本当の気持ち。
「お前の妻であるセシリア嬢が作ってくれた料理を下げさせたのは意味がある」
「意味ですか…」
「ああ。そうだ」
当主はニコラに視線を向け、静かに告げた。
「あの料理な私ではなく、お前に向けて作られた品だ」
「どういうことでしょうか?セシリアは父上の為に今日の夕食を作ったと聞いております。それがどうして私の為になると言うのですか?」
ニコラは父親である当主の言葉の意味が分からなかった。
セシリアは確かに父親に認められるように料理をした。
それが何処に自分の為に作られた料理だというのだろうか…。
「味だ」
当主はそう告げたあと、再び口を開いた。
「彼女が作ったキッシュやスープの数々の品は塩、素材の味を利用したものが多く使用されていた。お前は昔からそういう類の物をよく好んで食べていただろう。だから彼女は無意識のうちにお前好みの味付けにしていた。美味だったが、私の好みに合わなくて当然だ。あれはお前のために作られていた料理だからな」
「セシリアが…」
セシリアがニコラの元に嫁いでから彼女は料理長に料理を習いながら、たまに食事を何品か作るようになった。
そこには彼女が育てた家庭菜園の野菜料理が並び、毎日ニコラが好むような優しい味付けをされていた。
毎日彼女の料理を食べているうちに気づかなかったが、確かにセシリアはニコラの好む味の料理を作っていた。
それがいつの間にか当たり前になっていただけ。
料理でも彼女はニコラのことを思っていた。
そんな今更なことに気づかされるとは…。
ニコラは自分の胸が熱くなるのを感じた。
「だからこそ、私は彼女の料理を下げさせた。お前が口にすべきものだと思ったからだ」
当主はニコラに対して穏やかな表情で告げた。
「彼女の料理を目にし、口にした瞬間、私は彼女のことを認めている。彼女こそがお前の妻に相応しいだろう。何せ主人の為の料理を作れるからな」
ニコラは今まで父親に対して自分は興味を持たれていない存在だと思っていた。
彼が興味を持つのはいつも兄のグレンばかり。
正妻の子供である自分は父に期待して貰えない不要な物だと思っていた。
父親から期待されなくとも良い。
自分のことを見ている兄がいれば、それだけで良いと思い、兄に家督を全て譲るつもりでいた。
だが、この瞬間だけは違った。
自分が認められたわけでも。
ましてや称えられたわけでもない。
彼が心から愛した彼女を父が認めた。
それだけでニコラの心を満たすのは充分だった。
「父上、申し訳ありません。失礼します!」
ニコラは居ても立ってもいられない気持ちで、急いで食堂を後にし、セシリアの後を追い掛けた。
彼女が兄の初恋の人だから兄に渡す。
彼女が幸せなら自分は身を引くべきだ。
もう、そんなのどうでも良い。
セシリアは俺が幸せにする。
好きになるのに、愛を知るのに、あとも先も関係ない。
彼女の隣には自分が居たい。
彼女が涙を流すのなら、その涙を自分が拭ってやりたい。
こんな気持ちになったのは彼女が初めてだ。
もう、誰にも渡したくない。
例え、それが信頼における兄でもだ。




