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魔王領

 森の中から断続的に漏れる閃光に、最初に気付いたのはフリーダだった。


「なにあれ、『雷撃』にしては強すぎる……」


 その声に森を見やったキーラが叫ぶ。


「あんのクソエルフ! ナナシがひとりになるのを狙ってやがったな!」


 モニカも悔しそうに頭を抱える。


「原初のオークの対魔法戦! 興味深い! なんで目の前でやってくれないの!」

「おめーはそういうトコだぞ! しかし今からじゃどっちみち間に合わねえか……まあナナシなら大丈夫とは思うけどよ」


 モニカに突っ込みつつ、森の方を心配そうに見つめるキーラ。


 光がやみ、しばらくすると森の上空に奇妙な球が浮かび上がった。上空1000メートルに浮かぶその球は、肉眼ではほんの点にしか見えないが、強烈な存在感を放っている。


 その球をメガネの望遠機能で観察していたモニカは驚愕の声を上げる。


「あれはまさか『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』! ろっ録画録画!」


 不穏な呪文名にキーラが聞き返す。


「なんだそりゃ、ヤバい魔法なのか?」


 青ざめた表情で振り返ったフリーダが、録画に集中して周りが見えなくなっているモニカに代わって答える。


「半径10キロが吹っ飛ぶ魔法よ。今すぐ逃げないと」

「ぶっ!? マジかよ!」


 思わず鼻水を吹き出したキーラがフリーダの顔を見つめる。


「私、転移魔法は使えないの。誰か神聖干渉の『絶対防御圏』使えない?」

「ありゃあ戦闘系の神じゃねえと使えないだろ。ここにいるのは知識の女神の大司教と料理の女神の司祭様だけだしな」

「じゃあもう『飛行』で少しでも距離を稼ぐしか……」


 フリーダが今すぐ『飛行』を使い風の精霊の助けを借りれば、自分ひとりなら助かるかもしれない。しかし確実に寝覚めは悪くなるだろう。


 フリーダはそこにいる3人の女を見渡し逡巡する。


 転移魔法は予めアンカーとなる転移先を設定しておかなければならない。さらに魔法陣が完全な状態で保存され、魔法陣の上に邪魔物が置かれない状態でなければ、転移が受け入れられなかったり「石の中にいる!」状態に陥る可能性が出てしまう。ゆえに転移先は厳重に秘匿され、維持管理にも相応の手間がかかってしまう。


 風来坊のフリーダはそんな面倒なものを設置する気にはなれなかったが、保険とはこういう時のためにかけるのだという事を今こそ実感していた。私エルフの里に帰ったらアンカー設置するんだ。そんな台詞がフリーダの頭に去来する。


 一方モニカは、人類初となる『反物質(アンチマター)召喚爆破(エクスプロージョン)』の発動を何とかして『虚空録』に保存すべく、通常は禁忌とされている『虚空録』への直接録画を試みていた。


 直接録画は閲覧設定ができないため、この映像は後々大きな問題を引き起こす事になるだろう。だが知った事か。

 知識の女神の信徒として、死ぬ前にこの映像を残すのは義務である。『高速演算』を使いメガネの最大望遠で拡大した映像を、メガネの視覚拡張機能でエネルギーの流れまで録画しつつ『虚空録』へと記録してゆく。


 『並列思考』も使用して右目の映像は通常録画、左目の映像はエネルギーの流れ付きと、知識の女神の大司教の面目躍如といえる、至れり尽くせりの記録映像であった。


「ま~、戦ってんのがナナシなら、なんとかするんじゃねえの。ものすごい『雷撃』で倒せなかったからあんなの使うんだろうしな」


 キーラはそう言っておやつの細切り揚げ芋(フライドポテト)を食べながら、遠すぎて点にしか見えないその魔法を凝視する。


「ほら、みろ」


 森から飛び出した緑色の点が魔法球に近づいてゆくのを見て、キーラが嬉しそうに言う。


 4人が見守る中、ナナシは跳躍した勢いのまま魔法球を引っ掴むと、それを太陽めがけて全力で投げ飛ばすのであった。


     ◆◆◆◆◆


 中央大陸の最西端には、龍が座った形の半島が伸びている。魔族や亜人が支配し、魔物が跋扈(ばっこ)するこの地域を、西方諸国は恐怖と敵意を込めて魔王領と呼んでいた。


 この半島、元々は独立した島であった。


 今より3千年前、中央大陸の西端に住んでいた魔族が人間による侵攻を受けた。劣勢となった魔族は大陸を追われ、人間の手が及んでいないルビオナ島へ逃げ出す事となる。


 しかし、冬の海は波も荒く、全ての魔族や亜人が乗り込めるほどの船もない。そこで一計を案じた当時の魔王種一族は、大規模な魔法(一説には集団神聖干渉とも言われている)によって島と大陸を地続きにする。追い詰められていた魔族は、その平原を通って現在の魔王領へと逃げ込んだ。


 そして平原と半島となった島の境に魔王城を築き、辛うじて人間の進行を食い止める事に成功した。以来この半島は魔王領と呼ばれ、人間が踏み入る事の出来ない魔界と認識され現在に至る。


 やがて5百年ほど前、魔王領の中央に新たな魔王城が建築された。


 しかし3千年の間魔族の領域を守り続けてきた最初の魔王城は、今でも魔族から魔王城と言えばここであると認識されている。そのため新しい魔王城は魔王城別館とか魔王城(仮)(カッコカリ)とか呼ばれる始末であった。


 その魔王城(仮)に併設されている演習場を魔王ロック・エンドローザーが視察していた。

 16歳にして身長190センチを誇る堂々とした体格。筋骨隆々のその肉体には6つの魔力門が宿っており、魔族からは畏怖を込めて六極(りっきょく)魔王と呼ばれている。


 見た目はヒューマンの男性とそう変わらないが、魔王種の特徴として少し尖った耳と縦に裂けた瞳孔を持っていた。


 その後ろに付き従うのは宰相アビゲイル。青い肌に黒い眼球、金の虹彩、そして尖った耳が特徴のダークエルフである。

 彼女は、演習場で訓練を行っているゴブリン突撃歩兵の状況を魔王に説明していた。


 ゴブリン突撃歩兵はその名の通り、ゴブリンに軽魔装弾式小銃を装備させた突撃部隊である。


 魔装弾式の銃は、確かに強化魔法のかかった金属鎧や盾によって防御されるが、装甲のない場所に当たれば怪我もするし死ぬこともある。ヒューマンの軍はすべての構成員が金属製の全身鎧や盾を装備しているわけではないし、魔術師は『防御壁(プロテクション)』や『風の守り(ウインドウォール)』に頼りがちで防具は薄い事が多い。


 なにより、ヒューマンに比べるとやや小型で非力なゴブリンが、相手と同等の殺傷能力と長いリーチを手に入れられるのは大きい。勇者あたりに切り込まれれば成す術もないだろうが、勇者には勇者用の駒を当てるのが用兵であり、ゴブリン突撃歩兵にはゴブリン突撃歩兵の有効な使い道がある。


 土魔法『落とし穴』によって作られた塹壕から、仲間の援護射撃を受けつつ飛び出してゆくゴブリンの動きを見て、満足そうにうなずく魔王。

 その耳元にふわりと1個の眼球が飛来した。情報官カゲマル・ドドメキの忍法『遠見眼』である。


 眼球は自身を振動させ、ささやくような音で魔王に何事かを告げた。それを聞いた魔王は宰相アビゲイルに振り向くと、険しい表情で言う。


「厄介事だ。城の小会議室に行くぞ」


 魔王は素早く『飛行』の呪文を唱えると城に向かい飛び立つ。同時に宰相アビゲイルも『飛行』で追随する。演習場ではゴブリンサージャントの怒声が響き渡っていた。

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