第四話
”地域の分散”を会得していた全世界共通インデックスの完膚ならびに還付なきまでの敗北。
それを目の当たりにして周囲の者達が呆然とする中、この場までついてきたなろうユーザーのギャルがへたり込みながら涙目で呟く。
「あ、あーしのせいだ……あーしがあの夜に、考えなしでオッサンに”自作語り”をしちゃったから、こんなことになったんだ……!!」
少女の顔に、後悔の表情が色濃く浮かび上がる。
それとは対象的に、世界の創造主となった男は自身の勝利を確信したかのようにより一層まばゆき光を放ち始めていく――。
『クハハハハハッ!!これで我が自作語りという覇道を止められる存在はいなくなった!……そうだ。我こそが、名実ともに真の”世界の根幹に到達する者”となったのだッ!!』
寿ぐように新たな名乗りを上げんとするタケノリ。
……このままどうすることも出来ずに、ただ世界のすべてがこの男ただ一人の創作物として取り込まれていくしかないのか。
誰しもがそう諦めかけていた――そのときだった。
「……残念ながら、そうはいかないよ。――何故なら、ここに探偵である僕がいる以上、事件の犯人である君が望む結末に到達することなんて未来永劫あり得ないからね……!!」
”名探偵・闇の堕とし子合衆国”。
その名に相応しい――けれど、子供とは思えないほどの堂々とした威容とともに、少年探偵であるエリオットがタケノリに対峙する。
すでに人の身を超越したタケノリの全長は既に遥か高くまで巨大化しており、エリオット少年がどれだけ優れた観察眼や推理力を誇っていたとしても、それらを発揮する間もなく無残に押しつぶされてしまったとしてもおかしくはないのである。
にも関わらず、エリオットは不敵な笑みを浮かべながら、挑発するかのようにタケノリへと人差し指を向ける。
「――佐々木場 竹則。アンタは”世界の根幹に到達する者”なんかじゃない。……どこまで行こうとも、今のアンタは”自作語り”に魅入られてしまっただけの悲しき虜囚に過ぎないんだ……!!」
『――ッ!?こ、この全てを超越し、神の視点で森羅万象を語る座にまで到達した我が、この我が!虜囚……罪人に過ぎぬだとッッ!!!!』
既に姿かたちも能力も人の身からとうにかけ離れているにも関わらず、誰の目から見ても明らかなほどに激昂する猛き祝詞を紡ぐ者。
空間そのものを震わせるほどの強烈な怒りの感情を前に、皆が天災を前に怯え竦む中、それでもエリオットは意思を曲げることなく鋭き視線で相手を射抜く。
「深層領域に到達したところで、しょせんアンタはそれらの表層上をなぞっているだけに過ぎない。――どれだけ大層な力を手に入れても、アンタが見ようともせずに目を背け続けてきた罪と罰、その真実をここに語ろう……!!」
そう言うや否や、エリオットの指先が超新星の如く強烈な光を放ち始めていく――!!
「凄い、あまりにも桁違いなエネルギーの塊じゃない……!!――ッ!?まさか、アレがエリオット君の”推理力”を凝縮したものだっていうの!?」
名探偵ほどではないにせよ、なろうユーザー特有の優れた洞察力を発揮するギャル。
そんな彼女の発言を受けた瞬間、周囲が盛大にざわめき始める。
「――マ、マジかよ!?だとすれば、アイツの推理力は世界の深層を見通せるほどの域に到達してるってことじゃねぇか!!」
「~~~ッ!!い、粋~~~ッ!!あまりにも粋な試み過ぎて、無事に生還出来たら回らないお寿司にレッツゴー不可避♪」
「……不思議でゴワスな。お好み焼きで既にパンパンで苦しいはずなのに、あの光を見てると胸やけもモヤモヤした気持ちもすべて晴れていくようでゴワス……♡」
それまでの絶望一色だったのが嘘であるかのように、夜の街の住人達の顔に生気が戻り、明日への希望を口にし始める。
そんな未来への想いが込められた祝詞を嘲るかのように、猛き祝詞を紡ぐ者が吠える。
『貴様等!自分達がどれほどつまらない夢を見た気になっているのか分かっていないのか!?――この事件の真犯人が我であることも動機も居場所も既にすべて、すべて!証明済みィッッ!!!!……ゆえに、アイツがどれほどの推理力を込めた光を放ってこようと、既に事件のなにもかもが明らかになっている以上はまさに無用の長物、推理のひけらかしなど所詮、昼行燈に過ぎぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!』
そんな創造主である猛き祝詞を紡ぐ者の意思に呼応するかの如く、彼の周囲に浮遊していた多彩なお好み焼きが全て禍々しき殺意と憎悪を帯びていく………。
『……だから、あんなガキの推理などではなく……我によって完成された自作語りを、お前達は心ゆくまで黙って拝聴しておればいいのだ……!!』
……その声音の奥に潜んだものは、一体なんだったのか。
そのような疑問を抱く間すら許さぬほどの高速回転で、数多のお好み焼きがエリオットのもとへと迫る――!!
「~~~坊やッ!!奴が言う通り、悔しいがここまで事件が進んでしまった以上、アンタの”推理力”でどうこうする段階はとうに過ぎているッ!!……その光でお好み焼きを早く撃ち落とすか、付け焼刃でもいいから、”時間の分散”型で致命的満腹を逸らしなッ!!」
唯一、この猛攻に反応できた全世界共通インデックスがパンパンになった腹を抱えながら、エリオットに対処法を叫ぶ。
確かに彼女の言う通りに行動すれば、エリオット自身は何とか助かるかもしれない。
だがエリオットの指先に凝縮した光が”推理力”によって構成されたものである限り、肝心のタケノリ本体には全く通用せず、この状況を打開することは不可能となるのである。
……今度こそ、道は完全に閉ざされてしまった。
そんな言葉が皆の意思を塗り潰そうとしていた――そのときである。
『――ッ!?』
”猛き祝詞を紡ぐ者”という名であるにも関わらず、彼の全身から絶句としか言いようがない驚愕した様子が皆に伝播していく。
それというのも無理はない。
何故なら、エリオットのもとに高速で迫っていた膨大な数のお好み焼きが、一つ残らず撃ち落とされていたからである。
瞬時にエリオットが、指先から光をお好み焼きに向けて放ったのだろうか?
……否。
エリオットの指先には依然として、彼の卓越したひらめきが健在であることを示すかのように、鮮烈な輝きが宿り続けている。
ならば、襲来していたはずの膨大なお好み焼きを撃墜したのは一体……?
「~~~ッ!?な、なんだコレはッ!!」
その答えを示すかのように、この場にいるすべての者達は信じられない光景を目の当たりにする――!!