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オークに転生! フィジカル全振りは失敗ですか? 【健全版】  作者: kazgok
【第一部 転生編】第一章 オークと姫
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オーク襲来

「もう十分だ、下がって防御態勢!」


 マーティンがそう叫ぶと同時に、炎に包まれた巨体が十秒砦の壁の上へと躍り出る。

 跳躍で壁を軽々と飛び越えたオークナイト達は、そのまま地面を転がり火を消し、隊商に向かって走り出す。炎に焼かれた皮膚は見る間に再生してゆく。


「行かせん!」


 馬首を巡らせ、オークナイトに突撃するマーティン。さらにオークナイトが次々飛び上がり、堀の下へ攻撃していた冒険者たちに襲い掛かる。


 オークウォリアーは、比較的怪我の軽い者が壁をよじ登ってくるも、槍や攻撃魔法により堀へ再び落とされたり、絶命して地面に叩き付けられたりしている。しかしオークナイトは空中で槍を切り払い、銃弾を弾き、あるいは無視し、攻撃魔法を受けるがままに壁の上へと着地し、有り余る耐久力と再生力を武器に冒険者たちを蹂躙し始めた。


 身長2.8メートルの巨体から繰り出される両手斧の横薙ぎ(スイング)は、盾で受け止めようとした中級冒険者の戦士を軽々と真っ二つに切り飛ばし、後ろに庇われていた魔法使いと僧侶までをも両断する。


「中級冒険者は下がって支援に回れ!」


 そう叫びながら上級冒険者のパーティがオークナイトに立ちはだかった。

 斧の一撃を、重戦士が鋭い踏み込みと盾による押し込み(シールドバッシュ)で威力が乗る前に相殺する。その機を逃さず斬撃を見舞う剣士に、魔法使いと僧侶による身体強化と攻撃力増強の支援が飛ぶ。


 さしものオークナイトも、上級冒険者の渾身の一撃を危険とみて、体勢を崩しながらも回避する。鎧の表面を削った斬撃は一度で止まらず、連撃が徐々にオークナイトに傷を負わせ始める。

 さらに重戦士と銃士の追撃によりオークナイトを追い詰めるも、左右から新手のオークナイトが襲い掛かり、僧侶と魔法使いがあわてて展開した防御壁(プロテクション)を削ってゆく。


「食らえオラァ!」


 銃士が防御壁の後ろから、オークナイトに向かって魔装弾式小銃を連射する。至近距離から撃ち出された弾丸は魔法で強化されたオークナイトの防御を貫通し、肉に食い込む。その猛攻にオークナイトはたまらず防御姿勢を取るものの、致命傷には程遠い。


 その間に、もう1体が巨大なメイスで僧侶の防御壁を破壊した。再び振り上げられるメイスの脅威を前に、僧侶は最終手段である神聖干渉『絶対防御圏』(インバイオラビリティ)を発動させる。


 神聖干渉は自身の存在力を捧げる事により、より直接的に神の力を現世に顕現させる奇蹟である。捧げられた存在力は自然回復せず、存在力が尽きてしまえば文字通り存在が消えてしまう。それだけに、神聖干渉による奇蹟は真に神の力の顕現であり、僧侶にとってまさに最後の手段と言えた。


 上級冒険者のパーティを金色に輝く半透明の障壁が包み込み、オークナイトの巨大なメイスの一撃をいとも簡単に弾き返す。

 しかし、上級冒険者とはいえ僧侶は司祭レベルであり、存在力を捧げて障壁を維持できるのはせいぜい10分が限界である。3体のオークナイトに囲まれた現状が依然として危機的状況なのは変わらない。


 そんな僧侶の目の前で、障壁にメイスを弾かれ体勢を崩したオークナイトの脇腹に、ランスチャージが深々と突き刺さった。黒いブリガンダインに身を包んだ隻眼の特級冒険者マーティンが、隊商に向かったオークナイトを屠り、こちらへ加勢に駆け付けたのだ。


 オークナイトを貫通した槍は、金剛鋼アダマンタイト製の穂先に鋼鉄製の柄が付いた豪槍で、柄の部分には細かい返しがついており、容易に抜くことはできない。オークナイトの再生力がどれほど優れていようと、槍が刺さったままでは傷はふさがらない。


「次!」


 そう叫びつつ、マーティンは刺さった槍をそのまま手放し、重戦士と剣士が弱らせたオークナイトへと馬を駆る。その後ろでは、オークナイトに刺さった槍が時限式の爆炎魔法で破裂し、オークの内臓を破壊する。さしものオークナイトも、心臓と肺を同時に爆砕されては生きていられない。体中の穴から炎を吹き出しつつ、仰向けに倒れ絶命した。


 爆発音に振り向いたオークナイトの頭は、重戦士と剣士の猛攻により片膝をついていた事もあり、マーティンがメイスを叩き込むのに丁度いい位置にあった。特級冒険者の身体強化された膂力と騎馬の突進力を乗せてクリーンヒットしたメイスはオークナイトの兜をひしゃげさせ、中の頭蓋を陥没させ、さらに中の脳みそを激しく揺さぶった。

 白目をむいて倒れたオークナイトに重戦士と剣士がとどめを刺す。


 マーティンは馬を止める事なく、そのまま銃士が足止めしているオークナイトへ向うものの、投げつけられた物体によって行く手を阻まれる。

 上級戦士と思われるその物体は、マーティンの前を通り過ぎ、『絶対防御圏』(インバイオラビリティ)に激突して盛大に血と体液と糞尿の混じった肉片を飛び散らせ、鎧の混じった肉塊と化して地面にしたたり落ちた。


 マーティンが上級戦士の飛んで来た方を見やると、身長3メートルはあろうかというオークキャプテンが片方の手に女魔法使いを握ったまま、こちらを見てニヤニヤと笑っていた。足元には両手両足を折られているらしき女戦士がうずくまっている。


「くそっ、本命のお出ましか!」


 マーティンは忌々しげに呟きながら、もう一つの上級冒険者パーティが壊滅した事を悟る。オークキャプテンの挙動に注意しつつ内部拡張収納袋(マジックバッグ)にメイスをしまうと、携帯している最後の1本となる時限爆発式金剛槍を取り出した。高価な装備のため、隊商全体でも10本しか用意していなかったが、これがなければオークナイトを倒すのにもっと時間がかかっていただろう。


 一方のオークキャプテンは、マーティンの様子を全く気に留める事無く、女戦士と女魔法使いをオークウォリアーに引き渡している。戦利品として持ち帰るのだろう。

 それが油断か余裕か判断しかねるも、ままよとマーティンはランスチャージを仕掛ける。オークキャプテンの周りのウォリアー達はあわてて離れて行くが、キャプテンは余裕の表情でマーティンを見据えたままだ。


 攻撃の瞬間、マーティンは奥の手である左目の義眼『緊縛の呪眼』を発動する。ほんの一瞬ではあるが強力な麻痺効果を発する魔法具である。しかしオークキャプテンはあっさりと抵抗レジストし、無造作に槍の柄を掴みランスチャージを止めた。


 マーティンは即座に槍から手を放し、オークキャプテンの横をすりぬけようとするも、キャプテンは掴んだ槍を振り回し馬ごとマーティンを打ち据える。

 攻撃を予想していたマーティンは盾で槍を受けつつ自分も横へ飛び、少しでも威力を受け流そうとするが、ほとんど腕力のみで振るわれた槍の柄はマーティンの強化された盾を腕ごと砕き、柄自身もへし折れながらマーティンの体を痛打した。


 20メートル程弾き飛ばされたマーティンは、さらに10メートル以上転がってようやく停止した。強化された鎧によって致命傷は免れたものの、衝撃による内臓へのダメージは深刻で、激しく吐血する。

 特級冒険者のマーティンだからこそ、この程度のダメージで収まっているが、上級冒険者ならば即死していてもおかしくない威力であった。並みの冒険者ならば跡形もなく爆散していただろう。


 マーティンは震える片手で腰の雑嚢から回復薬を取出し飲み下すと、剣を構え立ち上がる。しかしその目の前には、無情にもオークキャプテンの巨大な拳がうなりを上げて迫っていた。

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