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煌女革命  作者: あまがみ


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馬鹿な人

 焦げ臭い。息苦しい。すごく熱い。


 ルイシーナは咳込んで目を覚ました。霞む目をこすり、辺りを確認して驚愕する。


「火事!?」


 目の前が明るい赤と黄色の光に焼かれていた。


 ルイシーナは急いで立ち上がり、ごうごうと燃え盛る部屋から離れた。どうやら自分の部屋が火元のようだ。廊下には真っ黒な煙が立ち込めている。


 逃げなければ。ルイシーナは廊下の壁を伝って時々せき込みながら歩いていった。しかし、ふとアデライアはどうしたのかと思い至った。もし火元の部屋にいるのならば、助け出さねばならない。ルイシーナはアデライアの無事を確認しようと、自身の部屋へ戻るために踵を返した。


 しかし、床に転がって咳込んでしまった。


 胸が苦しい。身体が熱い。


 辛かったけれど、愛する妹が息絶える方が辛かった。ルイシーナは床を這って、なんとか部屋へ向かおうとした。けれど、だんだん咳もひどくなって、身体が痛くなってきて、床に転がったまま動けなくなってしまった。


 このまま死んでしまうかもしれないと思った。しかしルイシーナは自分の死など怖ろしくなかった。怖かったのはアデライアやカルロスやクロエ、それに侍従の皆が死んでしまうことで、どうか自分が天に召される代わりに皆は助けてくださいと願うばかりだった。


 そんなルイシーナの身体を、何者かが包み込んだ。重たかった身体が浮き上がり、ふわふわと宙を揺蕩っているような感覚がする。


 ルイシーナはついに命が絶えて最後に美しい夢を見ているのかと思った。


「ルイシーナッ! お願いだ死なないでくれ。僕を置いていくなっ!」


 愛しい人の声もする。いよいよだ。


「ルイシーナ! 目を開けてくれ。嫌だ。嫌だ!」


 また我儘を言っている。子どものように駄々をこねて、嫌だと言ってルイシーナを困らせる。それでも嫌いになれないのは、彼のことを愛しているからだろう。


「泣かないで……ベルナルド」


 小さな小さな呟きが口から洩れた。


「あぁっルイシーナッ!」


 張り付いていた目を開けると涙でぐちゃぐちゃになった顔をした、愛する人がいた。


 ルイシーナは唐突に理解した。これは現実だ。ベルナルドが目の前にいる。


「……戻って来るなんてしょうのない人」


「僕の居場所は君だ」


 ベルナルドはきつくルイシーナを抱きしめた。


 まだしっかりと冴えない頭で辺りを見回して状況を把握する。


 いつの間にか庭に出ていた。ベルナルドの背中が赤く燃え、闇とは違った黒い煙が登っているのが見えた。


「お父様やお母様……アデライアやみんなは?」


「みんな無事だよ。アデライアは飛び出して逃げて行くところを侍従が見ている。君が最後だったんだ」


「そう。良かった。みんな無事で本当に良かった」


 ルイシーナのこめかみを一筋の涙が横切った。本当に誰一人欠けることなく助かったことが嬉しかった。


 ベルナルドは再びルイシーナを抱え直し、庭で一番大きな木の下に連れて行ってくれた。そこにはカルロスやクロエ、侍従のみんながいて、ベルナルドが身体を木に寄りかからせてくれると全員がルイシーナの名を呼んで取り囲んだ。


「ありがとう、ありがとう」


 カルロスは涙を流してベルナルドを抱きしめた。クロエはルイシーナの手を握って嗚咽を漏らした。


 深く息を吸い込むと頭に鈍痛がしたけれど、おかげで意識ははっきりした。


 ルイシーナは燃える屋敷を見つめた。


 闇の中で煌々と燃える屋敷。大きな音がするたびに形が崩れ、焼け落ちていく。


 不思議と喪失感は無かった。紅と橙の入り混じった美しい炎が全てを焼き払って、煙と共に天へ昇らせている。どうしてか全ての罪が洗われたような気分だった。


「ルイシーナ」


 ベルナルドが傍らに膝をついた。


「君がいない人生なんて考えられない。何でもいいから、君の傍にいさせてくれ。君が死ぬ時は僕も連れて行ってくれ」


 なんて、馬鹿な人なんだろう。こんな馬鹿なことを言い、燃え盛る屋内に飛び込んで戻って来るような人を、放っておけるだろうか。


「……おいで」


 伸ばした腕の中にベルナルドが収まった。


「わたくしの、傍にいて。ずっとよ」


 ベルナルドは何度も返事をした。


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