私のやるべきこと。
せっかくグレン様が厨房を使わせてくれるように料理長に口利きしてくれたんだもの。
有効活用しないと。
そう思い、私はノックをしてからそっと厨房のドアを開ける。
「し、失礼します…」
覗き込むように、おずおずと入る私に気づいた20歳ぐらいの赤毛を後ろに1つに纏めた快活な女性が私に近づき、迷惑そうな顔をした。
「申し訳ありませんがお客様。勝手に厨房に入られては困ります。今料理の仕込み中なので…」
「あの私は…」
女性は私のことを客人だと勘違いしていた。
私は女性に説明しかけていると、途中年配の男性の声に遮られた。
「シアン。このお方はニコラ様の奥様だ。あと、厨房の出入りはワシが許可した。グレン様に頼まれてな」
「料理長…。でも調理場良いのですか…。屋敷の方は基本入らないのでは…」
「グレン様の頼みなら仕方ねぇよ。あの方には恩があるからな。奥様、うちの者が無礼をしてしまい、申し訳ありません…」
「そ、そんな…!急に押しかけて来たのはこちらなのですから、謝らないで下さい。厨房を使わせて頂きましてありがとうございます」
慌てて言う私に年配の男性…料理長は「こちらです」と言い、私を奥の厨房に案内する。
案内された厨房は綺麗に整理された場所で近くに野菜などが近くに置かれていた。
「地下室にある保冷庫に肉などもありますので、もし、必要でしたら遠慮なくお申し付け下さい。あとお手伝いも必要でしたら、我々が手伝わせて頂きます」
貴族は自分で料理をする人はいない。
殆どは料理人が作るからだ。
稀に趣味程度で作る人は存在するかもしれないがその程度だ。
だから料理長は私を気遣って言ってくれたのかもしれない。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。手馴れていますので」
「そうですか。なら、私は奥で作業していますので、何かありましたら声を掛けて下さい」
そう言って料理長は奥に行ってしまった。
ふと懐かしくなってしまう。
ニコラ様の屋敷に来た時も初めて使用人達とそんなやり取りをした。
あの時はまだ信用してもらえていなくって。
だけど屋敷で過ごすうちに少しずつ皆と打ち解けて、信用してもらえるようになった。
今では私の大切な場所となりつつある。
ニコラ様の屋敷では贅沢は許されなくて、料理の殆どが庶民と同じ料理だ。
貴族が口にする料理は肉、高価な穀物が多い。
それも豪華な食事。
(肉料理を作るのは久々だな…)
そう思い、私は調理台の近くに置いていたレシピに視線を向ける。
これでアルジャーノ当主様の胃袋を掴めるかどうかは分からないけれど、やるしかない。
(よしっ!)
私は近くにあったレタスを手に取り、意気込んだ。




