なぶり殺されるのは毒で死ぬより辛い
※軽度の暴力描写があります
振り向いたところにいたのはやはりヒトガタをしていたが。
「犬の、耳?」
「犬じゃない。山犬だ」
一緒じゃないか。
「一緒じゃない。犬は畜生だが、山犬は神の御使いだ」
「神さまの、使いなんですか?」
「わしは使いじゃない。この山を統べる犬神だ」
「犬じゃん」
「犬じゃない。山犬の神」
そこで、気付く。
「あれ?言葉が通じている?」
「山犬の神なんだから、山犬の言葉が通じるのは当然だろう」
「わたし、野犬じゃないの?」
「そんな立派な体躯の野犬がいてたまるか。お前は山犬だ」
比較できる生きものがいなかったので気付かなかったけれど、もしやわたし、相当大きいのか?言われてみれば、目の前の自称山犬の神の目線は近い。
なるほど。だからあんなに怖がられたのか。
ふんふんと頷くわたしを、自称神さまが睨み据える。
「お前が喰おうとしていたのは毒餌だ。愚か者」
「ああ、はい。そうですね」
「は?」
毒餌をわざと食べるなんて、傍から見れば愚かの極みだろう。
お叱りも当然と頷けば、自称神さまは眦を吊り上げ鋭い声で疑問符を投げて来た。
「お前、気付いていたのか?あれが毒餌だと」
「え?はい。気付いていました」
自称神さまが、しばし絶句したあと。
「きゃんっ」
無言でわたしの頭をぶん殴った。痛い。
「痛ぁい……なんでぶつんです、ぎゃんっ」
二度もぶった!父さんにもぶたれたことないのに!今世では会ったことないから!
神さまはわなわなと唇を震わせて、もうぶたれたくないと地面にべったりと伏せるわたしを見下ろした。
「おま、この、おっ、毒とわかって!喰おうとする奴がっ、あるか!!この大うつけがっ!!」
蹴りは嫌っ!
上がった足に、あわてて飛びすさる。胡瓜に驚いた猫みたいな動きをしてしまった。
ここは危険だ。逃げよう。なぶり殺されるのは、毒で死ぬよりきっと辛い。
脱兎、と逃げようとしたわたしはしかし、ぐわしと羽交い締めにされて逃亡を失敗した。
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