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城壁の攻防

 城壁の物見塔の上で、モニカとレジオナは1キロメートル先の万象砕きを見つめていた。


 足下には城壁に体当たりをする魔獣や、壁を這い上ろうとする魔獣が押し寄せている。兵士と冒険者たちは城壁の上から弓や銃器、魔法で攻撃を加えていた。


 元々堅牢な城壁は、魔法による強化が施されていた事も幸いし、地震による損傷はほとんど無かった。さらに魔獣暴走(スタンピード)に備えて土魔法で補強が追加され、今現在は魔獣による猛攻を全く寄せ付けていない。


 城壁に備え付けられている対魔獣大型弩砲(バリスタ)や重機関銃は、魔素で強化された魔獣の毛皮すら貫通し多大なダメージを与えている。


 押し寄せる中には攻城兵器並みの破壊力を持った魔獣も存在するが、それらの魔獣には集中砲火を浴びせる事で城壁へ近づけさせない。その間にナナシや龍たちが危険な魔獣を間引いてゆく手筈であった。


「ええ~、あれってさ~完全に混沌の使徒だよね~。誰が召喚してんの~? そんな感じの連中いなかったよね~?」


 レジオナがふにゃふにゃと非難の声を上げた。今はわりとそれどころでは無いのだ。ナナシや黄金龍といった戦力が混沌への対応に追われてしまえば、いくら堅牢な城壁とはいえ突破される可能性が出てくる。


「悔しい……! 召喚門の正体に気付く早さで教皇に負けた……! 混沌っぽい臭いはしてたのよ、あの魔法陣の術式。見切りで『深淵を覗く者』祈念するべきだった……」


 早押しクイズの敗者のように悔しがるモニカ。しかし脳内では『並列思考』と『思考加速』を同時発動し、使徒の正体を『虚空録』の膨大な記録から推測していた。


「あった! 万象砕き……『破壊を愉しむ者』の使徒……武器と盾……記事編纂、クルーガー……」


 またもや教皇に先を越され、使徒の記事を編纂されてしまうモニカ。足元から崩れ落ちそうになるのを必死でこらえる。知識の女神の大司教としては、悔しさよりも今現在行っている録画の質の方がはるかに重要なのだ。


 ちなみにこの記事には万象砕きの画像も添付されていた。しかし写実的な画像では閲覧した者が発狂する恐れがあるため、戯画化(カリカチュアライズ)された柔らかな印象のイラストになっている。


 担当する画家は新進気鋭の『かりかちゅや』。その柔らかでなおかつどんな場面にも違和感なくマッチする画風は万人に受け、いまや目にした事が無い人間の方が珍しいほど様々な場面で起用されている。


 さらに万象砕きの記事には、今回の召喚門に対する教皇の考察も追記されていた。


 事前に動いていた組織や、戦闘中に動いた組織が見当たらない事から、これは一定の条件がそろえば自動的に発動する魔法陣であると推測される。さらに、召喚門の規模から考えて、恐らくその条件とは魔獣暴走(スタンピード)に伴う大規模な殺戮であろうと。


 戦争による死者でも発動する可能性はあるが、ジルバラント王国のほぼ中央に位置する王都クリンゲルまで攻め込まれた場合、そこまで大規模な戦闘が残っているかも疑わしい。しかし魔獣暴走(スタンピード)ならば数千年周期とはいえ()()()()()()()


 そして、この魔法陣を設置した何者か、あるいはその集団は魔獣暴走(スタンピード)がなぜ起きたかを知り、再び起きる事を予測した。その上で、誰にも知られぬよう魔法陣を設置したのだ。


 とはいえ、これだけの規模の魔法陣を誰にも知られる事なく設置できるものだろうか。可能性があるとすれば、誰もがそれどころではない状況、すなわち前回の地震とそれに伴う魔獣暴走(スタンピード)の直後、ジルバラント王国が滅亡の危機に瀕していたその時こそが最も設置に適した状況であっただろう。


 つまりこの魔法陣は3千年前に設置された混沌の罠だったと見るべきである。数千年後に必ず訪れる魔獣暴走(スタンピード)を利用した混沌浸食を行い、ジルバラント王国に止まらず西方諸国全てを破壊するための罠。それがこの魔法陣の正体であろう。


 モニカが読み上げた内容に、うんざりした顔でレジオナがふにゃふにゃと突っ込む。


「うっわ~、混沌の連中ってどんだけしゅうねんぶかいんよ~。3千年とかばっかじゃないの~? キモい! マジでキモい!」


 しかし憤慨するレジオナの横で、モニカは豊満な胸を押し上げるように腕組みをしたまま、顎に指をあて思案顔である。


「確かに気が長い計画だけど、3千年かけて万象砕きだけ……? そりゃあ被害は甚大だろうし西方諸国くらいは滅ぶかもしれないけど、さすがに世界は滅亡しないでしょ。魔獣暴走(スタンピード)の規模を考えれば利用できる資源ははるかに多いんだから、私だったらもっとこう……絶対に対処不可能で致命的な何かを……」

「怖っわ! モニカちん怖っわ! ふつうはさ~西方諸国滅んだらじゅうぶんでしょ~! さすがはモニカちん、ほんっと~にそういうとこだゾ~」

「ふふっ、どういたしまして」

「つよい!」


 そんなふたりの呑気な会話は、突如城壁を襲った衝撃によって中断させられた。万象砕きが半円状に放った斬撃により、1キロメートルもの距離を超えて城壁が粉砕され、脆くも崩れ落ち始めたのだ。


 斬撃の衝撃波は地面に対し斜め60度の角度で城壁を破壊すると、そのまま王都を縦断し、最終的に半径5キロメートルの地点まで達した。王宮への直撃こそ免れたものの、衝撃波の刃とその余波は、進路上にあった建物を住人ごと破壊しつくした。


 城壁と共に崩れ落ちる物見塔から『浮遊』で脱出したモニカは、届く範囲の兵士に『降下制御フォーリングコントロール』をかけるものの、助ける事ができたのは微々たる人数に過ぎなかった。


 城壁は20メートルほどに渡り崩れ落ち、Vの字型の裂け目となっている。幸い、衝撃波により裂け目付近の魔獣は壊滅しているが、周囲の魔獣がすぐにこの場所をめがけ押し寄せてくるだろう。


 思いがけぬ攻撃に混乱する兵士と冒険者たちは、裂け目に対する防御態勢を構築できないでいた。裂け目を突破されてしまえば、もはや無防備な住民は蹂躙されるがままとなる。


 生き残った魔術師たちが『土壁』や『防御壁』を展開してゆくものの、全く統率の取れていないそれらの魔法は、20メートルもの裂け目に対しあまりにも頼りない。『土壁』も『防御壁』も隙間だらけである。


 そして、ついに魔獣たちが裂け目へと殺到し始めた。絶望の地響きが王都を揺らす。押し寄せる魔獣に左右の城壁から十字砲火が浴びせられるが、その勢いは全く鈍る様子がない。


 城内の兵士たちは隊列を組む事もままならぬ状況で、とにかく数を頼りにと槍衾で迎え撃つ。しかし城壁に迫る小山のような魔獣を前にしては、死の定めに跪く殉教者のようにすら見えてしまう。


 誰もがこれから起きるであろう惨劇を覚悟したその時、明らかに魔獣のものとは違う地響きが大地を揺るがした。


     ◆◆◆◆◆


 上空から見下ろしていたモニカは、城外の地面が細長く隆起していくのを興味深く録画していた。


 幅10メートルの隆起は、なだらかな傾斜を伴って約50メートル続き、最終的に高さ10メートルの開口部を地上へと出現させた。それはまさに、地下から続くトンネルの出口であった。


「キタ~~~! コレぜ~ったいタイミングはかってたよね~。まったくも~、ヒヤヒヤさせやがるぜぇ~!」


 顎の下を手の甲で拭うしぐさもわざとらしく、モニカの隣でレジオナがふにゃふにゃと歓喜の声を上げる。


 次の瞬間、勇壮な汽笛の音と共に、トンネルから真っ黒な装甲列車が魔獣の群れへと突撃した。ラッセル車のごとく前面に衝角を備えた装甲列車は、その大質量と速度による衝撃力で魔獣を粉砕しながら驀進(ばくしん)する。


 やがて甲高い制動音と共に、魔獣への突進で勢いを殺しながら、装甲列車は城壁の裂け目を遮るように停車した。


 動力車である先頭車両の後には、装甲版で覆われた3両の貨車が連結されている。先頭車両の衝角を含めると、実に全長100メートルを超える。


 突然の出来事に警戒する魔獣たちの目の前で、貨車の側板が左右へとスロープ状に展開し、その内部があらわになる。


 2両目には純白の装甲に身を包んだ長槍を携える戦士が40体。4両目には同じく純白の装甲に身を包み、盾と片手剣を携えた戦士が40体。その間の3両目には、白い装甲に身を包んだ半人半馬(ケンタウロス)の戦士が馬上槍(ランス)と盾を携え18体並ぶ。


 そのケンタウロスに挟まれ、中央に立つ2体の戦士。


 ひとりは純白のスパイダーシルク製道着を身に着け、膝から下は装甲で覆われている。前腕を覆う装甲の側面には60センチほどの刃が取り付けられており、さらに両腰にはそれぞれ片手剣、背中には両手剣を背負う。そして左の肩口に大ぶりなナイフ、頭部を覆う獅子を模した兜の額からは角のように刃が突き出していた。


 身長190センチの雄々しき姿、その名も獣王丸セブンソード。


 その横に立つのは、小山のような巨躯の異形である。身長4メートル近い球のような体を、鳥のような逆関節の短く太い脚が支えている。


 その球から生える4本の腕は、それぞれが対魔獣回転式機関砲となっており、さらに球の肩口には長大な砲身が左右2基備え付けられていた。球の前面には人間大のへこみがあり、そこには装甲に身を包んだ可憐な少女が操縦桿を手に収納されている。


 砲撃戦特化の勇壮なる姿、その名も椿姫フルバースト。


 総勢100体の戦士たち、その純白の装甲には真っ赤な染料でロジーナ姫の紋章が描かれている。これこそがロジーナ姫の隠し玉、人間大のゴーレムファイター軍団であった。


 この状況に、魔導放送局長マクシミリアンも動く。城壁に設置してある録画装置をフル稼働し、万象砕きを画面内に入れぬよう細心の注意を払いながら、ゴーレムファイター軍団の配信を開始した。


 恐るべき衝撃波による被害で半ばパニックに陥りかけた住民も、画面に映る純白の装甲と、そこに描かれたロジーナ姫の紋章に歓声を上げる。


 大気を振るわせるほどの大歓声を背に、まず動いたのは椿姫フルバーストであった。4門の回転式機関砲がうなりを上げて魔獣たちを薙ぎ払う。貨車に備え付けられた給弾装置から無尽蔵に供給される弾丸は、ノワ先生がお楽しみ箱代に支払った龍鱗より削り出された徹甲弾である。


 爆裂魔法で焼ける砲身を冷凍魔法で強制冷却しながら、大型の魔獣すら撃ち砕いてゆく椿姫フルバースト。さらに超大型の魔獣に対しては、両肩の砲身から大出力の魔晶石を利用した戦車砲並みの砲撃を見舞う。さしもの超大型魔獣も、その恐るべき運動エネルギーの前になすすべなく撃破される。


 約1分で4門計1万発の弾丸を打ち尽くした砲撃戦ユニットから椿姫が分離すると同時に、ゴーレムファイター軍団が一斉に突撃を開始した。


 分離した椿姫は、純白の翼で空中へと優雅に舞い上がる。蛇腹剣を華麗に振るい、ヒット&アウェイを得意とする高速戦闘形態、椿姫サンダーバードであった。


 集団戦闘が開始され、ケンタウロスゴーレムがランスチャージで蹴散らした魔獣を、片手剣のゴーレムが(ほふ)ってゆく。長槍兵のゴーレムが押し戻した陣地を半円形に確保すると、城内からも兵士や冒険者たちが打って出た。


 城壁からの援護射撃もあいまって、裂け目に対する魔獣の侵攻は完全に押しとどめられた。貨車にはドワーフ技師も乗り込んでおり、ゴーレムの動力源となる交換用の魔晶石や、手足の予備パーツも準備されている。


 戦線維持をゴーレムファイター軍団と兵士たちに任せ、獣王丸は魔獣のただなかへと躍り込む。戦線を崩壊させかねない強力な魔獣を駆逐するためである。


 周囲の魔獣を跳ね飛ばしながら走る黒鎧戦犀(メタルギフル)を見つけた獣王丸は、軽く跳躍すると、体高5メートルの黒鎧戦犀の背中へひらりと飛び乗った。そして黒鎧戦犀が反応する間もなく、腰から引き抜いた2本の剣で首筋の装甲の隙間を切り裂いた。


 驚いた黒鎧戦犀は後脚を跳ね上げ獣王丸を振り落とそうとするも、時すでに遅し。分厚い筋肉を切り裂かれ、その首はがっくりとうなだれる。空中で巧みに姿勢を整えた獣王丸は、飛び降りざま背中の両手剣を振りぬき、黒鎧戦犀の首を一刀両断に斬り飛ばす。


 さらに獣王丸は、着地と同時に次の獲物を見定めると、追いすがる魔獣たちを両腕の刃で切り払いながら疾走する。特級冒険者をも凌駕する技の冴えは、小型ゴーレムを使った競技、ゴーレムファイトによるデータ蓄積の賜物である。


 獣王丸の目前に、巨大な顎肢(がくし)を持った、全長15メートルを超えるムカデのような魔虫が現れた。複雑にうねる強固な外殻は矢弾の貫通を防ぎ、無数の脚は容易に城壁を登る厄介な相手だ。


 幅1メートルはある頭部から生える、毒腺のある顎肢による噛みつきを、獣王丸は前腕の刃で受け止める。そしてそのまま両腕をひねると、大ムカデは波打つようにクルリと仰向けに転がされてしまった。


 反射的に丸まろうとする大ムカデを、獣王丸はその勢いを利用した巴投げで上空に放り上げる。


 足場を失いパニックにうねる大ムカデに向かって、椿姫サンダーバードが飛来した。威嚇するように広げられた顎肢の奥に大きく開いた口腔へ、椿姫の蛇腹剣が伸びる。次の瞬間、口腔内に突き刺さった剣先から大電流がほとばしった。


 椿姫の豊満な胸部装甲の奥には、そのサイズに見合った巨大な魔晶石が左右にふたつ収められている。その大魔力を惜しげもなく使った恐るべき電撃が、大ムカデを内部から焼く。ほんの数秒で、大ムカデは沸騰した体液によって内部から爆発した。


 獣王丸は、魔導通信を利用したGF(ゴーレムファイター)ネットワークにより、上空から索敵を行う椿姫から次の標的の情報を受け取ると、即座に走り出す。


 このGFネットワークは地下深くドワーフ工房に設置された巨大なゴーレム頭脳(ブレイン)を介して、ロジーナ姫の等身大ゴーレムファイター軍団全てとつながっている。そのため、ゴーレムファイターたちは意識を共有しているかのごとき連携が可能なのだ。


 一糸乱れぬゴーレムファイター軍団の強固な守りと兵士たちの奮闘により、城壁へと殺到する魔獣は次々と倒されてゆくのであった。

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