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戦力招集

 黄金龍の差配により、十数体の龍によって魔導放送の中継器が各地へと設置されてゆく。音速すら超える飛翔速度を誇る龍種のおかげで、ジルバラント王国全土に中継器をばら撒く作業はほんの数時間で終了した。


 回復した魔導通信により王都と連絡を取り合ったロジーナ姫は、王室戦略会議に魔導通信で参加する。


 魔獣暴走(スタンピード)の危機は伝えたものの、現在のジルバラント王国の状況では満足に迎撃できるかどうか危ぶまれるところであった。


 幸い魔導放送により小さな村にも避難命令を出す事は出来る。動員できる戦力を勘案しても、もはや城塞都市以外の村々は放棄し、拠点を絞って防衛するほかは無いと思われた。


 そして最も紛糾したのが、最大戦力である龍種の援軍に対する意見である。


 王をはじめ、会議の参加者ほぼ全員が城塞都市への配置を望んだのに対し、ロジーナ姫だけは頑なに、その機動力を生かして村人の避難を最優先に手伝ってもらう事を主張した。


 数十人から、多いところでは数百人の村人を全員とはいかないまでも、老人や子供を龍に運んでもらえば避難速度は格段に違ってくる。


 そして何より、かさばる家財道具をあきらめさせるのに、龍のひと声は非常に有効だろう。兵士や役人にはまだ盾突けるかも知れないが、龍種に盾突ける一般人など存在しない。


 しかし、ただでさえ転生恩寵(ギフト)『王の器』による『王に至る試練』の影響で、王はともかく王子たちには常に反感を持たれているロジーナ姫である。その意見に賛同する者はほとんどいなかった。


 その状況を打開したのは、魔導通信の画面に直径2メートルの片目だけ映り込む、人化を解いた黄金龍のひと言である。


「私たちの扱いについて議論されているようですけれど、人間風情がどうして私たちに命令できると思っているのか教えて頂いても?」


 それはどこまでも澄み切っていて流麗な西方共通語であったが、画面越しですら聞いた者の心胆を寒からしめる威厳に満ちていた。そこにいるのは紛れもなく世界最強の存在であり、戯れに一国を滅ぼす事のできる破壊力の化身であった。


 即座に反応できたのは国王フィリップただひとりである。さすがは国王の胆力と言えよう。


「クゲーラ陛下、これは失礼いたしました。このフィリップ心よりお詫び申し上げる」

「あらあら国王陛下、いけませんわ。私がクゲーラと呼ぶのを許したのは、友人たるロジーナ殿下だけ。それ以外の方々には、敬意を込めて黄金に輝く(ハガールキュラ・)麗しき太陽の(ドゥオェー・グァ・)化身(クゲーラ)と呼んで頂かないと、ねえ?」


 あくまで穏やかなその口調に、国王は深々と頭を下げた。


「重ね重ね失礼いたしました、黄金に輝く(ハガールキュラ・)麗しき太陽の(ドゥオェー・グァ・)化身(クゲーラ)陛下。申し訳もございませぬ。なにとぞご容赦を賜りたく」

「ふふっ、わかっていただければ結構です。私たちはあくまで善意の協力者。ロジーナ殿下やナナシ皇帝陛下との友誼(ゆうぎ)に基づいて防衛に参加しているだけという事を、ゆめゆめお忘れなきよう」


 画面の外ではいきなり皇帝呼ばわりされたナナシが「ヤメテ!」と緑の顔を赤黒くする。


 いっぽうの王国会議室内でも、非公式ながら情報だけは聞き及んでいる「例の」オークについて黄金龍が言及したことで、ざわめきが広がった。


 ロジーナ姫はこの機を逃すまいと、断固とした口調で告げる。


「国王陛下、クゲーラ陛下の意向はお聞きの通りじゃ。こちらの手の内にある戦力は、わらわの裁量で差配させていただきますゆえ、悪しからず。詳細な配置は後で黒龍配達便にて直接王宮に届けるので、龍が飛来しても驚かぬよう、くれぐれも国内にお達しをよろしくお願いしますぞ」


 有無を言わせず通信を終わろうとするロジーナ姫を、国王が(とが)めた。


「ロジーナよ、いくらそなたでもこのように勝手な振舞い、このまま看過する事は出来ぬぞ」

「国王陛下、わらわも覚悟はできておりますゆえ。なにせこちらは奥の手秘蔵(ひぞ)っ子まで投入しますからな! まあ届く書簡の戦力を楽しみにしておられよ」


 ロジーナ姫の答えに、ため息をついて肩をすくめる国王。


「まったく、そなたはこうと決めたらテコでも動かんからな。まあ此度の危機で出来る限り手柄を上げてみよ。勲功次第では情状酌量の余地もあろう。話は全てが片付いた後だ」


 ロジーナ姫はふわりと微笑み、娘の顔で語りかける。


「では父上、ご武運を」

「ロジーナ、そなたもな」


     ◆◆◆◆◆


 ロジーナ姫は少しでも戦力を調達するため、専用の連絡設備を使いドワーフの地下工房へと符丁を送る。


 これは大陸すら越えて世界中に広がるドワーフの地下帝国と取引のある者のみに与えられる、各地に点在するドワーフ工房への入り口へとアクセスできる鍵であった。ただし、取引の内容によりアクセスできる設備も限られている。


 魔破の里もドワーフ工房とは取引があり、村のはずれに工房への入り口が設置されていた。この入り口は、主に印刷関連で取引があるロジーナ姫もアクセス可能な設備であった。


 ロジーナ姫は入り口に設置されている通信装置から手早く指示を出す。


「かまわん、動かせる機体は全機投入じゃ! ボディにわらわの紋章をペイントしておくのじゃぞ! 各都市への割り振りは追って指示するゆえ、出撃準備を頼む。ああ、獣王丸と椿姫はもちろんクリンゲルじゃ!」


 ドワーフ工房に連絡を済ませたロジーナ姫は、再び集会所に戻り藻屑と交渉する。


御前(ごぜん)よ、此度の大災害は国家存亡の危機じゃ。魔破の里からも援軍を出してはくれぬか」


 そう言って頭を下げるロジーナ姫に、藻屑は腕組みをしたまま首を横に振った。


「先代の国王には恩があるけど、私たちは国を追われる時に、二度と主君を戴かないと決めたの。申し訳ないけれど、対価なしでの協力は出来ないわ」

「しかし今はそんな事を言っておれる状況ではなかろう! 王国が壊滅すれば、魔破衆とてこの地に安住は出来んじゃろうが!」

「それでもよ、お嬢。戦場で相まみえれば同胞とてこれを討つ。私たちが傭兵を生業とする以上、対価と契約だけは何があろうと譲れない」


 藻屑の言葉に業を煮やしたロジーナ姫は、アヤメに命じて内部拡張収納袋(マジックバッグ)から金貨を取り出し積み上げる。


「よかろう! ならば即金で金貨千枚。美強殿を借り受けるとしようかの!」


 ロジーナ姫の申し出に、にやりと笑う美強。


「さすがはお嬢、話が早えェや。とはいえ俺を雇うにゃあちっとばかり足りねえかもな。その金で数を揃えた方が良かあねェか?」

「我がジルバラント王国の底力を甘く見ないで欲しいのう。雑魚魔獣なんぞ何千匹来ようが何とでもなるじゃろ。怖いのは1体で戦況をひっくり返すような規格外の魔獣じゃ。美強殿にはその手の相手をしてもらいたい」


 ロジーナ姫はそう答え、内部拡張収納袋(マジックバッグ)からさらにひと山金貨を積む。


「前金で金貨2千枚。事が収まった時点で成功報酬としてもう2千枚でどうじゃ。ただし、王都が陥落したら払おうにも払えんから頑張ってもらわんとな!」


 美強は大量の金貨を前に短く口笛を吹き、藻屑の方をうかがう。藻屑は居住まいを正すと、ロジーナ姫に向かい一礼する。


「ロジーナ殿下のご要望、確かに承りました。すぐに契約書をご用意致します。羽生美強を存分にお使い下さいませ」


 その様子を見ていた、人化した黄金龍が、からかうように言う。


「あらあら、いくら剣狼相手とはいえ、たかが人間に金貨4千枚。ロジーナ姫ったら大盤振る舞いですわね。私たちがいれば必要ないのではなくて?」


 それを聞いて美強がにやりと笑う。


「女王陛下にゃあ馬鹿馬鹿しいかもしれねえが、これが俺たちなりの筋の通し方ってやつさ。タダより高い物は無いってね。それに、龍種におんぶにだっこで危機を切り抜けてもその先がねえよ。俺たちは俺たちでやれる事をやらにゃあ」

「美強殿の言う通りじゃ。クゲーラ陛下の助力にはどれだけ感謝してもしきれぬが、我ら人間が手を抜く言い訳にはならんじゃろ。出来る事を最大限やらねばの!」


 ふんすと薄い胸の前で拳を握るロジーナ姫のあざと可愛さに、もはやカレンなどはメロメロである。その完璧なるのじゃロリ姫っぷりに、黒龍も思わずスケッチブックを取り出す。


 こうして、着々とジルバラント王国の迎撃態勢は整ってゆくのであった。

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