認められないもの
私は侍女達の方を振り返りにっこりと微笑んだ。
「アルジャーノ家の使用人の方達は働き者なのですね。手より口を懸命に動かすなんて」
「なっ…!なんてことを言うのよ。アンタ!」
私の言葉に侍女の一人が苛立ち、私に強く言い返した。
私が何も言わずにただただ悲しむだけと思っていたのだろう。
悪いけれど、もうそんなことはやめた。
私は今はニコラ様の妻。
例えお飾りとはいえ、彼が選んだ妻はただ黙って悲しみにくれる女性では無いはずだ。
「いえ、ただ関心していただけです。ニコラ様のお屋敷の使用人の方達は口ではなく、手を動かすばかりでしたので。お陰で屋敷はピカピカに綺麗なのですが」
「何よ!所詮没落貴族の可哀想な女がニコラ様に言い寄って妻の座についたんでしょう?良かったわね。同情してもらえて。だけど、誰もアンタなんかニコラ様の妻だと認めてないわ」
「ちょっと、辞めなさいよ。これ以上言うとクビになるわよ」
「平気よ。だって、この女奥様からニコラ様の妻だと認められていないじゃない」
(分かってはいたけれど…使用人達から認められるどころか底辺に見られていたのね…)
侍女になる者の殆どは貴族令嬢が多い。
侍女としてそれなりに社会経験を学び、婚約者の元に嫁ぐ者もいる。
稀に庶民から侍女になって、そのままずっと仕える者はいるが基本はそうだ。
「確かに私は奥様から認められていません。だけどニコラ様は私を選んでくれました。それが全てです」
私は真っ直ぐな目をして彼女達に告げた。
私の言葉に侍女達はぐっとした悔しそうな顔をして押し黙った。
「そこで何をしているの?」
上品で嫋やかな声と共に私達の目の前に現れたのはアルジャーノ夫人だった。
「奥様!実は若奥様が私達の仕事が手緩いとか言い出して、突然怒ってしまわれたのです。それで暴言を言われてしまって…」
「私もこの目で見ました!彼女が言っていることは本当です!」
「違います!私は…」
侍女達は結託し、アルジャーノ夫人に嘘の情報で私を陥れようとしていた。
彼女達は悲しそうに泣く振りをしながら、私をチラッと見てニヤリとほくそ笑んだ。
アルジャーノ夫人は自分の侍女を信じるだろう。
彼女は私とニコラ様を離縁させたいのだから。
アルジャーノ夫人は私を冷たく値踏みしたあと、私に一歩近づいた。
「ねぇ、セシリアさん。あなた料理がお得意なんですってね。ニコラの屋敷の執事から聞いたことがあるの。私の侍女達の仕事が手緩いと言うのなら、今夜の夕食あなたが作って下さらないかしら?そうしたら私の侍女達を虐めたことを不問にしてあげても良いわ」
「アルジャーノ夫人…。私はそのような言葉を言っておりませんし、間違ったことは何一つした覚えはありません」
私は怯むことはなく、アルジャーノ夫人を目を見つめてハッキリと告げた。
ここで臆してはならない。
そうではないと私はきっと後悔する。
「あなたの意見なんてどうでもいいの。私の問いの答えに答えてくれるかしら?」
きっと彼女は私を追い出したくて仕方ない。
だからアルジャーノ家の家族全員が集まる中で私に料理を作らせて恥をかかせたい。
それだけだ。
「ちょっと待ってください!」
突然グレン様は現れて、私とアルジャーノ夫人の間に入り、私を庇うようにしてアルジャーノ夫人をギロッと睨んだ。
「これは、どういうことでしょうか?説明して頂けますか」




