宣言布告
「どうかされたのですか?」
真剣な顔で自分を見るグレンに対してニコラは言った。
そんな彼にグレンは近づき、彼に静かに告げる。
「セシリア嬢が当主に食事を出すことになった」
「!」
ニコラはグレンの言葉を聞いて顔色を変えた。
自分の父親であるアルジャーノ家の当主は美食家であり、食に煩い男だ。
仕事先の相手から食事に連れて行ってもらった際に食事が自分の口に合っただけで取引を決めてしまうような男だ。
セシリアが料理を作るということはアルジャーノ家の嫁としての試練を課されるということ。
当主の口に合えば嫁としてみとめてもらえる。
逆に失敗知れば認めてもらえるどころか、冷たく冷遇される可能性だってあらゆる。
当主である父は基本温厚な人物だが自分の拘りを徹底している。
セシリアをこの屋敷に連れて来たのはかりそめだとしても自分の妻だと父に顔を見せて、その後は父と接触をさせず、領地に帰る予定だった。
彼女を領地に引っ込めれば父の介入なく、アルジャーノ家の嫁としての重荷を背負わせることはなくなると思っていた。
アルジャーノ家の嫁は時期当主の妻になる者で良い。
もしセシリアがグレンと結ばれることがあればニコラは父のことをどうにかするつもりでいた。
「どうして、そんなことになっているんだ!セシリアは確かに俺の妻だが同時に客人としても扱われるはずだ」
グレンは額に手を当て、忌々しそうに呟く。
「母上の仕業だよ。母上はセシリア嬢を嫌っているからね。父上の目の前で食事を作らせて、アルジャーノ家から正式に追い出し、ニコラと離縁させようとしているんだ。さっきもセシリア嬢を虐めていたしね」
「それはどういうことだ?」
「セシリア嬢が母上の侍女を虐めていたのだと言いがかりをつけていたんだよ。それに彼女専属の侍女をすぐに外している。実質彼女は侍女達に世話をして貰えず、馬鹿にされて、侮られていたんだ。健気に耐えていたよ。一人でね…」
「セシリアが…」
ニコラは顔を歪める。
セシリアに護ってやると言っておきながら、全然護れていないことを後悔する。
分かっていたはずだ。
こんな時、セシリアは人に迷惑を掛けることを嫌い、一人で何とかしようとする女性なのだと。
初めてセシリアと出会った頃、自分は彼女に随分と冷たい態度を取ってしまった。
他の令嬢なら泣いて逃げ出したのかもしれない。
だけど、セシリアはそうはしなかった。
ニコラの予想を超える行動で周囲を味方につけ、問題があった村人達とニコラの軋轢を解決させて、ニコラに寄り添い、暖かな優しさを与えてくれた。
彼女のお陰でニコラは変わることが出来たのだ。
「料理の件についてセシリアは何と言っているんだ…」
「あの子は作るつもりだ。その為に今厨房にいる」
「そうですか…」
素っ気ないニコラの言葉にグレンは苛立ちを覚え、強い口調でニコラに言った。
「お前は彼女が心配じゃないのか!セシリア嬢はこの屋敷に来てから悲しい顔ばかりする。それにお前はこの前セシリア嬢を泣かせたな!お前がそんな態度だともう遠慮はしない。僕が彼女をもらう!!」




