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煌女革命  作者: あまがみ


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臙脂の封筒 2

「逢う約束なんて一度もしていないわ」


「フェリペ殿下の字で、『この間は楽しかった。ありがとう。今度は君をもっと楽しいお茶会へ招待するよ』って書いてあるのに?」


 そういえばフェリペが最後にお礼の話をしていたことを思い出す。


「誤解よ。偶然会った時に偶然殿下をお助けすることになって、そのお礼を……」


「最後にはご丁寧に『エストイ ペンサンド エン ティ』って書いてあるのよ? ただのお礼なわけがないじゃない。今皇室でどういう話が持ち上がっているか知っている? 姉さんを、奇跡の煌女ルイシーナをフェリペ殿下の三番目の妻にって言われているのよ。そこにきて姉さんが殿下主催のお茶会になんか出たらもう確定じゃない」


「どうしてそんなことになっているの? だって、三番目の妻は貴方でしょう?」


「そうよ。私よ。それがどうして姉さんになっているのよ!?」


「そんなことを言われてもわたくしには分からないわ。殿下と話した時は……」


「殿下と何を話したの?」


 アデライアの声が低くなり、ルイシーナは心臓を掴まれたような心地がした。


「……殿下がアディの【光】はわたくしに共鳴している【光】だと、秘密を知っておいでだったの。それで皆を騙していた【光】を持たないアディとの結婚を皇帝陛下が認めてくれないかもしれないとおっしゃったから、わたくしはアディほど殿下に相応しい人はいないと……」


 しどろもどろになりながら言うと、アデライアは目を吊り上げた。


「殿下が私たちの秘密を知っていたですって!? なんで!? どうして!?」


「ア、アディが話したのではないの?」


「私が話すわけがないでしょう! 殿下は私の【光】に釣られてやってきたんだから! ちったぶん、殿下は姉さんに鎌をかけたのね。私が光を見せて欲しいという殿下のお願いを何度も断っていたから不審がって……。馬鹿な姉さんはまんまと引っかかったんだわ」


「そんな」


 いかにも全てを知っているようにフェリペが言うものだから、アデライアが秘密を話したのだとばかり思っていた。


 真っ青になったルイシーナにアデライアは壮大な溜息を吐いた。


「どうして姉さんってそうなの? すぐ騙される。どうしておかしいって思わなかったのよ。どうして疑うことを知らないの?」


「ごめんなさいアディ。わたくし、全然気がつかなくて」


「最悪だわ。だから私ではなく姉さんとの結婚の話が持ち出されているのね。私から姉さんに乗り換えるつもりなんだわ」


「殿下はわたくしなんか愛していらっしゃらないのにどうして? アディを愛していらっしゃるのでしょう?」


「殿下は私を愛しているのではなく、私の【光】を手に入れたがっているだけなのよ。この歳まで【光】を持ち続ける煌女にはそれだけの価値があるってこと。まぁ私も殿下の地位とお金しか見ていないのだけれどね」


「えぇ? そんな。愛し合っていないのに結婚をするの? そんなのおかしいのではない? だって、結婚は愛する者同士がするものでしょう? お金や地位のために結婚をするなんておかしいわ」


「おかしくなんてない。世の中ってそういうものよ姉さん。本当、姉さんってどうしてそんなに夢ばかり見ているの?」


「夢なんかじゃないわ。だって、勿体ないじゃないアディ。アディのように素敵な子がお金や地位のために大事な愛を犠牲にするなんて。お金や地位なんて、今のままでも充分でしょう? お金があったって地位があったって手に入らないもの、それが愛だわ。結婚はそれを手に入れるためのものでしょう? だから……」


「綺麗事ばかり言うんじゃないわよ!」


 突然アデライアがテーブルを叩き、怒号を響かせたのでルイシーナは目を見開いた。瓶が揺れて音を立て、グラスが倒れてワインが零れた。


「ちっぽけな男爵家なんてお金も地位も足りないのよ! 私が社交界で何て言われていたと思う? 『卑しい身分の成り上がり』『どれだけ着飾ってもみすぼらしさが消えない』『いくら煌女でも平民じゃ』【光】があっても爵位を買ってもいくら容姿を整えても! 誰も私を受け入れてくれなかったのよ!」


 ルイシーナは頭を殴られたような気分になった。


 知らなかった。アデライアは煌びやかな世界でちやほやされているとばかり思っていた。毎日楽しそうに社交界に出かけて早朝に帰って来ていたから、そんなにひどい仕打ちを受けていたとは想像もしていなかった。


「世間知らずが私の人生に口を挟まないで。いい? 人の世を動かしているのは権力を持った人でありお金なのよ。お金がなければ門前払い。地位が無ければ門前払い。どちらかがあれば等しく相手にされる。どちらもあれば何でも手に入る。美味しいものも、大きなお家も、綺麗なドレスやアクセサリーも、良い男も友達も自由な時間も何もかも全部!」


 大きな声で主張するアデライアの言い分は、悲しいことに一理ある。


 金が無ければ一生知りえなかった生活があることを、すでにルイシーナも実感している。子どもの頃のルイシーナは父の仕事を手伝って、母と共に服を仕立てていた、どこにでもいる平民の子だった。しかし【光】を取り戻し、父が爵位を賜ってから得た生活は別世界だった。夏の暑い中、服を汗で汚さないよう仕立てることもなく、冬に冷たい水を触って手が痛くなることもなかった。味のない飯を食うこともなくなり、草臥れた家で固いベッドに寝そべることもなくなった。付き合う人間も変化した。お金があるだけでこんなにも世界が変わるのかと驚いたものだ。


 しかし、それだけの実感があっても、ルイシーナにとっては取るに足らないことだった。地位やお金が突然無くなったとしても、ルイシーナはあぁそうかと片付けられるのである。


 金で手に入れたものが真実価値のあるものかどうかという問いには、人の分だけ答えがある。それは本人が決めることで、本人が満足していれば確かにその価値は本物だ。


 だからルイシーナはアデライアに問うた。


「そうねアデライア。貴方の言う通りかもしれないわ。でもねアデライア。よく考えてみてちょうだい。貴方、美味しい物をどれだけ食べても不満気で、大きな家になっても家にいるのは退屈だからと飛び出して、ドレスやアクセサリーは使い捨てでしょう。それに、子どもの頃は頻繁に親しいお友達をお家に招いていたのに、この屋敷に移ってからは一度もそんなお友達はいなかった。一体どうして?」


 アデライアはぐっと喉をつかえさせた。


「そ、それは、食べたいものも欲しいものもいっぱいあるから。私を蔑む奴等なんかと友達になんてなれないから……」


「そう。満足できていないのでしょう? どんなにお金を持っていても、どんなに物に溢れていても、心が満たされていないのよ。貴方はずっと飢えている。それが本当の卑しさよアデライア」


「うっうるさいうるさいうるさい! なんでっ!? 姉さんはいつもそう! 見透かしたような目で私を見下して! すぐに何でも知ったかぶって! ……いつも幸せそうで。昔からそういうところが嫌いだったのよ!」


 アデライアはワイン瓶を鷲掴むと躊躇いなくルイシーナの頭めがけて振り下ろした。


 頭を中心に背中まで凄まじい衝撃が走り、ルイシーナは地面に倒れ込んだ。


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