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大切で愛しい人。

「今まで彼女に対して冷たくしておいて、都合が良くなったら彼女を妻扱いとはね」


グレン様はニコラ様に近づき、ギロッと強く睨んだ。


「さっきはお前ことを助けたが、彼女のことは別だ。お前は父上、母上のことでも気にして、彼女と離縁してくれ。これ以上、セシリア嬢のことをお前に任せて置けない。僕が彼女を幸せにする」


「悪いが、兄上には彼女を渡せない。セシリアは俺が心から愛した人で、彼女といるときだけ心が安らいだ。アルジャーノ家の家督も、権力も、金も要らない。俺は彼女に傍にいて欲しい」


それは彼の切実な想いと願いにさえ聞こえた。

ニコラ様は不器用で、口が悪くて、いつも言葉が足らなすぎて誤解されてしまう。

だけどいつも彼は私が困った時、手を差し伸べてくれた。

私が実家から妻にと押しかけて来た時も私を受け入れてくれた。


彼の優しさは酷く不器用で見えにくいけれど、私はその優しさを愛しく思ってしまう。

ずっと一緒にいたいと…────。


「ニコラ様…」


気づいたらもう身体が動いていた。

気持ちが先走っていた。

それでも私はそれに従う。


私は彼の手を掴み、嬉しさと切なさが入り混じった顔をしながらニコラ様に自分の想いを伝える。


「私も…あなたのことがずっと好きです」


ニコラ様の目が大きく見開かれる。

私はグレン様に視線を向けて悲しそうな表情をして自分の気持ちを言った。


「グレン様…。申し訳ありません…。私はニコラ様のことを大切に想っているのです」

「セシリア嬢…」


「私とニコラ様の出会いは他の方に比べたら少し変わった出会い方かもしれません。だけど、ニコラ様を一つ、また一つ知る度、私は自分の気づかないところで彼に恋をしていた。私は不器用で優しいニコラ様を愛していて、彼と暮らすあの領地の人々が好きのです。叶うことならずっと一緒にいたい。そう願ってしまうばかりで…」


突然、急にニコラ様に身体を引き寄せられて抱きしめられる。

内心驚きながらも私は顔を上げようとするが、彼は抱きしめる力を強くした。


「全く…俺が言いたいことを全て先に言ってくれるな」


頭長で優しく囁くような声がする。

ニコラ様は私を強く抱き締めたまま言った。


「先程もお前に言ったが俺は全てを失っても良いくらいにお前を愛している。それは裏を返せば二度とお前を離してやることはできないし、俺はしつこいし、執着だってする。それでも良いか?」


「望むところです」


私達は互いの気持ちを確認するように強く抱き締め合った。


そして、ハッと気づき、慌ててニコラ様から離れてグレン様の方に視線を向けた。

だが、そこにはもうすでに彼の姿が無かった。

気を使わせてしまったのかもしれない…。

グレン様は自分の想いを私に伝えてくれた。

なのに、私は彼の答えられなかった。

それは自分に嘘をつくこと。


胸がズキっと痛む。

彼のことを傷つけた私が傷つくのは筋違い。

そんな中、ニコラ様は私に声を掛けた。

「セシリア…」


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