母親
翌日、ルイシーナは「アデライアお嬢様がいらっしゃいません!」と騒ぐ侍従たちの声で目を醒ました。
事情を知るルイシーナは冷静にベッドから起き上がり、ショールを羽織って部屋の外へ出た。
廊下を忙しなく行き来する使用人たちを尻目に家族の姿を探していつものサロンに向かった。
「お前がしっかり躾けておかなかったからだ!」
サロンにはやはり皆が集まっており、カルロスが床に突っ伏しているクロエを怒鳴っていた。
ルイシーナは恐ろしくて足がすくんで動けなくなってしまった。
情けない。勇気を振り絞って行くのよルイシーナ。そう自分に訴え続けるけれど、身体はサロンに入る手前で止まったまま動いてくれなかった。
カルロスが怒鳴るのを止めた頃合いを見計らって、ようやっとシーナは部屋に飛び込んでクロエの傍に跪いた。クロエは涙に濡れた顔を上げ、瞳の中にルイシーナを捕らえると、ルイシーナに覆い被さってきた。
「お前は絶対に此処から出て行かないで! 恋人を作ることは絶対に許しませんからね!」
鬼気迫る表情でルイシーナの腕を力いっぱい掴み、逃がすまいとする。
ルイシーナは腕だけでなく、心臓を鷲掴みにされた気分だった。
「貴方には私が、家族がいる。それで充分でしょう」
耳元で嗚咽を漏らし、恥ずかしげもなく涙を流すクロエ。ルイシーナはクロエの背を抱いて、天を見つめながら考えた。
家族がいれば充分。そうかもしれない。己を愛してくれている家族をルイシーナも愛していた。愛する人がそれを望むなら、愛する人がそれで幸せなら、喜んでそうするべきだろう。
クロエはいつも家族のことを想い、行動する素晴らしい母親だ。その母親がそうしろというのだから、家族を守るためにはそうするのが一番なのだろう。
ルイシーナはアデライアのように、己のために家族を捨てられなかった。
だって、こうして縋り、むせび泣く母を、娘が捨てられるものか。




