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不吉な知らせ

 空中で『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』を投げ飛ばしたナナシは、皆さまお馴染みの拳を打ちつけるポーズで着地した。もはや慣れたものである。


 新品の服を着たレジオナがトコトコと駆け寄り、ポケットから取り出した翻訳魔道具をナナシに渡してふにゃふにゃと労をねぎらう。


「ナナシたんおつかれ~。いや~、『防御壁(プロテクション)』ってつかんで投げられるんだね~。初めて知ったよ~!」

「さっきエネルギー生命体が云々って言ってたから、魔法もエネルギーなら掴めるのかなってやってみたら出来たよ!」


 拳を握って嬉しそうに答えるナナシにレジオナが拍手する。褒めて伸ばすタイプである。


「ところで、さっきのエルフは?」


 ナナシの問いかけに逡巡するレジオナ。ままよと話せる部分だけ正直に話す事にした。


「アレは~、私たちが捕まえて~~う~~あ~~、……魔王のとこにおくりました!」


 結局面倒くさくなって魔王の事を言ってしまう。何事も正直が一番である。


「魔王!? あ~、なんだっけ、エンドローザ―? えっ、じゃあレジオナは魔王の手下で、放逐(ほうちく)されたオークキングに捕まってた?」

「魔王のてしたじゃないんだにゃ~。なんていうか、ちょっとフシギないそうろう~? いやいや食客(しょっかく)ですしょっかく~!!」


 カッコよさ気に言い換えてみても居候は居候である。


「そういえばさっき転生恩寵の事を知ってたし、もしかしてレジオナも……」


 ナナシの指摘に、両手をバツの字に組んで首を振るレジオナ。


「ナナシたん! そこから先は禁則事項ですっ。ま~転生者だけどさ~、女の子には色々ひみつがあるんだにゃ~。みんなにはナイショ! ナイショだよ!」

「でも魔王って人間と敵対してるんじゃ?」

「ナナシたんはさ~、まだこの世界に生まれて5日目くらいだから知らないのはしょうがないけど~、魔族とヒューマンにはいろんな歴史があんのよね~」

「単純な善悪じゃ無い?」

「まあね~、前世でもあったでしょ~先住民族のはくがいとかさ~。っていうか、あんまりどっちにも肩入れしたくないんだよね~。私たち基本ノンポリだし~」


 レジオナの言葉に、腕組みをして考え込むナナシ。オークとして生まれてしまった自分はどちらの立場に立つべきなのか。判断しようにもあまりにこの世界の事を知らなさすぎた。


 悩むナナシにレジオナがふにゃふにゃと笑いかける。


「あはは、ナナシたんまだ悩むにははやすぎるんよ~。だって~生まれて5日ってまだあかちゃんじゃん! おまたもまるだしだしさ~」

「あっ!」


 レジオナの指摘に慌てて股間を隠すナナシ。スパイダーシルクのふんどしは雷撃で黒焦げ状態である。


「あ~んなこうきゅうひんはさすがに持ってないけど~。あったあった、キャ~ラ~グッ~ズ~」


 ポケットからいつもの調子で反物を取り出すレジオナ。それは藍色の綿織物で、『Gファイ! ドライフィーア』の主人公ゴーレム獣王丸とヒロインゴーレム椿姫が様々なポーズで白く染め抜かれたキャラクター商品用の生地であった。


「見本用にもらってたんよ~。綿だけどがまんしてね~」


 にこにこと差し出される生地に、ナナシも嫌とは言えない。いかついオークがキャラクター商品のふんどしを締めているのも中々シュールではあるが、凶悪なものをぶらつかせているよりはましだろう。


「あっ、獲物……」


 ふんどしを締めなおして、ひと息ついたナナシが重要なことを思い出す。まだ日は高いとはいえ、あんな事があった以上は一旦皆の所に戻るべきだろう。手ぶらなのは仕方がない。


「う~ん、今夜はいそがしくなりそうだし~、魔王城(仮)からかっぱらってくるよ~」


 ナナシの頭によじ登ったレジオナが胸を叩いて請け負う。


「魔王城から……大丈夫なのそれ?」

「ふふっ、魔王城(仮)で私たちを阻めるものなどそうそういないんよ! もうすぐ魔王もでかけるし~。怪盗レジオナに盗めぬものはないんだにゃ~!」

「全っ然大丈夫じゃないよねそれ。っていうか、今から魔王城へ?」

「私たちはね~どこにでもいるしどこにもいないんよ! いや、どこにもいないってのはウソだけど~」

「そういえば、さっきも空からふたりいたのがちらっと見えたような」

「ナナシたん目がいい! ムダに!」


 そんな他愛もない会話を交わしつつ、ナナシとレジオナは皆の待つ野営地へ帰るのだった。


     ◆◆◆◆◆


 レジオナがポケットから取り出した(ミーグ)の腿枝肉の塊は、マドレーヌによってナナシ用の超厚切りステーキ数十枚とレジオナご要望のチーズインハンバーグへと調理された。

 チーズの伸び具合を競い合いながらの夕食も終わり、空が夕焼けに染まる頃、レジオナがふにゃふにゃと重大発言をする。


「あのさ~、とある筋からのじょうほうなんだけど~、今夜ね~死霊王(リッチ)のぐんだんがぶりゅっけしゅたっとを襲うんだってさ~」


 両手の人差し指をこめかみに当て、難しい顔をして何かを受信しているようなそぶりのレジオナに、キーラが真剣な表情で聞く。


「どこ情報か知らねえけど、その死霊王は今どの辺にいるんだ? まさかもう町を襲ってんじゃねーだろうな」

「いまはね~大森林を抜けて~だーぬびうす川沿いをぶりゅっけしゅたっとに向けて曲がったとこだって~。深夜から明け方に向けてまちにとうちゃくするもよう~」

「大森林を抜けてだと? まさか……神殿跡に埋葬した遺体にちょっかい出してねーだろうな」

「う~ん、それがね~すけるとんうぉりあーの材料にされちゃったみたい~」


 夕暮れの野営地に甲高い金属音が響く。キーラの左手の中で鋼鉄製のマグカップがひしゃげていた。普段は食器の扱いに厳しいマドレーヌも黙って自分のカップに視線を落したままである。


 キーラが怒りに表情を歪め、絞り出すように言う。


「クソが……ウチらで止めるぞ。仲間の体をぶっ壊すなんてつらい真似は、ウチらだけで十分だ」

「学問としての死霊術の知識体系は重要だけど、仲間の体で実践されるとムカつくわねえ」


 モニカもそう言うとカップの中身を飲み干す。腰に差した魔法戦用回転式短杖(リボルビングワンド)のシリンダーに込められた魔晶石をチェックすると、予備シリンダーに魔晶石を込め始める。


 フリーダは、ナナシのふんどしの残骸から回収したスパイダーシルクの切れ端でバンダナを縫いながらため息をつく。


「大森林にオークだの死霊王だのが我が物顔でのさばってたの、エルフにも責任があるわよねえ。自分たちの庭くらいちゃんと管理しないと」


 マドレーヌが料理神の加護である『食糧庫(パントリー)』から金属製の水筒を4本取り出す。2リットル入りのその水筒にまとめて料理神の祝福である『浄化』をかけると、中の水は聖水へと変化した。


「死霊相手ならちっとは効果があんだろうさ。皇帝の分はモニカが持っていきな」


 そう言ってマドレーヌが水筒を配っていく。受け取ったフリーダが縫い上げたバンダナを聖水で洗おうか本気で迷っていると、マドレーヌに後頭部をはたかれた。


「聖水で洗いたきゃ死霊王を倒してからにしな! 残ってたら好きに使えばいいさね」


 フリーダはバンダナを大切に畳むと、戦いで破れたり無くしたりしないようマドレーヌに預ける。


 ナナシはレジオナから鬼切玉宿を受け取ると、鞘についたベルトを肩から斜め掛けにして背負った。それを見たキーラがナナシに助言する。


「スケルトン系の相手にゃ斬撃より粉砕の方が効果あっからよ、棍棒とか鎚矛(メイス)がありゃあそっちの方がいいな。まあ、おめーのパワーなら関係ねえ気もすっけど」


 それを聞いてレジオナがポケットから何やら武器を取り出す。


「ト~ゲ~バッ~ト~!」


 ポケットから出て来たそれは、全長3メートルの鋼鉄製のバットの表面にトゲが無数に生えているという凶悪な代物だった。野球協会(ギルド)に飾られている、三本のバットに球を組み合わせたディスプレイの試作品である。この世界の野球がどれほど凶悪かうかがい知れよう。


 なお実際の試合では魔力を通しやすい素材で出来た普通のバットが主流であり、トゲバットは乱闘以外で使用される事はない。


 その雄々しくそそり立つバットにキーラの目が輝く。


「おいレジオナ! あんだろヒューマン用のも! ほら、早く!」

「も~、キーラちん私たちがなんでも持ってると思ってるよね~。ま~あるけどさ~」


 そう言ってレジオナがポケットから鋼鉄製のトゲバットを取り出す。長さ85センチの乱闘用だ。


 キーラはそれを受け取ると、左手1本で数回素振りをする。最後に手首だけでくるくるとバットを振り回し、すとんと肩口に乗せた。トゲは先端から3分の2あたりまで生えており、肩に担いで構える分には問題ないように出来ている。


「よーし、ちょっくら借りとくぜ。壊れたら後で弁償すっから」

「いいよいいよ~、あげるからさ~、私たちの分までぶん殴ってきてね~」

「ああ、まかせとけ。死霊王の野郎ボッコボコにしてやるからな!」


 全員の準備が整ったのを見て、ナナシが言う。


「それじゃあ、行ってきます」


 トゲバットを右肩に担いだナナシの左腕と肩にそれぞれモニカとキーラが座り、フリーダは走るナナシの横を飛んで追従する。


「朝飯までには帰るんだよ!」


 マドレーヌの声にキーラが片手をあげて答える。レジオナも両手をぶんぶんと振って出撃する4人を見送るのであった。

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