神さまも世知辛い
「め、んどう」
意表を突かれたような声。
「面倒?メスは良いオスを欲しがるものではないのか?それが本能であろう。それを、面倒?お前、真面目に生きる気は、」
そこまで言って、ああ、と自称神さまは溜め息のような声を出した。
「生きる気があれば、わかっていて毒餌を食べようとしたりしないか」
「そうですね」
そもそも出会いがなかったので選びようもなかった、と言うのもあるけれど。
「なれば面倒でなければ良いのか」
「うん?」
「わしにはまだ番がおらん。お前はわしの番となれば良い。競争はない。浮気もしない」
それはもしや、プロポーズと言うやつなのだろうか。
「そんな突然」
「突然ではない」
幼子がお気に入りのぬいぐるみを抱え込むように、全身でわたしを羽交い締めにして、自称神さまは言う。
「ずっと、見守っていた。いずれ神になり、わしの番になって欲しいと」
背後から、ぐすっ、と洟をすする音が聞こえた。
「お前がいた山は、わしが面倒を見るなかでも、とりわけ実り豊かな山だ。危険な獣もおらず、なに不自由なく暮らせているだろうと思っていた。み、自ら命を断とうとするほど、生に嫌気が差しているなどとは、予想もしておらんかった。なぜ毒餌など食おうとしておるのかと、泡喰って駆けつけてみれば、こんな」
ぐすぐすと洟をすする音と共に、しとしととわたしの後ろ頭が濡れる。洟垂らしてないよね?きちゃないから垂らさないでね?
「えーと、なんか、ごめんなさい?」
自称神さま的にはたぶん、応援していた推しが人気絶好調のなか、前触れもなく突然引退宣言したようなものなのか。それはびっくりするし、裏切られたような気持ちにもなるよね、うん。
「こんなことなら、さっさと捕まえて子飼いにしてやれば良かった。そうすれば、寂しい思いもさせなかった」
まあそれはそうかもね。ここが自称神さまの住まいなら、雨風しのげる立派なお屋敷だし。
「ある程度の霊格も得ずに、子飼いで守られて育って、番として女神になっては、ほかから舐められ馬鹿にされかねんと、心を鬼にして、囲うのを堪えておったのに」
あー、七光りは馬鹿にされるみたいな話か。神さまも世知辛いね。
「ヨソの男神に奪われぬよう、念入りに隠して見守り、ようようここまで育ったのだ。いまさら失ってなるものか」
うん……?なんだか雲行きが……?
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