諦めたくない。
調理場の料理長に事情を伝えるべく私は廊下を歩いていた。
当主様が言っていた言葉は理解ができる。
私の実力不足だ。
料理を作り上げた時、私は自分の出来る限りのことをしたのだと思った。
だけど今思えば食べる人の顔を思い浮かべて作ったのだろうか…。
あの時の私は無意識にニコラ様のことを思い浮かべて作っていた。
当主様が私の料理を下げるのは当然の結果だ。
(私のことはどうでもいい、ニコラ様に恥を欠かせたくなかったのに全然駄目だった…)
後悔といたたまれなさが押し寄せて来る。
ニコラ様は私のことを庇ってくれたのに。
彼にどんな顔をすればいいのだろうか。
それに夫人との約束もある。
約束に破れた私はニコラ様と離婚させられてしまうかもしれない。
夫人はニコラ様と他の令嬢を結婚させたがっていた。
彼女はきっと実行に移すだろう。
そうなると私はニコラ様とは夫婦ではなく、他人になる。
もう二度とあえないまま。
ズキッと胸が痛むのを感じる。
悲しさが心に広がる。
私はこの悲しさと、苦しさを知っている。
私は…────。
「セシリア嬢!」
名前を呼ばれて立ち止まり、振り向くとそこには慌てて駆け寄るグレン様の姿があった。
「すまない。父上がきみに失礼なことを言ってしまって…。せっかく君がつくってくれた物にも関わらず…」
「いえ、大丈夫です。当主様が仰られたことは本当のことですので、お気になさらないで下さい」
グレン様に誤魔化すように私は笑う。
だけど上手く笑えているのか分からなかった。
当主様に認めて貰えなかったことが悲しいわけではない。
ニコラ様と離れるかもしれない悲しみが心を蝕んでいた。
「泣くのを我慢しなくて良いんだ」
グレン様は私を見て苦しそうな顔をする。
何故彼がそんなことを口にしたのか分からない。
「どうして、そのようなことを…」
「きみ泣いているだろう…」
「え…どうして涙が…」
気づくと私の瞳から涙が零れ落ちていた。
自分でも気づかないうちに泣いてしまっていたのだ。
そんな私を見てグレン様は苦しそうな顔をして突然私を抱きしめた。
抱きしめられた私は驚く。
「あ、あの…グレン様…!」
どうして抱きしめられているのか分からない。
だけど彼は私を抱きしめる力を強く込めた。
「僕だったらきみを絶対に悲しませない。そんな苦しそうな顔なんてさせない」
「グレン様…何を言って…」
「僕は昔からずっときみのことを想っていたんだ」
グレン様の言葉に私は内心驚く。
(私のことを…?だって、私とグレン様が初めて出会ったのはつい最近のことだ。それが何故……)




