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調理場の城。

トントントン。

キャベツを刻むこいきの良い音がする。

私は刻み終わったキャベツを他の野菜と混ぜてサラダにし、それを皿に盛り付けた。

さらにサラダの隣に焼き上がり、すでに切り終えていたキッシュを置いて特性のソースを掛けた。


「できた!」


私はほっと胸を撫で下ろす。

何とか夕食前に料理は完成した。

私が作ったのはキッシュだけではなく、ミネストローネ、ステーキなどの肉料理も用意した。


これでアルジャーノ家の当主様の胃袋を掴めるかどうかは分からないけれど、やることはやった。

後は判断が下るのを待つばかりだ。


「若奥様。お料理は終わりましたかな?」


料理長は私に近づき、そう声をかけて来た。

私は彼に笑顔で答える。


「ええ。後はお出しするだけです」

「そうですか。では、後は我々が運びますので、お戻りになられて結構です」


「ありがとうございます。ですが調理器具の片付けがまだなので、こちら片付けてから退出させて頂きますね」


「そのようなことならさず結構です。後は我々がしておきますので」


「いえ、後片付けも料理のうちの一つです。それにあなた様達の大切な城に入らせて頂き、場所を貸して頂いたのです。後片付けも感謝を込めてさせて下さい」


料理人にとって調理場は自分達の大切な場所で城そのものだ。

だからこそ私は敬意を込めながら、大切に調理器具の後片付けをしたい。

そう思っていた。


私の言葉にふはっと吹き出したように料理長が笑った。


「アンタ、貴族にしとくのに勿体ないな」

「料理長!若奥様にしつれいですよ!」


料理長を若い料理人が窘めるように言う。

その光景に私は首を傾げた。


「そんなにおかしなことを言いましたか?以前、旦那様のお屋敷でも似たようなことを料理人から言われたことがあるのですが…」


「そりゃあ、そうだろう。貴族ってものは趣味程度に料理する奴もいれば、後片付けなんて全部使用人に任せるもんだしな。こんなこと言われたのは若奥様が初めてだよ」


「わ、若奥様!申し訳ありません!料理長は悪気はなく。このことは出来れば奥様にはご内密に…」


若い料理人は慌てて私に謝る。

きっと彼は料理長のことを尊敬しているのだろう。

彼からそんなふうに感じ取られた。


「そんな大丈夫ですよ。私はアルジャーノ夫人に言うつもりはありませんので」


笑って言う私に彼らは私がお義母様と呼んでいないことに一瞬疑問を感じた顔をしたが、すぐに苦笑を浮かべた。


「ありがとうございます。では、料理は自分達が運びますので」

「分かりました。ではお願い致します」


私は彼らにそう言って調理場の流し台に行き、使った調理器具を洗い始めたのだった。


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