信じ、信じられること。
グレンの言葉にニコラは苦しそうに顔を歪める。
セシリアが泣いていた…?
もしかして、自分がセシリアにわざと冷たくし、彼女と距離を置こうとした時のことか…。
あの時、セシリアはニコラに対して悲しそうな顔は一切せず、気丈に振舞っていた。
本当はセシリアはあの時、傷ついて泣いていたとしたら…
自分はセシリアになんと言うことをしてしまったのだろうか…。
ニコラの中で後悔がふつふつと膨れ上がる。
「僕はもう一度、母上に進言して来る。やってもいないことに罪を着せられて、条件までつけさせられた勝負をさせるなんて馬鹿げている」
グレンの言うことは正しい。
正論だ。
普通ならば彼女を護る為にあの馬鹿げた母親の言葉をねじ伏せてでも止めるべきだろう。
だけどセシリアは今まで過酷な状況の中、自分の力で何とかしようと足掻いていた。
その度に彼女の暖かな優しさと起点の良さに何度も救われて来た。
なら、自分が今すべきことは……。
「待ってくれ」
ニコラの静かな言葉に今から義母の愚行を止めるべくその場から立ち去ろうとしたグレンの足を止めた。
「止めなくて良い。彼女の好きにさせてくれ」
「は?お前は自分が何を言っているのか理解しているのか?」
グレンはニコラに対して理解できないような呆れた視線を向けた。
無理もない。
自分が逆の立場なら兄と同じ態度を取るだろう。
だが…。
「俺も同じで母上の愚行に苛立っている。だけどセシリアが大丈夫と言ったのなら、俺は彼女を信じる。ただ護ってやることが愛情と同じだと言うのなら、信じて待つことも愛情と同じく彼女への信頼になると俺はそう思う」
「……………」
ニコラの言葉にグレンは押し黙った。
兄に自分の思いが伝わったのかは分からない。
だけど自分からセシリアへの想いは愛情だけではなく、信頼だ。
自分は彼女のことを心から信じている。
だからこそ、勝負を止めない選択肢を選んだ。
だが、母親とセシリアを陥れた侍女をこのまま野放しにするつもりはないが…。
グレンは短い息を吐き、呆れたようにグレンに言った。
「わかった。お前がそう決めたのなら僕はもう何も言わない。だけど、母上の件は当主に報告させてもらうよ」
「ああ。俺も不問にするつもりはないからな」
グレンは何も言わず、その場から去って行った。
一人になったニコラは苛立ちを含めながら呟く。
「俺の妻を陥れた奴は誰であろうと許さない…」
彼は自分でも気付かぬほど苛立ちを募らせていた。
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「ここが厨房…大きいわね…」
目の前のドアの前にプレートが掛けられていた大きなドアの前に私は一人立ち尽くしていた。
グレン様と別れたあと、レシピを手にした私は屋敷の厨房に来ていた。




