!?」

「んも~、やめてよねフリーダちん。またどっかで混沌浸食おきたらど~すんの~」


 守銭奴エルフの大盤振る舞い宣言に、すわ天変地異の前触れかとうろたえるナナシとレジオナ。その様子にフリーダが憤慨する。


「あんたたちねえ……人を何だと思ってんのよ。私はお金の使い所をわきまえてるだけで、守銭奴ってわけじゃないんだからね」


 そう言われてみればこの守銭奴とも見えるエルフは、金目の物への執着こそ大きいものの、吝嗇(りんしょく)家というわけではない。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

「いよっ! フリーダちんお大尽~! かっちょいい~!」


 それならばと、ナナシとレジオナは両手を揉みながらいそいそとフリーダに付き従う。


 広場から大通りの方へと向かって歩き出すナナシたち。不意に、荷馬車の列からナナシをを呼び止める声が上がった。


「そこのオークの兄さん、もしかしてオーカイザー様じゃありませんか」

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