転生したら野犬でした
我輩は犬である。名前はまだない。
否、生まれる前、前世での名前ならば記憶にあるが、この生での名はない。
気付けば犬で、そして、気付けばひとり、違うか、一匹ぼっちだった。
飼い主もいない山暮らしの犬。前の世界で言うなら、野犬、と言うやつだろうか。
乳を与えられた記憶があるので、親兄弟はいたはずなのだが、いつの間にかいなくなっていた。
ここがどこなのか、前世と同じ世界なのか、わからない。ヒトとの関わりがないから、知りようがないのだ。
ここはあまり、動物のいない山らしい。
仕方がないので、果物や木の実を採って食べている。蜂やら蝶やら見かけたので昆虫はいるようだが、さすがに食べる気にならない。川魚もいるにはいるけれど、寄生虫が怖くて生では食べられなかった。
ふぐりはないので今世もメスのようだ。同種に会わないので、意味があるのかはわからないけれど。
犬の生と言うのは、娯楽のないものだった。
テレビもない。ゲームもない。漫画も小説も、美味しい食事もお酒もない。果物は美味しいけれど、ずっとそればかりでは飽きる。
炊きたてのごはんと、焼いた塩鮭が食べたい。
思えば前世では、食べることがいちばんの楽しみだった。色々な国の色々な美味しい食べ物を、かき集めて自分好みに魔改造する国の国民として、ありとあらゆる食べ物を、玉石混淆のまま食べて楽しんでいた。
実際に食べられない、アニメやゲームや漫画や小説の、食べ物の描写から味を想像するのも好きだった。
けれど野犬では、そんな楽しみはない。
食事と言えば自分で探した果物や木の実。それも生でかじるだけ。犬の口は咀嚼に向かず、落ち着いて味わうことも出来ない。
生きる喜びが、ない。
あるいは同種がそばにいれば、それとも狩る獲物がいれば、違ったのかもしれない。
けれどここに同種はおらず、獲物もいなかった。
わたしは犬の身を持ちながら、犬になりきれず、そして、その生に希望を見出だせなかった。
せめてヒトと関われば、なにか変わるだろうか。
思って山を下りたのは、もしかしたら、殺して欲しかったからかもしれない。
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